名勝負 1963 第1回日本GP 【1963】

欧州の強豪を置き去りにしたフェアレディの完全勝利

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ライバルはトライアンフ&MG B!

 日本でモータースポーツの興奮を伝えた1963年5月の第1回日本グランプリで、優れたパフォーマンスを実証したのがフェアレディ1500(SP310型)だった。SP310型は1961年秋の東京モーターショーに参考出品され、翌1962年10月に市販を開始した日産初の本格スポーツカーである。ブルーバード310型のシャシーにセドリック用1.5Lユニット(71ps)を組み合わせ、ボディは低くスタイリッシュなオープン。SP310型は、ムード派だった初代フェアレディとは異なり、パフォーマンス面でもMGやトライアンフといった欧州のライバルを射程距離に収めていた。

 鈴鹿サーキットで開催された第1回日本グランプリは、フェアレディの高いポテンシャルを実証するのに最適の舞台だった。第1回日本グランプリは合計11ものレースが行われたが、フェアレディが出場したのは「国内スポーツカー1300〜2500ccクラス」。トライアンフTR4&TR3、MGB,ポルシェ356,フィアット1500Sといった強豪マシンが顔を揃える激戦区だった。

輸出仕様パーツでチューンアップ

 第1回日本グランプリは各メーカー間でワークス活動を行ってはいけない取り決めになっていた。その関係で出場した16台はすべてプライベート。フェアレディは後にニッサンスポーツカークラブの会長となる田原源一郎氏がエントリーしていた。とはいえゼッケン39番の田原選手のフェアレディは,相当なチューニングアップを図っていた。

 エンジンは標準のシングルキャブ仕様から,輸出仕様と共通のツインキャブ(80ps)に変更され、4速トランスミッションのギア比もクロースレシオを採用。足回りも低く固められ、高いコーナリング性能を実現していたのだ。スタイリング面でもウインドシールドを低くカットし、ヘッドライトを黒く塗るなど精悍な印象にまとめていた。モータースポーツや,チューニングアップに対して極端に情報が乏しかったなかで、的確にフェアレディの実力を引き上げた田原氏の手腕はさすがだった。また形式的にはプライベートとはいえ、マシンの仕上げに対しメーカーが協力したことも確かだった。そうでなくてはいかに熱心なマニアでも、輸出仕様のパーツを入手することも不可能な時代だったのだ。

予選3位からの快走

 田原選手の予選タイムは3分17秒8で3位。1位は発生川選手のトライアンフTR4(3分15秒1)、2位も矢島選手のトライアンフTR4(3分17秒3)だった。ちなみに同レースにスカイラインスポーツで参戦した生沢選手は10位(3分26秒5)のタイムに終わっている。
 5月3日の決勝レースは,フェアレディの独壇場だった。田原選手はスタートからトップに立ちそのままリードを築く。2周目にグランドスタンドに戻ったときには2位に50m以上の差をつけていたのだ。コーナリングスピードも、当時クラス最速と評判だったMGBを大きく凌ぎ、ストレートでのスピードの伸びも2.0Lエンジンを積むトライアンフ勢に負けなかった。スタートでトップに立った田原選手は、15周のレースで一度もトップの座を明け渡すことなく完全勝利を飾る。

 レース後、他の参加者から田原選手のフェアレディがレギュレーションに適合していないのではないかという抗議が提出された。抗議は輸出仕様に倣ったチューニングということで却下されたが、抗議が出るほどフェアレディの速さはライバルを圧倒していたのだ。1.5Lのフェアレディが2.0Lのトライアンフや1.8LのMGB、1.9Lのスカイラインスポーツなどのライバルすべてを寄せ付けなかったのである。周囲が驚くのは無理のないことだった。

GPの勝利がフェアレディの進化を促進

 レースでの完全勝利は、フェアレディ310型の卓越したスポーツポテンシャルを見事に実証する。メーカーはレースの勝利を受け、日本市場向けの市販モデルもレース仕様と同様の輸出仕様と共通にすることを決定。エンジンをSU型ツインキャブと吸入抵抗を減らしたインテークマニホールド、強化型バルブスプリングなどで最高出力を80psに強化。セドリックと同じレシオだった4速トランスミッションも加速に優れたクロースレシオに変更した。この結果、フェアレディSP310のパフォーマンスはトップスピード155km/h(従来は150km/h)、0→400m加速タイム18秒前半(従来は20.2秒)と世界トップクラスに向上した。フェアレディは、第1回日本グランプリでの完全優勝を契機に、生粋のサラブレッドの道を歩み始めることになったのである。フェアレディの成長は、世界を舞台に急発展を遂げる日本の象徴ともいえた。