i-MiEV 【2009〜】

地球環境に優しいキュートな先進EV

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世界初の量産EVの誕生

 2006年10月、三菱自動車は純粋な電気自動車である三菱i‐MiEVの開発開始を発表した。しかし、実際に走行可能な電気自動車であるi‐MiEVが売り出されるまでには、この発表からさらに3年の時間が必要だった。完成度の高い世界初の量産EVを生み出すには相応の準備と開発期間が必要だったのである。三菱i‐MiEVの車名は、Mitsubishi Innovative Electric Vehicle(三菱の先進的電気自動車)のイニシャルに由来する。

 三菱i‐MiEVの成り立ちは、2003年のIAAフランクフルトモーターショーで発表され、2006年1月から販売を開始した同社の新型軽自動車、三菱iをベースとしている。三菱iのボディやサスペンションを全面的に改良、強化して電気自動車に仕立て直したモデルだ。三菱iが開発段階にあった2000年代初めのころは、ドイツのダイムラー クライスラー社(現・ダイムラー社)と提携関係にあったため、三菱iにはメルセデス・ベンツの技術的なノウハウが積極的に生かされていた。三菱iのスタイリングが日本車らしからぬ、垢ぬけた感じがするのはそのためだろう。車体寸法は軽自動車規格ながらホイールベースが2550㎜と長く、全長3395㎜、全幅1475㎜、全高1600㎜となっており、前後オーバーハングが極端に短い独特のプロポーションを持っている。ボディバリエーションは4人乗りの5ドアハッチバックセダンのみ。

MRレイアウトをベースにEV機構を搭載

 すでに軽自動車の三菱iとしてクルマの骨格はできあがっていたため、電気自動車へのコンバート自体は比較的スムーズに進められた。三菱iは独自開発による排気量659㏄の直列3気筒DOHC12VターボならびにNAのガソリンエンジン付きの軽自動車として、基本的なレイアウトはリアミッドシップエンジン(後車軸より前にエンジンを置く)、リアドライブとなっていたから、電気自動車となってもその動力源となる電気モーターはリアミッドシップとされた。EVのパワートレーンは、ガソリンエンジンより小さいため、室内スペースを犠牲にすることもなかった。

 直列3気筒DOHCガソリンエンジンと置き換えられた電気モーターは、永久磁石式同期型(Y4F1型、出力64ps/3000~6000rpm、Kw換算47Kw/3000~6000rpm)のユニット。搭載されるバッテリーはリチウムイオンバッテリーで、キャビン部分の床下に置かれる。バッテリーユニットの総重量は200㎏以上に達する。ガソリンエンジン車には必須となるトランスミッションはなく、電動モーターの回転を減速するギアとデファレンシャルギアを一体化したギアボックスが備えられ、後2輪を駆動している。サスペンションはベースとなった三菱iと同じ形式で、前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後が3リンク ドディオン/コイルスプリングとなる。無論、足回りは車体重量の増加に対処して、大幅に強化されている。車体重量は1100㎏と軽自動車としては決して軽くはないが、電気モーターの特性を生かした制御システムにより、性能は十分以上のレベルに達していた。

日常ユースに十分な航続距離を確保

 バッテリーを満充電にした場合の航続距離について、メーカーである三菱自動車では、通常の市街地走行を想定した場合でエアコンを使わなければ走行距離は120㎞、エアコンを使った時には100㎞に下がり、寒冷時にヒーターを使った場合では80㎞程度になるとしている。一般的なガソリン車と比較すると航続距離は短いが、当時の電気自動車(EV)としては優秀な性能だった。日常ユースには十分な航続距離の持ち主だ。

 バッテリーの充電については、クルマに充電器が内蔵されており、通常の100V家庭用電力からも、単相200V電源からも充電は可能である。バッテリーが残量ゼロの状態から満充電までは100V電源でおよそ14時間、200V電源では7時間を要する。一方、急速充電器を使った場合では、80%充電まで30分としている。

プジョーシトロエンにi-MiEVをOEM供給

 三菱i‐MiEVが内燃機関を併せ持つハイブリッド車とは異なり、使う電気エネルギー全体を考えれば完全ではないが、少なくとも走行中に排出ガスを一切出さないゼロエミッション車を実現している。この事実は、そうしたシステムを持たないメーカーからはかなり魅力的だったようで、フランスのPSAプジョー シトロエン グループは、2009年3月に三菱自動車との共同事業の契約を締結し、ヨーロッパでのEV普及に力を注ぐことになった。i‐MiEVをベースとしたiOnと名付けられたモデルをPSAプジョー シトロエン グループがヨーロッパ市場で販売するのである。これはほんの一例だが、日本国内でも公用車やタクシーに導入している自治体や会社も多くなってきており、EV社会は確実な広がりを見せ始めている。

 電気自動車(EV)は、19世紀末から20世紀初頭の時代に大ブレークしたことがある。世界で初めて時速100km/hを超える速度で走ったのは、ジャメ・コンタント(Le Jamais Contente)という名の電気自動車であったし、取扱いが簡単で音も静かなことから、T型フォードが登場する以前のアメリカでは電気自動車が大流行していた。また、あのDr.フェルディナンド・ポルシェが初めて自分で設計製作したレーシングカーは、ホイールインモーター(車輪の中に電気モーターを仕込んだシステム)の電気自動車だった。つまり、電気自動車(EV)は新しいものではない。およそ100年の時間を経て、人々の関心は再びEVに向いている。今後の解決しなければならないことは、長距離走行を可能にする容量の大きく高効率のバッテリーの開発と充電のためのインフラストラクチュアの充実。これが揃えばEVは完璧なものとなる。