インスパイア 【1998,1999,2000,2001,2002,2003】
米国開発・生産のインポート上級サルーン
1998年10月に登場した3代目のインスパイア(そして兄弟車のセイバー)は、生粋のワールドカーだった。開発を担当したのは、ホンダの米国拠点「ホンダR&Dアメリカズ」。生産も米国オハイオの「ホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチャリング」が行い、日本には輸入車として上陸した。
3代目インスパイアがデビューした1998年当時、日本では上級パーソナルモデルに新たな価値が求められていた。それは上級車にユーザーが求めるものが変化したからである。かつては余裕ある走りや快適性、豪華な装備が上級車の最大価値だった。しかし、もはやそれだけではユーザーは満足しなくなっていた。ユーザーは、上級車だからこそライフスタイルを一段とアクティブに変えるプラスαの付加価値や、そのクルマ固有のブランド性を求めるようになっていたのだ。上級車市場を牽引する存在は、ステーションワゴンやSUV、さらにメルセデス・ベンツやBMWといった輸入車に変化した。
インスパイアがアメリカ開発&生産のワールドカーに変身したのは、ホンダの緻密なマーケティングの結果だった。アメリカ開発・生産という新たな手法を採用することでホンダの国際性を表現し、個性を際立たせたのである。インスパイアのアメリカ名称は「アキュラTL」。もともとホンダの高級車ブランド、アキュラの主力車として開発されただけに、目の肥えた日本のユーザーを満足させる高いポテンシャルを持っていた。しかも為替の関係もあって、アメリカから輸入する方式を採用しても、車両価格などの面で不利になることもなかった。
インスパイアの開発コンセプトは「ツーリングラグジュアリーセダン」。ロングドライブでも持続する走る歓びと、上質な居住空間によるユーザーに高い満足感をもたらす新世代のセダンを目指した。
スタイリングはアコードを一段と端正にした印象とともに、アメリカ生まれらしい伸びやかさを感じさせる先進キャビンフォワード造形。全長4840×1785×1420mmのボディサイズは先代モデルと共通に抑えられ、日本の道路でも持て余す心配のないミディアムサイズでまとめられていた。
走る歓びは、クラストップレベルの実力を秘めた2種のV6ユニットで実現する。上級版の32Vは排気量3210cc(225ps/5500rpm)、ベースモデルは2496cc(200ps/4600rpm)のバンク角60度のV6/SOHC24Vを搭載。ホンダ独自のVTEC機構を組み込むことで高出力と豊かなトルクを実現していた。しかも軽量化にも徹底的にこだわり、32Vでは旧型と比較して40kgもの軽量化を実現。良好なハンドリングに大いに貢献した。ちなみにトランスミッションは、両グレードともにシーケンシャル式マニュアルセレクトが可能な4速オートマチックである。
上質な居住空間は、ドライバー側に最適な角度で傾けたセンターコンソールとラウンジシェイプを持つスポーティーインパネ造形、そして吟味した装備類がセールスポイントだった。アメリカンデザインらしい華やかなパーソナルイメージの漂う室内空間は、広々とした印象で、大人4名でのロングクルーズも楽だった。装備は充実しており、全車に本革&木目調のコンビステアリング、BOSEサウンドシステム、花粉フィルター付きオートACを採用。32Vでは運転席パワー調節機能付きの本革シートやDVDナビゲーションシステムも標準アイテムに加えられた。安全面でも一歩先を行っており、夜間の視認性を向上させるディスチャージライトをはじめ、前席両側SRSエアバッグ、ABSを全車に装備する。
3代目インスパイアは、ボディ剛性をクルマの走りを左右する大切な基本性能として捉えていた。路面状況に左右されないフラットな乗り心地、コーナーを抜ける際のシャープな操舵フィール、くつろぎを演出する静粛性の実現には、なによりもしっかりとしたボディが必要だと開発陣は気づいたのだ。インスパイアは基本段階からボディ骨格を骨太に設計する。同時にバランスよく各部を補強することで、旧型モデルと比べねじり剛性で70%、曲げ剛性は80%も向上した。まさにクラス最高水準のしっかりボディである。ねじり剛性はハンドリング面、曲げ剛性は静粛性や乗り心地面で大きな影響を与える要素。3代目インスパイアは、双方を大幅にレベルアップすることで、上級サルーンらしい完成度を実現した。
インスパイアの価格は32Vが323万5000円、25Vは263万5000円。25VにDVDナビゲーションを装備した25NAVIで289万5000円。パフォーマンスや装備、そして輸入車であることを考慮すると望外なバーゲンプライスといえた。インスパイアは大人の味わい楽しめる良質なサルーンとして、熱烈なホンダファンの支持を集めた。