チェイサー 【1980,1981,1982,1983,1984】
ストレート6ユニットを搭載したアクティブサルーン
チェイサー(追跡者)という名を持つ、日本市場でのアッパーミドルクラスのモデルが最初にデビューしたのは、1977年6月である。チェイサーは、マークⅡおよびクレスタ(1980年3月デビュー)と基本的なシャシーコンポーネンツを共用する兄弟車でもあった。ちなみに、チェイサーには狩人の意味もあり、そのため、チェイサーのエンブレムは狩猟のための弓矢を図案化したものとなっていた。
1980年代の日本社会は、豊かな時代だった。工業製品生産は拡大の一途を辿り、経済的に大きく発展しようとしていた。中でもクルマは生活の中心に位置する存在になり、市場はアッパーミドルクラスのモデルをメインに大きく発展する。クルマの販売台数を拡大するためには、販売拠点となる販売店系列の整備と多数化は必須となり、各メーカーは全国規模で販売店系列の拡充を図った。
当時トヨタは、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、オート店、ビスタ店(1980年創設)など5系列もの販売チャンネルを組織していた。ディーラーによって、販売する車種をきめ細かく分け、さらに車種構成を増やし、モデル数を多く見せることは、販売戦略上極めて重要なことであった。ユーザーは「マークⅡではない個性的なマークⅡ」を求める傾向が強くなっていた。
こうした背景の下、基本的にはマークⅡと同一のシャシーコンポーネンツを用いながらも、目に見える内外装のデザインを変更して、別系列の販売店で売る戦略が用いられた。これは、バッジエンジニアリングと言われる手法であり、アメリカや英国をはじめとするヨーロッパ諸国ですでに広く行われていた販売方法である。メーカーとしては生産コストの低減を図ることが可能となり、ユーザーにとっては各々のモデルを全くの新型車として受け入れることができる点が利点だった。
チェイサーは、マークⅡの兄弟車として登場した。マークⅡがトヨペット店系列の取り扱い車種であったため、オート店系列のマークⅡ代替え車として位置付けられていた。具体的には、マークⅡがどちらかと言えば中年世代向けとなっていたこともあり、独自性を出すためにユーザーターゲットとしては、マークⅡよりはやや若年層を狙ったものとされた。スポーティーさと走りの良さをアピールポイントとし、直接的なライバルは日産スカイラインだった。
1980年10月に兄弟車であるマークⅡがフルモデルチェンジして第4世代となったのに伴い、チェイサーも第2世代となった。ボディバリエーションからは2ドアハードトップが消滅し、ボディタイプは4ドアハードトップとセダンの2種になっている。販売が伸び悩んだというのが2ドア系中止の理由だった。これには、アッパーミドルクラスのモデルが、折からのハイソカーブームにより、パーソナル性よりも快適な移動がセールスポイントになったこととも無関係ではなかった。やがて、この傾向はミニバンやSUVなどの大流行へと繋がる現象でもあった。
2世代目となった60系チェイサーでは、ボディスタイリングこそ直線を基調とした比較的地味なものだったが、エンジンの性能向上やサスペンションのハード化など、従来からのスポーティー指向はさらに高められていた。1980年3月にビスタ店系列の専売車種としてクレスタがデビューしたことにより、落ちついた雰囲気のクレスタとの差別化を明確にするために、スポーティーな味付けをより強固なものとする必要があったからだ。
ユーザーからの高性能モデルを求める要求の高まりに対応して、1982年8月のマイナーチェンジを機に、最高性能モデルとなるアバンテ・ツインカム24がデビュー。このモデルは、排気量1988㏄の直列6気筒DOHC24V(1G-GEU型、出力160ps/6400rpm)エンジンを組み合わせたもので、最適チューンが施された足回りと標準装備されるミシュランXVSタイヤなどの効果で、スポーツカーに匹敵する高い走りの性能を持っていた。セリカやソアラと言った派手なスポーティーモデルに乗ることは心理的に無理があるヤング・アット・ハートなユーザーに好評だった。
駆動方式はフロント縦置きエンジンによる後2輪駆動で、4輪駆動仕様は設定されていない。搭載されるエンジンは多彩を極め、オート店系列で扱われる高級車として幅広いユーザー層をカバーすることができるようになっていた。
1980年のデビュー当初のエンジンバリエーションは、排気量1770㏄の直列4気筒OHV(13T-U型、出力95ps/5400rpm)をベーシックに、排気量1972㏄の直列4気筒SOHC(21R-U型、出力105ps/5200rpm)、排気量1968㏄の直列4気筒DOHC(18R-GEU型、出力135ps/5800rpm)、排気量1988㏄の直列6気筒SOHC(1G-EU型、出力125ps/5400rpm)、さらに排気量2188㏄の直列4気筒SOHCディーゼル(L型、出力72ps/4200rpm)まで5種が用意された。マークⅡではトップグレードとなる2800グランデに搭載された排気量2759㏄の直列6気筒SOHC(5M-EU型、出力145ps/5000rpm)は、チェイサーでは非設定となっていた。
トランスミッションは4速/5速のマニュアルと3速/4速のオートマチックが揃えられた。サスペンションも基本的にはマークⅡおよびクレスタと同じで、前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後ろはグレードによって異なり、2リッターモデルはセミトレーリングアーム/コイルスプリング、1.8リッターエンジンおよびディーゼル仕様、そして一部の2リッターで4リンク/コイルスプリングを採用した。ブレーキは上級仕様では4輪ディスクを装備する。
その後もチェイサーシリーズはマークⅡおよびクレスタとともに、トヨタのアッパーミドルクラスのスポーティーセダンとして中核的なモデルとなっていく。