Sクラス 【1979,1980,1981,1982,1983,1984,1985,1986,1987,1988,1989,1990,1991】

最善を目指した高機能サルーン

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時代の要請に対応した“世界の高級車”の開発

 1973年10月に勃発した第4次中東戦争は、世界中の自動車メーカーに大きな衝撃を与えた。原油価格の大幅な上昇と供給量制限によって、ガソリンおよび軽油の価格は一気に高騰。また、石油由来の原材料の価格上昇が進み、同時に生産時における電気代などのコストも大きく上がった。いわゆる“オイルショック”である。この状況に対し、自動車メーカーは開発の路線変更を余儀なくされる。もちろん、屈指の高級車ブランドであるメルセデス・ベンツも例外ではなかった。Sクラスの次期型を企画していたダイムラー・ベンツの技術陣は、省エネルギーの流れを汲んだ旗艦モデルの開発に鋭意取り組むこととなった。

 開発コードネームを“W126”のフラッグシップ、新型Sクラスは、省エネ対策としてエアロダイナミクスの向上や車重の軽量化、エンジンのダウンサイジング、機構面の高効率化を積極的に進めた。同時に、安全性や耐久性の向上、走行特性の進化、装備類の刷新なども開発テーマに据え、“新しい基準”の高級車の創出を目指した。

空力性能の向上と軽量化を目指した車両デザイン

 車両デザインは、フォーマルな印象を大切にしながら空力性能の向上とボディの軽量化に重点を置く。4ドアセダンの基本スタイルは、後方に行くに従ってウエストラインをわずかに持ち上げつつ、側面を絞り込んでくさび形とし、リアピラーを寝かせたフォルムで構成。そのうえで各パネルの段差を極力抑えるとともに、埋め込み型のレインチャンネルや空気の流れをスムーズ化させたドアミラーを採用して空気抵抗の低減を図った。Cd値(空気抵抗係数)はクラストップの0.36を達成。さらに、バンパー形状の改良によって揚力係数の低減も成し遂げ、優れた走行安定性を実現する。ボディタイプは標準ホイールベース(2935mm)とロングホイールベース(3075mm)の2タイプを設定した。

 軽量化については、使用材レベルから抜本的な対策を実施する。基本材質に高張力鋼板と標準のスチール、アルミ、樹脂パネルを採用。ボディ骨格は頑強な高張力鋼板と標準のスチール材を組み合わせて高い剛性と優れた耐久性を確保する。バンパーやサイドプロテクトパネルはポリウレタンの樹脂パーツを組み込んで車両重量を効果的に削減した。樹脂パーツはボディ保護や空力特性の向上にも貢献する。バンパーは4km/h程度のスピードの衝撃に耐えられる構造とし、同時に高速安定性を高めるエアダムとしても有効に働く形状にデザイン。サイドパネルは跳石などによるボディ下回りの傷つきを防止するとともに、側面の空気の流れのスムーズ化や見た目の安定感の創出などを実現した。ちなみにこのサイドパネルは、W126の車両デザインを主導したチーフデザイナーのブルーノ・サッコにちなんで“サッコプレート”と後に呼ばれるようになる。サッコプレートのアレンジは、1980年代から'90年代初頭にデビューした高級車の多くでそのエッセンスが模倣されることとなった。

人間工学の徹底追及で生まれた室内空間

 インテリアについては、乗員の疲労感の軽減と安全性の向上、そして装備の充実化をメインテーマとして開発される。空間自体はホイールベースの延長やドア内側デザインの工夫により拡大。そのうえで、サポート性と面圧分布に工夫を凝らしたシート造形や高品質な表地、人間工学に基づいたインパネおよびスイッチデザイン、最新の空調システムであるオートマチッククライメートコントロールなどを採用。上質かつ快適なキャビンルームに仕立てた。

 セーフティ機構の面では、衝撃吸収構造のボディ前後部と高剛性のキャビン部を構築すると同時に、ELR機構付き3点式シートベルトやショックアブソーバー内蔵セーフティステアリング、払拭範囲を広げたワイパーブレード(コンシールドタイプ)、セントラルロッキングシステムなどを装備し、最上レベルの安全性を確保する。また、2重密閉式のドアシールの採用やインシュレーターの増強などによって室内の高い静粛性も実現した。

アルミ材を導入したV8エンジンと専用の4速ATを新開発

 W126型メルセデスSクラスの搭載エンジンは、従来の改良版である2746cc直6DOHCガソリンと2998cc直5OHCターボディーゼルに加え、シリンダーブロックとクランクケースにアルミ軽合金を用いた3839cc・V8OHCと4973cc・V8OHCを新開発する。新V8の単体重量は3839ccで約200kg。鋳鉄製ブロックの従来V8ユニットに比べて、45kgあまりの軽量化を成し遂げた。組み合わせるミッションは、コンパクト化と軽量化を果たした新開発の4速ATを導入する。この新ATは制御機構も凝っており、クルマが停止したときは2速のギアでアイドリングしてエンジン負荷を低減。通常発進時は2速、アクセルペダルを強く踏み込むと1速にシフトダウンし、有効な加速性能を発揮する仕組みを導入した。また、Dポジションでは低負荷回転数でシフトアップするようにセッティングし、燃料消費の低減を図った。

 サスペンションはフロントにコイルスプリングの直径を大きくしたダブルウィッシュボーン/コイルスプリングを、リアにセミトレーリングアーム/コイルスプリングを採用する。トレッドは前後ともに従来モデルよりも拡大。また、フロントアクスルはゼロオフセットステアリングジオメトリーにセットした。操舵システムはパワーアシスト付きのボール・ナット式。制動機構には2系統式の4輪ディスクブレーキ(フロントはベンチレーテッド式)を組み込み、先進の安全システムであるABS(アンチロックブレーキシステム)も設定する。

 W126の開発期間は7年あまりに及んだ。その間さまざまな試作やテストを敢行する。気候条件では−40度の極寒から酷暑の熱帯地域までの耐久試験を実施。ドライビングシミュレーターによる安全性の確認も入念に行う。トータルでの実験走行は、300万km以上に達したという。

1979年のフランクフルト・ショーでデビュー

 1980年代に向けた新世代のSクラスは、イラン革命に端を発する第2次オイルショックの最中にあった1979年開催のフランクフルト・ショーで初公開される。グレード名は標準ホイールベースボディがSE(ガソリン)/SD(ディーゼル)、ロングホイールベースボディがSEL/SDLと称し、それぞれの前に排気量にちなむ280/300/380/500の数字が付いた。W126型Sクラスは、メルセデス流の機能的でスマートなスタイルや先進的なメカニズムが注目を集め、デビューと同時に販売台数を大いに伸ばしていく。

 市場での人気に呼応するように、ダイムラー・ベンツはSクラスの装備の充実化や車種ラインアップの拡大を積極的に行う。1980年には先進の安全システムであるSRSエアバッグを世界に先駆けSクラスに設定。1981年になると2ドアクーペボディ(C126)のSECをリリースする。1985年には内外装をアップデートしたうえで搭載エンジンも一新したリファイン版が1986年モデルとしてデビュー。直6エンジンは2599cc(グレード名は260)と2960cc(同300)、V8エンジンには4195cc(同420)と5546cc(同560)を追加設定し、燃料噴射装置には最新のKEジェトロニックを組み込んだ。

日本ではバブル期を象徴する高級車に

 日本への正規導入は1981年にスタートする。当初は280SEと380SELのみの設定だったが、しだいに車種ラインアップを拡充していった。販売台数が大きく伸びたのは、後にバブル景気と呼ばれる1980年代後半。とくに最上級モデルの560SELは、高級外車の頂点として法人、個人オーナーを問わず憧れのマトとなった。またショートホイールベースのボディにパワフルな5ℓのV8ユニットを搭載した500SEは、自らステアリングを握る富裕層に向けたパーソナルモデルとして独自のポジションを構築する。

 日本はもちろん、世界中のマーケットで高級サルーンのベンチマークに位置づけられたW126型Sクラスは、1991年になるとフルモデルチェンジされ、コードネームW140を名乗る次世代モデルに移行する。併売期間を合わせて13年あまりに渡ってリリースされたW126型Sクラスの販売台数は、セダンが81万8063台、クーペが7万4060台、計89万2123台に達した。