ガゼールDOHC RS 【1982,1983】
エキサイティングなFJ20E型を搭載した駿馬
日産自動車がガゼール(GAZELLE=アジアやアフリカに生息するカモシカの一種の名)を車名とするパーソナルなスペシャルティクーペをデビューさせたのは、1979年3月である。このガゼールは、当時日産が販売政策として盛んに採り入れていた、基本的に同一のモデルの車名や細部を変え、異なる販売店系列で販売しようとする戦略のもと誕生した、いわゆるバッジエンジニアリングの1台であった。ガゼールのベース車は、S110系のシルビアで、シルビアがサニー店系列の専売車種であったのに対して、ガゼールはセドリックなどを扱う日産モーター店系列の専売車種となっていた。
ガゼールのメカニカルコンポーネンツの多くは、シルビア同様にサニーおよびバイオレットから流用されたものであり、エンジンなどの駆動系はブルーバードやスカイラインと共通だった。車両レイアウトの面では、性能向上のために、小型車のシャシーにひとクラス上のエンジンやトランスミッションを組み合わせるという、ハイパフォーマンス車作りでは、古典的とも言える伝統手法が採用されていたわけだ。
デビュー初期のガゼールは、内容的にはシルビアと変わるところはなく、ボディバリエーションも5人乗りの2ドアノッチバックのハードトップのみとなっていた。5カ月遅れて1979年8月に大きなハッチゲートを持ったハッチバックが加わる。実用性を重視した4ドアモデルがなく、ガゼール(およびシルビア)がパーソナルカーであることを物語っていた。
ガゼールの名を一般的に広めたのは、人気TVドラマシリーズの西部警察に登場したことが大きな力となった。主役のひとりであった故・石原裕次郎が演じる木暮課長の専用車として、オープンに改造されたガゼールが登場し大活躍。ガゼールのスポーティーなイメージは大きく高まったことは言うまでもない。
ガゼールは兄弟車であるシルビアよりは上位車種と位置付けされており、パーキングブレーキのグリップ部分を革巻きとするなど、シルビアよりも豪華に仕上げられていた。スタイリングはシルビアと共通だが、フロントグリルの意匠が横桟を基調にしたものとされ、Bピラーのパネルもメッキを施したものになっていた。ディーラーオプションでボンネット上にガゼールの頭を図案化したパターンを貼ることもできた。
デビュー当初に採用されたエンジンは3種で、すべて直列4気筒SOHCにツインプラグのヘッドを持つZ系を積む。最もベーシックな排気量1770㏄のキャブレター仕様(Z18型、出力105ps/6000rpm)、同じく排気量1770㏄に電子制御燃料噴射装置を装備(Z18E型、115ps/6000rpm)があり、さらに排気量を1952㏄に拡大して電子制御燃料噴射装置を組み合わせた(Z20E型、120ps/5600rpm)が選べた。1981年5月には、ターボモデルが追加される。ターボモデルのエンジンは、Z18ET型1770cc直列4気筒SOHCターボ。135ps/6000rpmの最高出力と、20.0kg-m/3600rpmの最大トルクを誇った。
翌1982年4月には、スカイラインRSと同じ排気量1990㏄の直列4気筒DOHC16バルブ(FJ20E型、150ps/6000rpm)を装備したDOHC RSシリーズが登場。トランスミッションは5速マニュアルのみが組み合わされた。駆動方式はフロント縦置きエンジンによる後2輪駆動で、4輪駆動仕様の設定はなかった。
DOHC RSのスペックは強力。ターボに比べて、トルクは1.5kg-m劣る18.5kg-m/4800rpmだったが、最高出力は15ps上回る150ps/6000rpmを達成した。Z18ET型1.8リッターターボモデルの0→400m加速はメーカーの公表値で17.0秒。一方、FJ20E型DOHCのRSは16.7秒をマークし、そのポテンシャルの高さが浮き彫りとなった。ちなみに16.7秒のデータは、スカイラインRSと同タイム。ガゼールのボディはスカイラインRSよりも195mm短く、30kg軽い。0→400m加速では同タイムであるものの、ワインディングなどでは短い全長のガゼールは軽快さにおいて楽しさをもたらした。
サスペンションは、前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後ろが4リンク/コイルスプリングの組み合わせで、ブレーキは4輪ディスク。
スカイラインRSと同じFJ20型エンジンを搭載したガゼールDOHC RSは、ようやく性能的にもライバルであったトヨタ セリカに肩を並べるものとなった。
FJ20E型ユニットを搭載したDOHC RSシリーズは、RSとRSエクストラの2タイプ。このうち上級グレードのRSエクストラには、スペシャルティカーらしい、トータルイルミネーションシステムが装備された。ドアを開けると、天井のルームランプはもちろんのこと、足元を照らすフットウェルランプとドア開口部付近を照らすドアステップランプが点灯。ドアを閉めると、ルームランプとフットウェルランプが減光式で、徐々に消えていく仕組みだ。フットウェルランプは残光の機能もあり、すべて消えずに劇場の座席照明のように淡く足元を照らし続けた。S110型デビュー当初のカタログには「トータルイルミネーションシステムがガゼールの夜をよりゴージャスで快適なものに変えます。」という文字が踊った。
ガゼールDOHC RSは、スポーティーな特性を持ったFJ20E型エンジンが組み合わされたことでモータースポーツにも積極的に参加する。富士グランドチャンピオンシリーズの前座レースとして1979年シーズンから行われたスーパーシルエットクラスなどは打って付けで、多くの出場車には、巨大なエアダムスカートやテールスポイラー、拡幅されたタイヤをカバーするオーバーフェンダー、そして派手なカラーリングなどが施され、ファンを楽しませるに十分なマシンとなっていた。
ガゼール・シリーズは、シルビア・シリーズと同時に1983年にモデルチェンジを受けて、2代目へと移行した。