ウィッシュ 【2003,2004,2005,2006,2007,2008,2009】
スポーティさとユーティリティ性が際立つ新世代
バブル経済の崩壊や消費税の増税などによる深刻な景気低迷、いわゆる“失われた10年”の最中にあった2000年代初頭の日本の自動車市場。ユーザーのクルマに対するニーズは合理的で、かつ経済性を重視する傾向が強くなった。1台で多くの人が乗れて、同時に荷物もたくさん積める“ミニバン”が、ファミリー層を中心に高い人気を博すようになったのである。
今後はミニバンがファミリーカーの中心になる。同時に、ミニバンに対するユーザーの要求はいっそう多様化する−−。世界屈指のマーケティング能力を持ち、それを開発体制に反映することに長けたトヨタ自動車は、早々に新しいカタチの多人数乗り車=ミニバンの開発を決定する。様々な検討の末に導き出した新型車の開発テーマは、「WISH COMES TRUE(多くの人の願いに応えること)」。具体的には、多彩に使える新世代パッケージと既存の多人数乗り車にはないスポーティなスタイル、優れたユーティリティ性能、軽快で気持ちのいい走りといった項目の実現を目指した。
車両造形は、トヨタデザインのキーワードである“VIBRANT CLARITY(ワクワク、爽やか)”に基づき、カプセルをイメージしたキャビンフォワードのモノフォルムシルエットに仕立てる。各部のデザインにも工夫を凝らし、サイドからリアに回し込んだウィンドウグラフィックや膨らみを持たせたフード面、縦型グラフィックの4灯式ヘッドランプ、シリンダー形状のランプエクステンション、シンプルで張りのあるバックドアと縦型コンビネーションランプで構成したリアビューなどでスポーティ感と躍動感を強調した。
パッケーシングについては、既存のMCプラットフォームをベースにホイールベースを延長するなどして先進的なキャビンフォワードスタイルを実現。そのうえで、すべての乗員がきちんと座れる3列式シートの室内スペースや用途に応じてアレンジできるラゲッジスペースを設定した。ボディサイズは全長4550×全幅1695×全高1590mmで、ホイールベースが2750mmという5ナンバー規格内。開発スタッフは当時、「多人数乗り車でも5ナンバーサイズに収めてほしいというユーザーからの要望が多かった」と語っていた。
開発陣はインテリアのアレンジにも力を入れる。セカンドシートは6対4分割可倒式としたうえで、ダブルホールディングやリクライニング、ロングスライド(前後195mm)といった機構を内蔵。また、サードシートはワンタッチでチルトダウン格納および引き起こしができる5対5分割可倒式とし、リクライニング機構も組み込んだ。
搭載エンジンはVVT-iを採用した1ZZ-FE型1794cc直4DOHC16Vで、専用セッティングのSuper ECT(4速AT)と組み合わせる。駆動システムはFFとアクティブトルクコントロール4WDの2タイプを設定。サスペンションはフロントがストラット式で、リアはFFがトーコレクト機能付トーションビーム式、4WDはダブルウィッシュボーン式を導入した。また、安全性能の面では衝突安全ボディのGOAやEBD付きABS、前席エアバッグ&サイドエアバッグ/カーテンシ−ルドエアバッグ、WIL(頸部傷害低減)コンセプト・シート構造などを採用する。
トヨタの新しい多人数乗り車は、「ウィッシュ(WISH)」の車名を冠して2003年1月に発売される。キャッチフレーズは“ザ・ピープルズ・カー”。開発テーマである「WISH COMES TRUE」を具現化したクルマであることを、ダイレクトに表現していた。
ウィッシュは、コンパクトな5ナンバー規格ボディやスポーティなデザイン、機能性と多用途性に優れる室内アレンジなどが好評を博し、販売台数を大いに伸ばしていく。さらに、2003年4月に1AZ-FSE型1998cc直4DOHC16V・VVT-i(D-4)エンジン+Super CVTを搭載する高性能グレードが追加されると、その人気に拍車がかかった。結果としてウィッシュは、ミニバンとステーションワゴンを融合した多用途性に優れる5ナンバーサイズの新世代クロスオーバー車として高い支持を集め、定番のファミリーカーに成長していったのである。