8Cスパイダー 【2008,2009,2010,2011,2012,2013】

往年の高性能モデルの車名を引き継いだ傑作アルファ



イタリアのプレミアムカーブランドである
アルファロメオは2006年開催のパリ・サロンにて
生産型「8Cコンペティツィオーネ」を発表する。
カーボンファイバーで仕立てたボディパネルに
4.7L・V8エンジンとQセレクトのパワートレインを
搭載したクーペタイプのスーパースポーツは、
500台の限定生産で世界市場にリリースされた。
さらに2008年開催のジュネーブ・ショーでは、
オープン仕様の「8Cスパイダー」の生産型が登場。
コンペティツィオーネと同じく500台が販売され、
世界中のアルフィスタから熱い視線を集めた。
スーパースポーツの復活を画策

 ダイムラーとクライスラー、日産自動車とルノーのアライアンスをはじめ、世界規模での合従連衡が進展した1990年代終盤から2000年代初頭にかけての自動車業界。一方で既存ブランドは、生き残りと成長をかけて車種および販売戦略の練り直しを図っていく。その一環として実施されたのが、自社の強み、具体的には歴史的な背景と市場イメージを活かした車種ラインアップの再構築だった。

 スポーツセダン&ワゴンの156、上級スポーティサルーンの166、そしてコンパクトスポーツの147というヒット作を生み出していたイタリアの老舗プレミアムカーブランドであるアルファロメオは、既存のラインアップに欠けていて、しかも自社のイメージ向上につながるニューモデルの企画を検討する。そして、アルファロメオの伝統的なイメージ、すなわち高性能なメカニズムに魅惑的なイタリアンデザイン、そして心高鳴る走りを提供するFR(フロントエンジン・リアドライブ)レイアウトの新しいスーパースポーツカーの開発を決定した。

■伝統の車名「8C」を冠したスーパースポーツの登場

 “スポルティーヴァ・エヴォルータ”というコードネームのもとに企画が進められた新スーパースポーツは、2003年開催のフランクフルト・ショーにおいて、カロッツェリア・ストーラがボディ製作を担ったコンセプトモデルが披露される。車名は「8Cコンペティツィオーネ」。8Cは8Cylinder=8気筒エンジンの搭載を意味し、1931年にデビューした往年のアルファロメオ製スポーツカーである8Cに由来。コンペティツィオーネ(Competizione)は1940年代末から1950年代初頭にかけて大活躍した6C2500コンペティツィオーネをリスペクトして命名された。

 アルファロメオのスーパースポーツらしい瀟洒で流麗なクーペボディを纏い、フロントセクションにマセラティ3200GTと同ユニットの3216cc・V型8気筒DOHC32Vツインターボエンジンを搭載した8Cコンペティツィオーネは、たちまちショーの花形になる。そして、来場者や自動車マスコミからは、市販を期待する声が高まった。さらに2004年になると、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステに8Cコンペティツィオーネが出品される。ここで同車はコンセプトカー部門の金賞を獲得。改めてスタイリングのよさに注目が集まった。

 ショーでの好評を受けて、アルファロメオの首脳陣は8Cコンペティツィオーネの市販化を決断する。製造に当たっては、期間やコストを鑑みてマセラティの協力を仰ぐことを決定。マセラティは2005年にフェラーリの傘下から切り離され、再びフィアットの元へ戻る、しかもアルファロメオと同じセクションに移る旨が決定していたのだ。背景には、フェラーリの株式上場を狙ったルカ・モンテゼモーロ会長がフェラーリの決算の改善、具体的にはマセラティへの設備投資の回収をフィアットに任せる意図があった。

 プロダクションモデルの8Cコンペティツィオーネは、2006年開催のパリ・サロンにてワールドプレミアを飾る。発表の席では、年内に予約受け付けを開始し、500台をマセラティのモデナ工場内にて限定生産する計画がアナウンスされた。

■ボディパネルにはカーボンファイバーを採用

 8Cコンペティツィオーネの基本骨格は、高剛性のスチール製プラットフォームに専用設計のカーボンファイバー製ボディパネルを組み合わせる。ボディサイズは全長4381×全幅1892×全高1340mm、ホイールベース2645mmに設定。車両重量は1585kgに抑えた。サスペンションはアッパー/ロアアームやハブキャリアなどを鍛造アルミで仕立てた前後ダブルウィッシュボーン/コイル+スタビライザーで構成する。制動機構にはブレンボと共同開発したカーボンセラミック(CCM)ベンチレーテッドディスクブレーキを装備。シューズには専用設計の前245/35R20、後285/35R20サイズのピレリP Zeroタイヤをセットした。

 フロントミッドシップに縦置き搭載するエンジンはフェラーリの協力を得て開発したアルミ合金製ブロック&ヘッドのマセラティV8ユニットをベースに、専用チューニングを施したF136YC(AR8C)型を採用する。排気量を4691ccとした90度のバンク角をもつ水冷V型8気筒DOHC32Vユニットは、コネクティングロッドやピストンのバランス取りを実施したうえで可変吸気システムをセット。圧縮比は11.3に設定し、450ps/7000rpmの最高出力と48.9kg・m/4750rpmの最大トルクを発生した。

組み合わせるトランスミッションには6速セミATの“Qセレクト”を採用。また、リアLSDとVDCを標準で装備する。変速はステアリング背面に配したパドルシフトでの操作が可能で、モードにはノーマルとスポーツのほかにオートマチックやアイスを設定。ギアボックス自体はデファレンシャルと一体化して車体後方にマウントするトランスアクスル方式を取り入れる。前後重量配分は49:51と、スポーツカーとしてほぼ理想的な前後バランスを実現した。

躍動と伝統が融合したスタイリングの創造

 車両デザインについては、アルファロメオのチェントロスティーレ(デザインセンター)に籍を置くウォルフガング・エッガーが主導する。基本フォルムはFRクーペならではの長くて低いノーズと流れるようなルーフラインで構成。各部のアレンジにもこだわり、フロントマスクは伝統の盾型グリルとそのラインに合わせて膨らませたフロントフード、丸い3つのランプを組み込んだ個性的なヘッドライトで、リアセクションはコーダトロンカ風にスパッと断ち切ったテールエンドや往年のコンペティションマシンを彷彿させる丸形2灯式のシンプルなリアランプで、アルファらしいスポーティかつ魅惑的なエクステリアを演出した。

一方、純粋な2座レイアウトで構成したインテリアは、ハイテク素材と厳選したレザーをふんだんに使って華やかかつスタイリッシュなコクピットを創出する。シートは専用デザインのバケットタイプを装着。ペダル類やフットレストなどにはアルミ材を採用した。

■オープンモデルの「8Cスパイダー」のデビュー

 アルファロメオのスーパースポーツプロジェクトは、クーペだけでは終わらなかった。2005年開催のペブルビーチ・コンクール・デレガンスの場で、オープンモデルの「8Cスパイダー」がベールを脱いだのである。コンセプトモデルのボディ製作は8Cコンペティツィオーネのストーラに代わって、カロッツェリア・マラッツィが担当した。翌'06年開催のコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステにてコンペティツィオーネと同様に金賞を獲得した8Cスパイダーは、その後徹底したテストが重ねられる。そして2008年開催のジュネーブ・ショーにおいて、プロダクションモデルの8Cスパイダーが雛壇に上がった。

 マセラティのモデナ工場内にて500台を限定生産する旨が発表された8Cスパイダーは、8Cコンペティツィオーネと同じくスチール製のプラットフォームにカーボンファイバー製のボディを組み合わせる。オープン化に当たっては、コクピット周囲を補強するとともにダンパーマウント頂部をつなぐタワーバーを追加。同時に、サスペンションのセッティングも最適化させる。ルーフ部は約20秒で開閉する電動油圧式のソフトトップで構成。トップ自体は外側に耐候性の高い多層織のクロスを、内側に遮音性に優れる素材を使用し、カラーにはブラックのほかレッドやブラウンを取りそろえた。

内包するインテリアは、8Cコンペティツィオーネ用をベースに細部を変更。カーボン素材をふんだんに使い、ダッシュボードやパネル、バケットシートのシェルなどに採用する。また、バケットシートの表地にはフラウ製レザーを導入。カラーはレッド、チタン、テッラディシェーナ、ブラックの4色を設定した。

 パワートレインは基本的に8Cコンペティツィオーネと共通で、4691cc・V型8気筒DOHC32Vエンジン(450ps)+Qセレクトを採用する。車重は90kgほど増えたが、前後重量配分は49:51をキープしていた。

COLUMN
アルファロメオ製スポーツカーの代表車となった「初代8C」とは−−
 アルファロメオが最初に「8C」の車名を冠したモデル、8C2300を登場させたのは1931年。 名エンジニアのビットリオ・ヤーノが開発した、車名の8C(Cylinder)の由来となる直列8気筒DOHCエンジンは、クランクシャフトやカムシャフト、シリンダーブロックが中央で分かれており、2つの4気筒エンジンを1つにまとめたかのような凝ったレイアウトを採用する。ボア×ストロークは65.0×88.0mmで、排気量は2336cc。エンジンの中間にはヘリカルギアが組み込まれ、燃焼室は半球形、オイル潤滑はドライサンプで仕立てたうえで、過給機にスーパーチャージャーを搭載するなど、高度なメカニズムを随所に取り入れていた。 市販バージョンでは、ショートホイールベース(2750mm)版のコルトとロングホイールベース版(3100mm)のルンゴを設定。エンジンにハイチューンを施したコンペティションモデルでは、8C2300スパイダーやモンツァ、ル・マンなどが製作され、レースの舞台で大活躍する。さらに、1935年にはボア×ストロークを68.0×100.0mmに拡大して排気量を2905ccとした8C2900を開発。1937年にはシャシーの改良などを図った8C2900Bに進化し、戦前のアルファロメオの高性能ぶりを世界に見せつけたのである。