日本カー・オブ・ザ・イヤーの歴史04 【1992,1993,1994】

世界で愛される日本車の登場

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愛らしい本格派の登場

 日本のクルマが世界のモーターシーンの牽引役となる。そんな印象を現実のものとしたのが1992-93年のイヤーカーだった。受賞車は「日産マーチ」である。マーチは当初からロングライフを高らかに謳い、ベーシックカーとしての基本性能を徹底的に磨き上げた。開発コンセプトは「高効率のパッケージングと経済的で軽快な走りのニューコンパクト」である。Be-1のイメージを彷彿させるキュートで愛くるしいスタイリングは、新しさをあえて追っていない。それは誰もが親しめるように入念に配慮した結果で、町でも郊外でもどんな風景にも溶け込む完成度を持っていた。

 同時にがっちりとした作りのプレスドアや、ホイールベースを従来型より60mmも長くしながら全長を40mm短縮した合理的な車両設計など、時代が求めるニーズをしっかりと盛り込んでいた。30mm全高を高くすることで実質的なキャビンスペースに余裕をもたらしていたことも魅力だった。安全面でもサイドドアビームの標準化や、ABS&後席3点式ベルトの設定などクラス水準を確実に抜いていた。従来までのベーシックカーは、どこかチープな印象を与えるモデルが多かった。しかしマーチは明らかに違った。小さいことのメリットを高らかに主張するクラスレスカーだったのである。

欧州も評価した高い実力

 メカニズム面でも力作だった。1L(58ps)と1.3L(79ps)の2タイプのエンジンはともに新開発のDOHC16バルブ・ユニットで、電子制御インジェクションやADポートの採用により十分なパワーと高い信頼性を獲得していた。樹脂製ロッカーカバーや中空セミ8カウンターウェイトクランクシャフトなど、軽量化とリサイクル性にも配慮していたのが1990年代生まれらしいところ。もちろん運転のしやすさと燃費にも配慮していた。この頃にはATが主流だったが、1LモデルはOD付き4速AT、1.3Lモデルは先進の無段変速機CVTを組み合わせていた。

 1Lモデルの走りも小気味よかったが、さらに印象的だったのが1.3Lモデルだ。CVTによる滑らかな加速フィールと、高速クルージングでの静粛性は特筆レベル。走りの余裕はひとクラス上のモデルを抜き、ファーストカーとして十分に満足できるレベルに達していた。燃費も驚くほどよかった。使い古されたフレーズではあるが、マーチには“小さな大物”という表現がぴったりだったのだ。マーチは日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しただけでなく、コンパクトカーの本場である欧州でも高い評価を集め、日本車として初の欧州カー・オブ・ザ・イヤー(欧州名:日産マイクラ)も獲得する。この事実はマーチの実力の高さを雄弁に語っていた。

ゆとりと調和を目ざしたアコード

 1993-94年も国際派モデルが受賞する。イヤーカーは「ホンダ・アコード」である。1976年のデビューから数えて5代目となるアコードは、人と社会が求める「ゆとりと調和」を目ざした意欲作だった。アコードは日本以上にアメリカでの支持が高く、北米ベストセラーに輝く存在。それだけに新型にはホンダの最新技術が惜しみなく投入されていた。エンジンはゆとりのある2.2L仕様がメインとされ2種のVTECユニットを新開発した。マイルドな145ps仕様は、1.8L車を凌ぐ13km/Lの10・15モード燃費と全域トルクフルなパワー特性を実現。一方190psのスポーツVTECユニットは、エンジン屋のホンダらしい爽快なスポーツ心臓に仕上げていた。

 安全性に対する配慮も万全で、全車ともに米国の新たな側面衝突規制に合致する骨太の骨格を採用すると同時にエアバッグやABSなどの安全デバイスを幅広く設定した。良好な視界の確保や操縦性の向上など事故を未然に防ぐ配慮も入念だったことも特筆ポイントだった。ゆとりある大柄な3ナンバーボディということもあり、室内も広々としており快適性は良好。日本国内生産はセダンだけだったが、北米工場生産のワゴンとクーペも輸入され、さまざまなユーザーニーズに対応した。

熟成がもたらした新たな価値

 5代目アコードは、最新技術を投入するだけでなく、基本をじっくりと煮詰め各部を熟成したモデルだった。1990年代初頭までの日本車との差はそこだった。かつては世界のレベルに追いつこうと数々の新機軸を導入したものの、熟成不足でクルマとしての完成度がいまひとつというケースが多かった。しかしアコードは技術を徹底的に磨き上げ、基本に立ち返った設計手法でじっくりと1台のクルマに仕上げていた。アコードは派手な存在ではなかったものの、ドライビングするほどに愛着が増し、パッセンジャー全員を優しく包み込む大人のクルマだったのである。自動車王国のアメリカをはじめ、世界での高い評価は、ホンダのクルマ作りが新たな時代に突入したことの証明と言えた。その意味で5代目アコードはエポックカーだった。
 またこの年の特別賞には、アコードと同じく本格ワールドカーとなったトヨタ・スープラが受賞している。