N600 【1968】

リッターカーに匹敵する速さを誇ったNコロ!

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ホンダらしさ溢れる軽乗用車N360の誕生

 ホンダN600Eは、ホンダ初の4シーター軽自動車、N360の小型車バージョンである。車名が示すようにエンジンを598ccに拡大し、走行性能を高めたのが特徴だった。

 ホンダ躍進のきっかけを作ったN360は、1966年秋の東京モーターショーで発表され、翌1967年3月に市販を開始する。N360は当時の軽自動車の常識をすべての面で打ち破った。まずパフォーマンスが群を抜いていた。354ccの空冷2気筒OHCユニットは31ps/8500rpm、3.0kg・m/5500rpmのハイパワー、トップスピードは115km/hを誇った。使い勝手も抜群だった。合理的なFFレイアウトの採用で、室内は前後席ともに広くラゲッジスペースも十分。スタイリングも洒落ていた。そしてなにより安かった。ユーザーにとって魅力的だったのが31万5000円という低価格である。高性能で、実用的でしかも安価。人気者になる条件を備えたN360は発売と同時に大ヒットし、僅か3ヶ月後には軽自動車トップセラーの座を獲得する。N360は、日本のユーザーが待ち望んでいた、ホンダらしさ溢れるコンパクトカーだった。

トップスピード130km/h! 輸出仕様の走りはふたクラス上に匹敵

 N360は、海外のユーザーも熱い視線を注ぐ。ホンダは4輪メーカーとしては新参だったが、2輪メーカーとして世界的に著名であり、F1を筆頭とするモータースポーツでの活躍もあって、すでに「技術的に優れたブランド」として認知されていたからである。そのホンダが作り上げたコンパクトカーだ。海外のユーザーが注目するのは当然だった。

 1967年秋には、N360は輸出を開始する。輸出版は、軽自動車規格に縛られる必要がないため、エンジンを598ccに拡大。ネーミングをN600Eに変更していた。搭載するパワーユニットはN600E型と名付けられた専用品。ボア74.0mm、ストローク69.6mm(N360はそれぞれ62.5、57.8mm)の空冷4サイクル2気筒OHCである。可変ベンチュリータイプのCVキャブレターを装着し、43ps/6600rpm、5.2kg・m/5000rpmの出力/トルクを誇った。トップスピードはN360を15km/h上回る130km/h。N600Eのパフォーマンスはひとクラス上のリッターカークラスに匹敵、一部では凌駕した。トランスミッションはドグクラッチを持つ、コンスタントメッシュの4速マニュアルである。

 エクステリアは基本的にN360と変わらない。しかし個性的な2BOXスタイルを継承しながら、バンパーの拡大によって逞しさを手に入れていた。ボンネット中央にはパワーバルジが追加され、フロントマスクは専用デザイン。グリル中央のHエンブレムには「600」の文字が加えられている。ウインカーなどはアメリカの安全基準に適合させた大型サイズを装着する。ボディサイズは全長3100mm、全幅1295mm、全高1330mmだった。

 N600Eは、主にアメリカやヨーロッパに輸出された。アメリカでは、「パフォーマンスは十分なものの、ボディサイズが小さすぎ、フリーウェイではフルサイズカーに押しつぶされそうで怖い」という評価もあったが、ホンダらしさ溢れるファンカーとして人気を得た。小型車の本場ヨーロッパでは、性能に対してリーズナブルなこともあって、若年層を中心に支持を集める。

日本では短命に終わった小型車、N600E

 海外で高い評価を得たN600Eは、1968年6月から日本でも発売される。N600Eは、高性能を求めるユーザーのためのクルマだった。エンジンなどは輸出仕様と共通。大型バンパーは、アメリカ仕様のダブルバンパー形状ではなく、欧州輸出仕様と共通のシングルタイプを採用した。
 室内はスポーティな印象。タコメーターが標準装備され、ステアリングもナルディタイプの3本スポークだった。

 N600Eの販売は、残念ながら日本では不調だった。ネックは小型車登録になるための維持費の増大だった。N600Eは、軽自動車のN360と比較して税金も保険料も大幅に高かった。しかも車検があった(当時の軽自動車は車検制度未適用)。N600Eは優れたパフォーマンスの持ち主だった。しかし、もともとN360でも十分な性能を発揮していた。走りのアドバンテージは維持費の増大を容認するほど大きくはなかったのだ。1968年9月にN360にツインキャブレター仕様(36ps)のTシリーズが設定されると、N600Eの販売はますます減速した。結局N600Eは、1500台程度が販売されただけ販売を中止する、発売期間は僅か半年間ほどだった。

バイクのノウハウを生かしたエンジンを搭載

 N600E(もちろんN360)のエンジンには、ホンダが2輪車で得たノウハウが存分に生かされていた。4サイクル仕様の空冷2気筒エンジンは、当時人気が高かったスポーツバイク、CB450のパワーユニットのリファイン版といってよかった。

 もちろん4輪車と2輪車では要求されるエンジン特性が異なる。本来ならゼロから設計したほうがベターだ。しかしホンダは2輪車用をベースにする手法を選択する。それにはコスト面の利点もあったが、それ以上に信頼性を重視したからだった。ホンダ初の本格乗用車だっただけに、エンジントラブルはメーカーのブランドイメージの著しい低下を招く。それを避けるためすでに信頼性が実証されているCB450用エンジンが選ばれたのだ。とはいえ、そこはエンジン屋のホンダである。CB450用とは基本構造が一緒なだけで、ほとんどすべての部品を新規に設計し直していた。CB450用がDOHCであるのに対し、OHCであることが違いを如実に示している。ちなみにコンスタントメッシュによるドグミッションもバイク流。ミッションユニットをクランクケースと一体化し、同じオイルで潤滑する方法もバイクと共通だった。