XiX(キックス/コンセプトカー) 【1995】

生活を豊かにする自由発想セダン

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遊びの精神で開発したセダン未来形

 1995年の東京モーターショーに出品されたキックス(XiX)は、自由発想の新感覚セダンだった。1995年当時は、SUV、ステーションワゴン、ミニバンの台頭によりクルマの基本形であるセダンの価値観が、改めて問い直されていた。多様なライフシーンに違和感なく寄り添うことができ、ユーザーの年齢層や性別を問わないことがセダン魅力である。それ故にクルマの基本形の座に君臨してきた。

 しかしセダンはある意味で無難な存在ともいえた。悪路での走破性ではSUVに、ラゲッジスペースではステーションワゴンに、そして室内の居住性ではミニバンに歯が立たない。つまり機能面では突き抜けた点がない存在でもあった。21世紀を目前にして、セダンはいつまでも中庸で無難な存在でいいのだろうか? キックスは、そんな問いかけに遊びの精神で応えた日産の回答だった。

ワイルドな印象の道具感覚のマルチパーパスカー

 キックスの開発コンセプトは、生活を豊かにするマルチパーパスセダン。使い慣れた道具のようにガンガン使える私生活のセダンだった。スタイリングはボクシーな直線基調で、丸型ライトとヘビーデューティな大型ドアミラーが独特のイメージを与える。ちょうどコンパクトSUVとして独自のジャンルを構築していたラシーンにトランク部分をプラスしたような印象にまとめられていた。最低地上高を本格SUVなみの205mmに設定していたこともあり、ワイルドな印象が個性となっていた。

 ホイールベース2580mmのシャシーの上に構築されたボディは全長4560×全幅1695×全高1500mmの5ナンバーサイズで、エンジンは排気量1998ccのSR20DE型DOHC16V(150ps/19kg・m)を横置き搭載していた。駆動方式はフルオート・フルタイム4WDである。メカニズム的にはほぼプリメーラやブルーバードからの流用と言えた。

 新感覚セダンとしてキックスがこだわっていたのはビッグなトランクだった。後部に用意されたスペースはトランクというよりピックアップトラックのような“荷台”だった。トランクリッドはバンパーレベルから開く下ヒンジのリッド部分と、上部のカバー部分の2分割構造。トランク内部はウォッシャブル自在な防水仕上げで、濡れたマリン用品やスキー用品、汚れ物も躊躇なく積み込めるように配慮していた。しかも後席を倒すとトランクと室内は一体となり、2m以上の長尺物もなんなく積むことができた。趣味の道具を、なんでもかんでも積み込んで、細かい事は気にしないでガンガン使う愛着の湧く道具のようなセダンを目指したのだ。

森林警備隊にピッタリなワイルドセダン!?

 キックスはパワフルなSR20DE型ユニットと4WDの組み合わせにより走りの性能がハイレベルなのも自慢だった。単なる便利な道具でなく、走りも楽しめるスポーツギアでもあったのだ。

 メーカーではキックスの可能性を説明するため、パンフレットで多様な使い方を説明した。海外旅行の大荷物を余裕で運ぶエアーキャリアーや、優れた走破性を生かした森林警備隊のパトロールカーなどのビジネスユースはもちろん、趣味のレーシングカーを載せたトレーラーを引っ張るシーンや、キャンピングカーを牽引するシーンなどを紹介。キックスがマルチな才能を持つセダンであることをアピールした。

 結局、キックスはコンセプトカーで終わり、市販されることはなかった。しかし開発者がキックスに込めた自由な発想は、以後の日産各車にさまざまなカタチで生かされている。キューブなどのボクシーなフォルムのなかにサロン的な雰囲気の室内を実現する発想も、キックスの開発を通じて会得した自由さと柔軟さが原点かもしれない。