フェアレディZ 【2008〜】
「全ては走りのために」をキーワードとした6代目
デビューから6年のあいだに、4回に渡るエンジンの更新や度重なる足回りのチューニング変更、さらに内外装の質感向上などが実施されたZ33型系の5代目フェアレディZ。新しく生まれた技術やアイデアを矢継ぎ早に投入する形で進化してきた5代目だが、既存のプラットフォームではもはや手を入れる余地がないほどに改良し尽くされていた。
現行モデルでやれることはすべてやった。今後は次のステップに踏み出さなければならない−−。そう決意した日産の開発陣は、新たなプラットフォームを使った新型フェアレディZの企画を推し進めるようになる。キーワードに掲げたのは、「全ては走りのために」。シャシーやエンジンといったメカニズムから内外装に至るまで、あらゆる要素を走りの進化に向けたのである。また、その進化は伝統の“Z-ness(Zらしさ)”を盛り込みながら新しいパフォーマンスが生む“NEW-ness”によって、一気に“ジャンプ”させることを基本方針とした。
プラットフォームについては、V36型系スカイラインクーペと同形式のFR-Lプラットフォーム(Eプラットフォーム)を基本としながら、各部の設計を大幅に見直す。主要テーマは、「レスポンス」「リニア」「ステイブル」の3項目の実現。具体的には、“軽量化”と“ホイールベースの短縮”をメインに、世界一楽しい走りが楽しめるスポーツカーを目指した。
搭載エンジンは、既存のVQ35HR型に対して約35%の部品を新開発したVQ37VHR型3969cc・V6DOHCを、低重心化して積み込む。吸気系には専用チューニングのVVEL(バルブ作動角・リフト量連続可変システム)を採用し、ハイレスポンスや出力向上を図ると同時に燃料消費の低減と排出ガスのクリーン化を達成した。パワー&トルクは336ps/7000rpm、37.2kg・m/5200rpmを発生する。組み合わせるミッションは、シンクロレブコントロール付6速MTとマニュアルモード付7速ATの2機種を設定。それぞれに専用のセッティングを施したうえで、MTはショートストローク化、ATはロックアップ領域の拡大を敢行した。
ボディは、より強く、より軽量化した新構造の車体骨格を採用する。フロント回りでは特徴的な形状のトライアングルタワーバーの装着を、リア回りではトリプルメンバー構造の徹底した改良を、サイド部では高張力鋼板の拡大展開を実施するなどしてボディ剛性を大幅アップ。同時に、アルミ合金材の使用部位の拡大(エンジンフードやドアなどのすべてのカバーパーツ)やドライブトレインの構造合理化、燃料タンクの設計変更などによって、約100kgの軽量化を達成した。
フロントがダブルウイッシュボーン式、リアがマルチリンク式のサスペンションは、一体構造メンバーの採用といった構造合理化やアルミ部品の多用、インシュレーターの変更などにより、ユニット自体の高剛性・軽量化を実現する。また、デュアルフローパスやリバウンドスプリング、高応答リップルコントロール、液体封入ブッシュなどを採用し、レスポンスのいいハンドリングと快適な乗り心地を高次元で両立した。組みわせるホイール&タイヤは、19インチ仕様(前245/40R19・94W、後275/35R19・96W)と18インチ仕様(前225/50R18・95W、後245/45R18・96W)の2タイプの設定で、ホイールは2サイズともにアルミ(19インチ鍛造/18インチ鋳造)を奢る。また、上位グレードのブレーキシステムには、4輪アルミキャリパー対向ピストンブレーキを装備した。
スタイリングについては、Z伝統のロングノーズ&ショートデッキのFRプロポーションを踏襲しながら、「アスリートの肉体のような有機的機械」の実現を目指した。フロント部はブーメランモーションのヘッドランプや大口径のグリル、抑揚のあるボンネットおよびフェンダーラインなどで鋭く引き締まった精悍な顔つきを演出。サイド部は、ヘッドランプからウエストへとアーチを描きながら駆け抜けるダイナミックなキャラクターラインが目を引く。リア部は、駆動輪を強く感じさせるグラマラスなリアフェンダーやヘッドランプと同一イメージのブーメランモーションのリアコンビネーションランプなどを特徴とした。
キャビン空間は、ヒップポイントの低下や低ヒール段差化、ステアリング傾斜角の最適化(14度)、アクセルおよびブレーキペダル間の段差の縮小などを実施し、スポーツドライビングに適した運転席ポジションを創出する。その上で、大径の回転計を中央に配した多層化メーターやZらしさを継承する3連サブメーター、新スエードクロスの“フォルトスエード”を使ったシート地&ドアトリム、ショルダー部にワイヤーフレームを追加してホールド性を高めた新形状シートなどを装備した。
日産の入魂の一作である新型フェアレディZは、Z34の型式を付けて2008年12月に市場デビューを果たす。車種展開は、ベーシックグレードの「フェアレディZ」、本革+フォルトスエード地シートやBOSEサウンドシステムなどを装備した豪華仕様の「フェアレディZ Version T」、スポーツモデルの「フェアレディZ Version S」、Version TとSの装備を両立された最上級グレードの「フェアレディZ Version ST」という4タイプをラインアップ。ミッションはベーシックグレードとVersion STが6速MTと7速ATの選択が可能で、一方のVersion Tは7速ATのみ、Version Sが6速MTのみを設定した。
広告では「クルマは、人がつくる」のキャッチコピーとともに、日産の車両実験部のテストドライバーであり現代の名工にも選ばれている加藤博義氏がドライブするシーンで話題を集めたZ34型系フェアレディZ。2009年1月になると北米でもZ34型系の「370Z」が発売され、市場での注目度は俄かに高まっていく。また、運動性能の向上や高いボディ剛性、洗練さを増した内外装などが、スポーツカー・ファンから高く評価された。
市場デビューから半年ほどが経過した2009年6月、Z34型系フェアレディZに新バージョンが追加される。日産自動車100%出資でモータースポーツ向け自動車部品の開発およびレースへの参画などを手がけるニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(NISMO)が製作した「フェアレディZ Version NISMO」が発売されたのだ。VQ37VHR型エンジンは専用コンピューターや専用エグゾーストシステムなどの採用により、355ps/38.1kg・mにまで出力アップ。また、専用エアロパーツや強化型ストラットタワーバー、YAMAHA製パフォーマンスダンパー、専用シート/ステアリング/コンビメーターなども装備される。ボディのチューニングに関しては、やはり日産の関連会社であるオーテックジャパンが担当した。
2009年10月になると、北米で前月にデビューしていたオープンモデルの「ロードスター」が、日本市場にも投入される。電動式ソフトトップ機構には、収納時にすべてが覆い隠されるストレージリッドを設定。ソフトトップ自体のデザインも、ボディラインに沿った滑らかで美しい形状とする。さらに、空調システムを内蔵したエアコンディショニングシートや風の巻き込みを防ぐフロントウィンドウモールおよびディフレクター、ロードスター専用チューニングのBOSEサウンドシステムなども装備した。
ワールドワイドの市場から高い評価を受け、スポーツカーの新基準に昇華したZ34型系フェアレディZ。しかし、日産の開発陣は決して現状では満足していない。なぜなら、“進化”し続けることがフェアレディZの命題だからだ。時代状況が厳しくなる一方ではあるが、開発現場では、今日もZの伝統を継続させる努力が続けられている。