ランサー・エボリューションV 【1998】

ワイドボディ化して走行性能と制動力を高めた第5世代

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


WRカーに対抗できる第5世代“ランエボ”の開発

 1990年代中盤における世界ラリー選手権(WRC)の舞台は、三菱ランサー・エボリューションやスバル・インプレッサWRXといった日本車が席巻していた。12カ月に5000台以上の生産が必須条件で、しかも競技車に仕立てるに当たってはエンジンや空力パーツなどの変更が基本的に認められないグループA規定は、ベース車の実力が優劣を決定する。欧州メーカーのグループA車は、どうしても日本車の高性能に歯が立たなかった。

 参戦チームの縮小などを懸念した統括団体のFIA(国際自動車連盟)は、打開策としてワールドラリー(WR)カーのカテゴリーを新設する。規定は年間に2万5000台以上を生産するモデルの派生車種であれば過給機の装着や駆動方式の変更などを自由とし、同時に直接的なベース車を年間2500台以上生産すればOKというもの。グループAに比べて改造範囲が広く、またベース車の生産台数が少なくて済むWRカー規定は、結果的に欧州メーカーの参戦を促すことにつながった。

 WRカーはWRCの1997年シーズンから導入され、翌1998年シーズン以降はより本格化するものと予想された。この状況に対して三菱自動車工業は、あえてグループAでの参戦継続を決断する。ラリーで培った技術を、より多くの市販車に活かすという従来からの姿勢を貫こうとしたのだ。こうした意地とプライドは、WRカーに対抗する戦闘力を持った「ランサー・エボリューション」の開発へと鋭意向けられていった。

熟成のターボユニットはよりトルクフルに変身

 開発陣は、ツインスクロールターボ付き4G63型1997cc直列4気筒DOHC16Vエンジンの緻密かつ徹底した改良を実施する。ターボチャージャーはノズル面積の拡大とブースト圧のアップを実施。同時に、ピストンの軽量化やECUの16ビット化およびセッティングの最適化、エンジン細部の見直しを行う。得られた最大トルクは従来型比で+2.0kg・mの38.0kg・m/3000rpmを達成(280ps/6500rpmの最高出力は同数値)。

 また、2500rpmから6000rpm付近にかけてのパワー&トルクも引き上げられ、加速性能は一段と向上した。組み合わせる5速マニュアルトランスミッションは、トルクアップに合わせて、ギアへのショットピーニングの追加などを行って各部を補強する。ギア比は各変速段のつながりの向上を目指して1速2.785/2速1.950/3速1.407/4速1.031/5速0.761/最終減速比4.529に設定。また、競技用ベース車にはスーパークロスレシオタイプを採用した。一方、駆動機構では従来のAYC(アクティブヨーコントロールシステム)の熟成を図ると同時にフロントヘリカルLSDを新たにプラス。4輪への最適なトルク配分を可能にすることで、より高次元な旋回性能を実現した。

戦闘力を高めたワイドボディ採用

 サスペンションには改良版の前マクファーソンストラット/後マルチリンクをセットする。トレッドはフロントで40mm、リアで35mmも拡大。そのうえで、アーム取付点の見直しによるジオメトリーの変更やフロント左右ロワアーム取付部の補強バーによる連結化、倒立式フロントストラットの採用などを行った。制動性能も強化され、ブレーキには伊ブレンボ社と共同開発した4輪ベンチレーテッドディスクを装備する。ディスクは従来よりもサイズアップした前17インチ径4ポッドディスク/後16インチ径2ポッドディスクをセット。キャリパーは対向型で、パッド材には伊ガルファー社製を導入した。ロードバージョンには4チャンネル制御の4輪ABSも採用する。そしてシューズには、専用開発の225/45ZR17タイヤ+OZ社デザイン17インチアルミホイールを組み込んだ。

 ボディに関しては、走行性能や制動性能を引き上げる目的で全幅を1770mmにまで拡大したことが最大のトピックとなる。同時に空力特性にもいっそうの磨きをかけ、新形状の迎角調整式大型リアスポイラー+デルタ型ウィッカーなどを採用してこう高速時のダウンフォースを獲得した。また、ボディのワイド化による重量増を抑制するために、アルミ製部品の使用部位の拡大やガラス類の板厚低減などを実施する。インテリアでは、新タイプのレカロ社製バケットシートやMOMO社製本革巻きステアリング、本革巻きシフトノブ、ホワイトメーターなどのスポーツアイテムを採用。ロードバージョンには運転席&助手席SRSエアバッグシステムも標準装備した。

「V次元の、瞬発力」の謳い文句で市場ビュー

 第5世代となるランエボは、「ランサー・エボリューションV」を名乗って1998年1月に発売される。キャッチコピーは車名にちなんで「V(ご)次元の、瞬発力」。車種展開は従来型と同じくロードバージョンのGSRと競技用ベース車のRSをラインアップしていた。ランエボVを見て、三菱ファンは中身の進化とともにスタイリングの刷新に熱い視線を投げかけた。ボディ幅がワイドになった安定感のあるフォルムに迫力満点のエアロパーツ群、そして17インチ化されたシューズや赤塗装の“brembo”キャリパーなどがランエボの進化具合を如実に感じさせたのだ。

 すべてがグレードアップしたランエボVは、従来型と同様に高い評価を獲得し、市場で大人気モデルに発展していく。それに応えるように、WRCの舞台でもWRカーを凌駕する走りを見せたのである。

速さ鮮烈! WRCタイトルを完全制覇!

 ランサー・エボリューションVがWRCに参戦したのは、1998年シーズン第5戦のカタルニア・ラリーからだった。それまでの4戦は熟成が進んだエボⅣでエントリーし、第2戦のスウェディッシュでトミ・マキネン選手が、第3戦のサファリでリチャード・バーンズ選手が優勝するなど、好成績を達成する。そして満を持して、第5戦でエボVが投入されたのだ。

 初陣はマキネン選手が3位、バーンズ選手が4位と上々の滑り出し。第7戦のアルゼンチンではマキネン選手が優勝し、バーンズ選手は4位に入る。そして第10戦のフィンランド、第11戦のサンレモ、第12戦のオーストラリアでマキネン選手が怒涛の3連勝。最終の第13戦グレイトブリテンではバーンズ選手が勝利を飾った。三菱チームにとってシーズン最多の7勝をあげた1998年は、初のマニュファクチャラーズチャンピオンに輝くとともに、マキネン選手のドライバーズチャンピオン(史上初の3連覇)とグスタボ・トレレス選手によるグループNのドライバーズチャンピオンを獲得。見事にWRC三冠の完全制覇を成し遂げたのである。