ダットサン・キャブライト 【1964,1965,1966,1967,1968】

広い荷台を誇った働き者のセミキャブオーバー

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排気量アップで力強さを増したキャブライト

 コストパフォーマンスに優れた商業車として高い人気を集めたキャブライトは1964年に2代目に切り替わり、さらに1966年にはキャブライト1150へと進化した。1150は排気量1138ccの直列4気筒OHVエンジンであるD11型(53ps/5000rpm、8.5kg・m/2800rpm)を積むパワフルモデルだった。従来の1046ccのD型(40ps/4800rpm、7.2kg・m/2400rpm)と比較して僅か92ccの排気量拡大にすぎなかったが、出力で13ps、トルクで1.3kg・mもアップしていたのだ。
 違いは明確だった。従来は2速でやっと登っていた急な上り坂でも、新しい1150は3速のままでグングン登ったという。とくに荷物満載時はその差が明確だった。トップスピードも従来モデルは90km/hだったが、1150は100km/hに上昇していた。

標準型トラックの荷台長はクラストップ級

 逞しくなったパフォーマンスに合わせてキャブライト1150は“積む能力”にも磨きをかけた。標準型トラックの全長を3845mmから4310mmに延長し荷台を大幅に拡大する。荷台寸法は従来の2020mmから2490mmへと一挙に470mmも長くなり、クラストップの広さを誇った。ちなみに従来と同じ全長3840mmのモデルもショートボディ仕様として選ぶことができた。多くのユーザーにとって余裕ある荷台スペースを得た新型は魅力的だったが、全長の拡大にともなって1150は最小回転半径が5。6mとなっていた。従来モデルが5.0mだったから60cmの拡大である。取り回し性や機動性という面では従来からのショートボディが勝っていたのである。

 トラックとともに人気が高かったクローズドボディのライトバン、ルートバン、そして3列シートの9名乗りコーチは1150になっても全長3960mmのボディは不変だった。全長の拡大はトラックとは比較にならないほど多くの新造パーツを必要としたからだ。またクローズドボディ車は、もともとライバルを大きく凌駕するユーティリティを持っており、あえてボディを大型化する必要はなかったのである。ちなみにクローズドボディのリアドアにはスライド式を採用していたが、スライド式リアドアはキャブライトが日本で初めて実用化した装備だった。

整備性と快適性を重視したセミキャブオーバー造形

 1150はキャビンも魅力的になっていた。現代のクルマと比較すると相当にスパルタンな印象だが、それでも1150は従来モデルより乗用車的なイメージを増していた。メーターは初代ブルーバードに似た丸形2連式となり、ステアリングホイールのデザインも一新。室内側に露出していたドアヒンジもクローズドタイプとなった。ラジオやヒーター、シガーライターもオプションで装着可能だった。ちなみに中央席パセンジャーの居住性を配慮してステアリングの右側に配置したコラムセレクトの4速マニュアルミッションは、1速にもシンクロ機構が付き、操作性が大幅に向上していた。

 キャブライト1150は、短いボンネットの下にエンジンを配置したセミキャブオーバー方式を採用していたが、これは整備性と乗り心地を考慮した結果だった。荷物スペースを第一に考えるとライバルとなるトヨタのトヨエースのようなフルキャブオーバー方式が有利だった。しかしエンジンの上にパセンジャーが座るフルキャブオーバー方式では、エンジンの整備のためにシートを外したり、キャブ全体を前傾させることが必要だった。乗り心地も前輪の真上に座るカタチとなるため、路面の不整がストレートに伝わりやすかった。ダットサントラックで豊富な経験を蓄積していた日産は、商業車こそパセンジャーを疲れさせないことが大切だと認識していた。だからキャブライトはセミキャブオーバータイプを選択していたのだ。とはいえ商業車は荷物を運ぶことが本分である。キャブライト1150シリーズの標準トラックの全長拡大は、市場の「キャブライトよりトヨエースのほうがたくさん積める」という声に敏感に反応した結果だった。