MDX 【2003,2004,2005,2006】
SUVの本場、アメリカで開発された高級7シーター4WD
ホンダは、早くからアメリカ市場でブランド価値を高め、国際メーカーとしての地位を確立する。ホンダの特徴は、アメリカを販売主力マーケットとして捉えるだけでなく、クルマ文化を積極的に研究、アメリカの企業市民の一人として、ユーザーニーズに応えるクルマ作りを積極的に展開したことだった。日本メーカーとして初めてアメリカ工場での生産をスタート。1980年代に入ると、アメリカの開発拠点、“Honda R&Dアメリカズ(HRA)”の手になる専用モデルを続々と市場に投入する。
2003年2月に発売されたMDXもその1台だった。MDXは日本仕様よりひと回り大型の北米仕様オデッセイ(日本名ラグレイト)をベースにしたビッグサイズのSUVである。北米市場では2001年に高級車ブランド、アキュラの販売モデルとしてデビュー。3列シート/7名乗りパッケージングが好評を持って市場に迎えられた。日本への導入は、高級車ラインアップ充実の意味があり、レジェンドと並ぶフラッグシップの位置づけだった。ちなみにMDXの開発は前述のHRA、生産はカナダ工場が担当。日本では輸入車としてホンダベルノ店を通じて販売された。
SUVの本場はアメリカである。日本ではまだまだオフロードカーのイメージが強かった時代風潮の中で、アメリカのユーザーは、いち早くマルチユースフルな“新パッセンジャーカー”という価値に注目。SUVは、新種の乗用車としてマーケットで高い人気を得る。
MDXは、SUV先進国、アメリカ市場をターゲットにしていただけに、快適性を重視した作り込みがなされていた。しかもプレミアムモデルに相応しいゆとりと風格があった。
ボディサイズは全長4790×1955×1820mmとビッグ。エンジンは排気量3471ccのV6OHC24V(260ps/35.2kg・m)を搭載。ボディサイズはトヨタ・ハリアーよりひと回り大きく、ランドクルーザー100よりちょっぴり小さい(幅はさらに広いが…)というイメージだった。
伸びやかなスタイリングは、“サイ”をイメージしたもの。サイは、大地を力強く疾走し、いざという時にはとても俊敏な動物。「低重心、ワイドスタンスの基本プロポーションと、ショートノーズ&ビックキャビンの構成。そしてフロントマスク回りにサイの面影を宿した」と伝えられた。
MDXの特徴は室内パッケージングにあった。ミニバンの北米オデッセイをベースにしただけに室内は広大。低くフラットな構成のフロアを生かし3列シート/7名乗りを実現したのだ。さらに2−3列目には簡単操作でシートバックを倒せる分割可倒機構を採用。多彩なシートアレンジを実現する。MDXは、多人数でのロングドライブが楽しめるSUVだった。荷室容量は7名乗車時で208ℓ、2−3列目を倒すと最大1104ℓに広がり、ワゴンとして使えるユーティリティを確保していた。
装備は豪華だった。日本仕様は上級のエクスクルーシブ仕様だったこともあり、シートは本革。リアカメラ内蔵DVDナビゲーション、2−3列目シート用インテグレーテッドモニター、デュアルエアコンなどをすべて標準装備。運転するドライバーはもちろん、どの席に座っても最上のもてなしが味わえた。
メカニズム面では、凝った4WDシステムが、走りにこだわるホンダらしかった。電子制御可変トルク配分型の「VTM-4」方式を採用したのだ。VTM-4は、センターデフとリアデフのLSD機能を備えた独自のツインクラッチ機構により、走行状況に応じて無段階に前後の駆動力を制御する4WDシステム。通常走行時は燃費に優れたFF、発進や登坂時、雪道などでは4WDに自動的に切り替え、スムーズで安心度の高い走りを約束した。ぬかるみなどからの脱出を考慮し、前後輪の駆動力配分をほぼ50対50に固定するロックモードも設定していた。
MDXの走りは、ABSや、横滑り抑止機能をプラスしたVSA機構の助けもあってどんな路面状況でも安定しており、信頼できるものだった。
エンジンはパワフル。可変吸気システムや、電子制御スロットルの導入で、高回転域だけでなく全域で力強い加速が味わえた。燃費も7.8km/ℓ(10・15モード)と、2030kgの車重を考えると優れていた。
MDXは、北米設計らしいゆとりでユーザーを魅了する。プレミアムSUVとして憧れを集めた。2004年からはシンプル装備のベーシックグレードを加え、2006年まで販売。MDXは、ホンダのグローバルなクルマ作りを象徴する、隠れた名車だった。