SLRマクラーレン 【2003,2004,2005,2006,2007,2008,2009】

メルセデスとマクラーレンがタッグを組んだスーパースポーツ

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


F1に直結するスーパースポーツを企画

 1998年、メルセデス・ベンツは、大胆な戦略に打って出る。スーパースポーツの市販化だ。
 新プロジェクトに対し、メルセデス・ベンツがパートナーとして選んだのは、F1レースで強固なパートナーシップを結ぶ英国のマクラーレンだった。当時のマクラーレン・グループはロードカー部門のマクラーレン・カーズの伸長がままならず、新たな展開を模索していた。ブランドイメージのさらなる発展を画策したメルセデス・ベンツと、事業の進展を狙ったマクラーレン・カーズ−−両社の商業的な思惑は、F1の高性能イメージに直結するスーパースポーツの開発および市販化という形で具現化されることとなった。

往年の名車と共同開発社を車名に取り込んで市場デビュー

 メルセデス・ベンツとマクラーレンの共同事業は、2003年開催のフランクフルト・ショーで陽の目を見る。メルセデス・ベンツのブースの雛壇で、「SLRマクラーレン」の車名を冠したスーパースポーツカーがスポットライトを浴びたのだ。SLRマクラーレンは、ショーデビュー後に走行テストと改良を鋭意実施し、同年12月には最終プロダクションモデルが完成し2004年には市販がスタートする。市販化に当たっては、製造をマクラーレン・カーズの英国工場が行い、販売はメルセデス・ベンツが担う体制を構築した。

 コードネームC199のSLRマクラーレンは、基本骨格にF1マシンの技術を活用したカーボンファイバー複合材の軽量・高剛性モノコックボディを採用する。懸架機構には強化タイプの前後ダブルウィッシュボーン/コイルをセット。制動機構には炭素繊維強化セラミックディスク“C-BRAKE”を組み込んだ4輪ベンチレーテッドディスク(前6ピストン/後4ピストン)を装備。さらに、120km/h以上からのブレーキング時にスポイラー形状のリアパネルを跳ね上げることで空気抵抗を増やし、制動性能とスタビリティを向上させるエアブレーキ機能も内蔵した。

626psの強心臓!V8スーパーチャージャー搭載

 搭載エンジンはAMGが専用開発した90度のバンク角を持つM155型5439cc・V8OHCスーパーチャージャーを採用する。スーパーチャージャーの最大過給圧を0.9バールに設定し、最高出力は626ps/6500rpm、最大トルクは79.5kg・m/3250〜5000rpmを発生した。トランスミッションは、パドルシフト付き電子制御式5速ATのAMGスピードシフト。パワートレイン本体はフロントミッドにレイアウト。この効果で1700kg半ばの車両重量の前後重量配分は前51:後49と、FR車としてほぼ理想的なレイアウトを実現していた。

 エクステリアについてはF1マシンを彷彿させるフロントノーズや跳ね上げ式のスイングウイングドア、3本の縦バーと2本の横バーを配したサイドのエアアウトレット、流麗なラインを描くリアセクションなどでクーペボディを構成。上部後端にはアダプティブリアスポイラーを装備する。ボディサイズは全長4656×全幅1908×全高1261mm、ホイールベース2700mmに設定した。インテリアは、メルセデスのスーパースポーツらしいデザインで仕立てられる。シートはフルバケットタイプで、骨格にはカーボンファイバー材を用いた。エンターテインメント装備として、BOSEサウンドシステムなども用意する。トランク容量は272Lを確保していた。

ハイパフォーマンスモデルの「722エディション」を発売

 最高速度335km/h、0→100km/h加速3.8秒というハイパフォーマンスを実現したSLRマクラーレンは、世界中のクルマ好きから大注目を集め、メルセデス・ベンツおよびマクラーレンのブランドイメージをいっそう高いレベルへと昇華させる。この勢いを衰えさせまいと、開発現場ではSLRマクラーレンの改良を精力的に実施していった。

 2006年開催のパリ・サロンでは高性能バージョンの「722エディション」を発表し、後に150台限定で発売する。車名の722は1955年4月開催のミッレ・ミリア・レースでデビューウィンを飾ったスターリング・モス/デニス・ジェンキンソン選手組のメルセデス・ベンツ300SLR(W196S)のカーナンバーで、スタート時刻のAM7時22分に由来した。SLRマクラーレン722エディションのエンジンには、専用チューニングを施したM155型ユニットを搭載。パワー&トルクは650ps/6500rpm、83.6kg・m/4000rpmにまで引き上がり、同時に車両重量を44kgほど軽量化した結果、最高速度が337km/h、0→100km/h加速が3.6秒にまで向上した。

外装では専用デザインのカーボンエクステリアやブラック塗装の軽量19インチアルミホイール、パラジウムグレーペイントのヘッドライトなどを、内装では本革&スエード巻きステアリングやカーボンおよびブラックスエードをあしらったインテリアトリム、セミアニリンレザー&アルカンタラ表地のフルバケットシート、レッドカラーシートベルトなどを採用。出力アップに即して車高を10mmローダウンさせた専用強化サスペンションや強化ブレーキ、改良版のアダプティブリアスポイラーも装備していた。

 2007年に入ると、722エディションをベースとしたモータースポーツ用モデルの「722GT」が登場する。メルセデス・ベンツの認可を得て英国のRML(Ray Mallock Ltd.)が製作した722GTは、M155型エンジンのスーパーチャージャーの最大過給圧を1.75バールに高めるなどしてパワー&トルクを690ps/88.5kg・mにまでアップ。また、快適装備を省くなどして車重を1300kg台にまで軽量化した。生産台数は21台。基本的にワンメイクレースの参戦用として販売された。

オープンモデルの「ロードスター」をリリース

 2007年5月にはオープンモデルのSLRマクラーレン ロードスターを発表し、9月よりデリバリーを開始する。ルーフ部はセミオートマチック式の電動ソフトトップで構成。ルーフ内側のロックを解除してスイッチを操作すれば、約10秒でオープンに早変わりする。オープンボディ化に際しては、Aピラーやコクピット周囲を中心に徹底した補強を実施。万が一の転倒に備えてロールオーバーバーも装備する。さらに、風の巻き込みを抑えるドラフトストップなども設定した。ドアは跳ね上げ式のスイングウイングタイプを継続して採用する。パワートレインは基本的にクーペボディと共通。ボディ補強などで車重が50kgほど増えたために、最高速度は3km/h低い332km/hとなった。

 2009年4月になるとロードスターの722エディションが「722S」のグレード名でデビューし、150台の限定で販売される。搭載エンジンには650ps/83.6kg・mのパワー&トルクを発生するM155型ユニットを採用。足回りは専用強化サスペンションや強化ブレーキ、19インチタイヤ&ホイール等で武装した。また、内外装には専用カーボン製パーツやドアトリムおよびシート表地などを装備してスポーツマインドを盛り上げる。パフォーマンス面では最高速度が334km/h、0→100km/h加速が3.6秒に達した。

最終モデルの「スターリング・モス」をもってプロジェクトを完結

 2009年開催のNAIAS(北米国際自動車ショー)では、いわゆるスピードスターのボディ形状を採用した「SLRスターリング・モス」が発表され、同年6月より75台の限定で市販を開始する。

往年の300SLRの造形をモチーフに最新の技術で再現したエクステリアは、専用設計のカーボンモノコックボディに、ウィンドスクリーンおよびサイドウインドウを省いたうえで装着したインパネ上部を覆うパネル、シート後方に設けたデュアルドーム、新形状のバンパーやフロントフード、ヘッドライトなどで仕立てた精悍なフロントマスク、2つのホールを内蔵したサイドのエアアウトレット、空力特性の向上を図ったスタイリッシュなリアセクションなどで構成。跳ね上げ式のスイングウイングドアは、継続して採用された。搭載エンジンは650ps/83.6kg・mのパワー&トルクを発生するM155型ユニットを踏襲。車重が300kgほど軽くなった結果、最高速度は350km/h、0→100km/h加速は3.5秒に向上していた。

 SLRマクラーレンは、メルセデス・ベンツのブランドイメージをスーパースポーツのカテゴリーにも発展させると同時に、マクラーレンにロードカーの量産化のノウハウを習得させたエポックメイキング車だった。SLRマクラーレンは、2009年5月をもって生産終了。生み出された台数は、このクラスとしては多めの約2000台だった。