セルシオ 【1994,1995,1996,1997,1998,1999,2000】

すべてが“深化”した世界の高級車の規範

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“変化”ではなく“深化”を目指した2代目の登場

 1989年10月にデビューし、世界の高級車シーンに衝撃を与えたセルシオ(輸出名レクサスLS)は、1994年10月に2代目にモデルチェンジする。2代目は初代が掲げた“高級車の理想”を継承。変化ではなく“深化”を目指した熟成モデルだった。
 ラインアップはA仕様/B仕様/C仕様の3グレード構成。電子制御エアサスペンションを標準装備するC仕様には、後席パワーリクライニング機能などを備えたFパッケージがオプション設定されていた。

 新型の思想は、スタイリングに現れている。大型サイズの角形ヘッドランプと印象的なセンターグリルで構成したフロントマスクをはじめ、各部の造型手法は初代そのまま。ただしすべてが機能の裏付けを持って深化していた。空気抵抗係数Cd値は0.28。この数値は当時の世界最高水準で、ボディ下面の空気の流れにも細心の注意を払った結果だった。空気抵抗は、燃費、静粛性、車両安定性、操縦安定性などクルマのすべてに影響を及ぼす。だからこそ開発陣は徹底的にこだわったのである。

使い勝手を大切にしながら室内を拡大

 ボディサイズ(全長4995×全幅1830×全高1415mm)は初代と事実上同一のまま、室内空間をぐんと拡大したのも2代目の美点だった。ホイールベース(2850mm)を後方に35mm延長。フロントのウインドシールドと前席を初代よりも前方に移動しつつ、後席もより後方に配置することで、後席レッグスペースを70mmも拡大したのだ。室内空間、とくに後席スペースの余裕の少なさは、フォーマルカーとして見た場合の初代セルシオの数少ない欠点だった。2代目はそれをボディの拡大なしに見事に解決していた。

 ちなみに開発陣がボディサイズ拡大を嫌ったのは、日本のユーザーを大切にしたからだった。欧米などの国際市場ではもっと大型サイズでも問題はない。しかし日本の道路&駐車場事情を考えると、これ以上のサイズ拡大は使い勝手の大幅なマイナスを生むという判断を下したのだ。セルシオは大型サルーンであっても確かに日本でも扱いやすいクルマだった。大抵の駐車場には無理なく収まったし、狭い道に迷い込んでも持て余すことはなかった。運転のしやすさは開発陣の深い洞察力が生みだしたものだった。

各部リファインでクラス最高燃費をマーク

 メカニズム面も深化していた。排気量3968ccのV型8気筒DOHC32Vエンジンは、燃焼効率・吸気効率の向上、圧縮比の変更(10.0→10.4)とフリクションロスの低減を図ることで旧型より5ps/1kg・mパワフルな265ps/37.0kg・mを実現。同時に10・15モードで8km/Lというクラス最高燃費をマークする。燃費の向上には、エンジン本体の改良だけでなく、4速ATのトルクコンバーター内のオイルの流れを数値解析し、トルクコンバーターファン形状を曲面仕上げとしたことも大きく貢献していた。

 フィーリング面のリファインも徹底して行われた。アクセルペダルは、その形状から踏み込んだ時の重さのフィールまで再検討。パワフルな印象とともに高級車らしい重厚なフィールを与えるようにセッティングが行われた。
 安全面では運転席&助手席エアバッグを標準装備。ボディも衝突時の衝撃を一段と有効に吸収する安全構造となり、ABSやTRC(トラクションhこんとロール)の制御も緻密さを増した。4輪ダブルウィッシュボーン式の足回りは、予防安全(アクティブセーフティ)の観点からジオメトリーとホイールアライメントを一新。操縦安定性と乗り心地のバランスが一段と高次元になった。ブレーキをアルミ製の対向4ポッドキャリパーと16インチ大径ローターの組み合わせとし、さらに走行風で効果的にブレーキを冷却する工夫を盛り込んだのも安全性向上のためである。

ノイズをデザインする。それがセルシオのテーマ

 セルシオの静粛性は世界最高水準。初代モデルですでに満足すべきレベルに到達していた。そこで2代目が目指したのは「静けさ」自体をより心地よいものにすること。開発陣はノイズの可視化に挑戦する。走行状態のノイズを周波数別に色分けして、徹底的に分析。そのデータを積み重ねることで、セルシオ独自の静粛性を追求したのだ。目指したのは「無機質な無音空間」ではなく、ノイズ自体をできるだけ快適な音に近づけた、「心安らぐ静かな室内空間」。ちなみに心地いい静粛性実現のため、エンジンからデファレンシャルまでを直線配置し振動と騒音の源流対策を実施。アルミホイールも風切り音の少ない形状に仕上げていた。

 2代目セルシオは1998年8月にマイナーチェンジを実施。サイドエアバッグや一段と強固になった安全ボディをはじめ、280psの新エンジンと5速ATを得てさらに深化する。その卓越した完成度で、再びメルセデス・ベンツやBMWに衝撃を与え、高級車のベンチマークとなった。