ミゼットII 【1996,1997,1998,1999,2000,2001】

“ミニマム”を追求したユニーク発想Kピックアップ

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時代が求める軽自動車スタイルを独自追求

 消費税の導入により軽ボンネットバン人気が衰退し、またハイパワー競争にも陰りが見え始めていた1990年代初頭、軽自動車界を牽引するダイハツ工業は、市場が求める新しいスタイルの軽自動車を多角的に検討する。その一環として企画されたのが、ダイハツの記念碑といえるモデルで、1957年のデビューから1960年代にかけて一大ブームを巻き起こした軽3輪トラック「初代ミゼット」の復活だった。

 小回りが利いて取り扱いが楽で、利便性が高く、維持費も安く済み、しかも個性的なスタイルで街の風景に馴染む−−。“街のヘリコプター”と称して高い人気を集めた初代ミゼットのコンセプトを、現代風にアレンジして再登場させようとしたのだ。

名車のイメージを投影した超小型トラック

 基本コンポーネントに関しては、開発中の8代目ハイゼット(S100系、1994年1月デビュー)のラダーフレームや前マクファーソンストラット/後リーフリジッドのシャシーなどを流用しながら専用セッティングを施し、丸型ヘッドライトやフロントサイクルフェンダーをボディの外側に張り出させた専用デザインのピックアップ(トラック)ボディを構築。ボディサイズは全長2790〜2865×全幅1295×全高1650mm/ホイールベース1840mmと、ハイゼットよりもコンパクトに仕立て、最小回転半径は3.6mを実現する。

 パワーユニットはEF型659cc直列3気筒OHCエンジン+キャブレター仕様。専用チューニング(最高出力31ps/4900rpm、最大トルク5.1kg・m/3200rpm)を施しながらフロントミッドシップに配置し、セミキャブレイアウトを構成。トランスミッションには4速MTをセットし、後輪を駆動した。また、乗車定員は1名としながら左右に乗降ドアを設定して高い利便性を具現化する。さらに、有効な荷台スペース(荷台長1145×幅1205×高170mm)を確保するためにスペアタイヤはフロントフード部に設置した。

個性的なミニマムトランスポーターの登場

 新世代のミゼットは「ミゼットII」を名乗り、まずコンセプトモデルが1993年開催の第30回東京モーターで披露された。コンセプトカーは来場者の大きな注目を集め、当時のダイハツのスタッフによると、その完成度の高さから「発売日や車両価格を尋ねる人が多かった」そうだ。さらに、1995年開催の第31回ショーでは、より市販モデルに近いプロトタイプを展示。そして、1996年4月になると“わが街のミニマムトランスポーター”を謳う「ミゼットII」が市場デビューを果たした。

 市販版のミゼットIIは、ベーシック仕様のBタイプ、メッキヘッドライトハウジングやボディ同色サイドスカート、ファブリックシートを装備した上級グレードのDタイプ、そしてフロントバンパーガードやリアガードバー、ボディ同色スペアタイヤケースなどを組み込んだドレスアップ志向のRタイプという3グレードで構成し、車両価格は46万9000円〜59万9000円と中型モーターサイクル並みの価格帯に設定する。最大積載量は150kgを確保。ボディ色はイメージカラーのエメラルドグリーンメタリックのほか、オフブラックマイカとホワイトをラインアップした。

 1名乗車で使用パターンもかなり限定的なために爆発的な人気車にはならなかったものの、それでもデビュー当初は月販目標の1000台を超える受注を記録。購入層は近距離の商品デリバリーに使用するユーザーが中心で、前述のダイハツ・スタッフによると「店のマスコットとして活用する人も多くいた」そうだ。

2名乗りカーゴの追加設定

 順調なスタートを切ったミゼットII。開発現場ではさらなる拡販を狙った車種強化を
実施する。1996年9月には、Rタイプをベースとした装備充実の特別仕様車「Rリミテッド」を設定。また、ボディカラーにはイエローなどを追加した。

 1997年1月になると、“ふたりで飼おう”を謳う2名乗車が可能なライトバンの「カーゴ」がラインアップに加わる。荷室スペースは長1095×幅1190×高1060mmを確保し、また上ヒンジ式のリアゲートと左リアサイドウィンドウを装備。トランスミッションにはコラム式の3速ATを新採用し、横並びの2名乗車を可能とした。ボディサイズは全長2830〜2905×全幅1335×全高1705mmにまで拡大したものの、軽商用バンのハイゼットなどよりはずっとコンパクト。最小回転半径も3.6mをキープする。グレードはDタイプとAIBA WORKSがデザインを手がけたRタイプを用意。車両価格は62万2000円〜78万4000円に設定した。なお、カーゴの登場に合わせて、従来のトラックは「ピック」と呼称するようになった。

軽自動車の新規格に対応した改良を実施

 カーゴの追加によってユーザーの幅を広げたミゼットIIは、1997年10月になるとDタイプ・2名乗りをベースとする特別仕様車「アメリカンカスタム」のカーゴカスタムとカスタム(ピック)を発売する。外装にはスペアタイヤケースやメッキフルホイールキャップ、ピンストライプ(ピックはドアのみ)、スペアタイヤケース“カスタム”マーク、白色ヘッドランプカバー、ボディ下部同色バンパーおよびサイドスカート、メッキ加飾ドアアウターハンドルなどを特別装備。また、カーゴカスタムにはバックドアハンドルやサイドドアキーシリンダー、リアワイパーを標準で組み込む。ボディカラーはカーゴカスタムにホワイト&アプリコットベージュ、カスタムにホワイト&ブルーの2トーンを採用した。一方、内装にはナルディ製本革巻きステアリングホイールやウッド調パネル、プロテインレザーシート、メッキモール付ドアトリムなどを特別装備。プロテインレザーとドアトリムのカラーは、カーゴカスタムがブラウン、カスタムがグレーでアレンジした。

 1998年9月には仕様変更を行い、上級グレードとして「カスタム」を新設定。外装にはカラードバンパーやメッキヘッドランプカバー、メッキフルホイールキャップなどを、内装にはプロテインレザーシートやナルディ製本革巻きステアリングホイール、AM/FM HiFiステレオなどを標準で採用する。さらに、全車にエアコンを標準装備(Bタイプのみオプション)。また、Rタイプはカタログから外れた。

生産中止後もマニアックな人気を維持

 1999年9月になると、前年10月に実施された軽自動車の規格改定および衝突安全基準の強化に適合させる商品改良を行う。安全性の面では、衝撃吸収ボディの採用により新国内衝突安全基準(前面衝突および後面衝突)をクリアしたほか、運転席SRSエアバッグのオプション設定やフォースリミッター機構付3点式ELRシートベルト/衝撃吸収ステアリングホイール/8インチブレーキブースターの全車標準化を敢行。また、パワーユニットはEFI(電子制御燃料噴射装置)やDLI(ディストリビューターレス・イグニッション)、ダイレクト駆動バルブ、KCS(ノックコントロールシステム)を組み込んだ“TOPAZ(トパーズ)”エンジンシリーズのEF-SE型659cc直列3気筒OHC(最高出力33ps/4900rpm、最大トルク5.2kg・m/4000rpm)に換装する。さらに、スペアタイヤの荷室および荷台への移設やリアコンビネーションランプの変更(角型→丸型)、新ボディカラーのライトブルーの追加、シート表皮の刷新などを行って新鮮味を引き上げた。

 毎年、話題を振りまいたミゼットIIだったが、年を経るに連れて販売台数は低迷。月販目標台数も、1999年の改良からは200台にまで引き下げる。そして、2001年6月にはミゼット工房における生産を終了。以後は在庫分のみの販売となった。
 5年あまりに渡る生産台数は約1万4000台にとどまり、決してヒット作とはいえなかったミゼットII。しかし、その唯一無二の個性あふれるキャラクターは根強いファンを生み、21世紀に入っても多くが現役で走り続ける。また、生産工程ではダイハツのモノづくりの伝承として活用されたことから、その存在意義は高く評価されている。形(なり)は小さいが価値は大きい−−ミゼットIIはそんな偉大な名車である。