MPV 【1990,1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998,1999】

アメリカ研究から誕生した新発想ミニバン

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北米市場を見据えた国際派

 MPVは日本車には珍しいアルファベットを並べただけの車名を持っている。日本に先駆けて1988年10月アメリカやカナダの市場向けに登場したマツダのミニバンである。MPVのネーミングは、英語のMulti Purpose Vehicleのイニシャルそのもの。アメリカのカリフォルニア州にあるマツダのデザインセンターで開発されたというだけに、アメリカで流行していたいわゆる1.5BOXという形容が適当な短いボンネットを持つスタイルとなっていた。アメリカ市場を最優先して誕生したクルマで、当初は日本市場への導入はあまり考えていなかったようだ。しかし、このおよそ日本車離れした内外装やスタイルが現地で好評なことが日本にも伝えられると話題となり、1990年1月から日本市場へも投入されることになった。日本仕様(とはいえアメリカ生産ではなく日本国内生産だが)は基本的にはアメリカ、カナダ向けモデルと共通だったが、モデル・ラインアップは簡素化され、後輪駆動仕様のみとされた。

本革シート標準で定員は7名

 車両サイズは、ミニバンとは言え日本車の中ではさすがに大きく、全長は4465mmだが、全幅は1825mm、全高が1745mm、ホイールベースは2805mmの設定で完全な3ナンバーサイズ。全体のボリュームは大型乗用車のように大きく感じられた。最近のミニバンのように、左右中央部のサイドドアはスライド式ではなく、通常の横開き式となっていたのは大陸的な感覚だった。インテリアは、前方から2人、2人、3人配列の7人乗り3列シートを備え、最後部3列目のシートは必要に応じて前方に畳み込むことが可能で、大きなラゲッジスペースとなる。室内幅の広さを生かして、当時の国産ミニバンには珍しく、2列目と3列目のシート間はウォークスルーとなっている。さらに、ヘッドレストの無い2列目シートのシートバックを倒して、3列目シートの座面と繋げれば、大人が横になれるほどのフラットなベッドにもなった。この辺りのデザインとアレンジ性はアメリカのミニバンそのままのスタイルである。ちなみに当初モデルのシート表地は革張りのみの設定となっていた。

 安全装備は必要最小限と言えるもので、ブレーキは前ディスク&後ドラムで後輪にだけABSが装備されている。全席3点式シートベルトの備えは無く、エアバッグも運転席のみの設定なのは、当時のアメリカの安全基準に準拠したもの。とはいえ安全性に対するユーザーの評価は好意的で、問題にする顧客はいなかった。当時の国産のミニバンには無かった3列7人乗りが可能なこの伸びやかなボディサイズだけで購入するユーザーも多かったという。

余裕のV6ユニットが提供する走り

 フロントに搭載され、後2輪を駆動するエンジンは、ルーチェ・シリーズに使われている排気量2954ccのV型6気筒SOHC18バルブのユニットで、155ps/5000rpmの最高出力と23.5kg・m/4000rpmのトルクを発揮し、1720kgと決して軽くないボディに実用上十分な性能を与えていた。サスペンションがサルーン的に柔らかく、乗り心地が良かったのは大きな特徴だった。当時、一部メディアでは最も走りの質感の高いマツダ車と評価されたほどだ。

 MPVは、実用性の高さとアメリカナイズされたスタイル&インテリアで、日本のマーケットでミニバンというジャンルに市民権を与えるきっかけとなった。このマツダMPVの好調振りにも象徴されるように、1990年代後半の日本マーケットは高機能なミニバン、あるいはSUV (Sport Utility Vehile)と呼ばれる多目的車の時代を迎えるのだ。MPVは、日本のクルマ事情を一変させるきっかけになったモデルかもしれない。