FIAT500e 【2022】

フィアット初の電気自動車

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中川 和昌
生まれ変わったFIAT500e

1936年に登場した初代500はイタリア語で「ハツカネズミ」を意味する「トッポリーノ」のネーミングで親しまれ、第2次大戦後の1955年までに系列車両であるA、B、Cが約60万台生産され、コンパクトカーとして世界的に大きな成功を収めた。
 その後継として1957年に登場したのが、FIAT NUOVA 500、いわゆる新型フィアット500で、2007年に発表され今日まで継続するFIAT500はそのイメージを強調するキュートなスタイルが特徴的である。NUOVA500がRRであったのに対して、駆動方式をFFに変更され、多くのバリエーションを送り出し、マイナーチェンジを繰り返しながら、今日に至り、コンパクトカーとして多くの成功を収めている。
 こうした流れの中で、フィアットブランド初となるバッテリー式EV自動車を2020年にワールドプレミアしたのがFIAT500eであり、言うまでもなく、フィアット、アルファロメオ、アバルト、ジープなどを輸入販売するFCAジャパンと、プジョー、シトロエン、DSオートモビルなど輸入販売するPSAグループジャパンが2022年3月1日に事業を統合し、新会社としてStellantisジャパンを設立、2022年4月5日に日本への導入を発表した。

歴代500のDNAを継承。

まず、注目すべきはNUOVA500や歴代500をモチーフにしたアイコニックなモダンかつキュートな流れを汲んだデザインで、ボディサイズは全長3630mm×全幅1685mm×全高1530mm、現行モデルより若干大きいが日本の道路環境で扱いやすいコンパクトさはそのまま継承している。ボディバリエーションは3ドアハッチバックと電動開閉式ソフトトップ・カブリオレの2車種で、ラインナップは、3ドアハッチバックが、500e Pop(450万円)、500e Icon(485万円)、500e Open(495万円)の3車種で、とくにカブリオレは電気自動車としては唯一無二の存在であり、EVならではの静かで滑らかな走行性とオープンエアの快適性を体感できる。

イタリアンデザインに多くを継承。

さらにグリルのないフロントマスクには500のロゴの末尾0をeにしたエンブレムが際立ち、多くの運転支援システムを備え、先行車だけでなく、歩行者や自転車も検知可能な衝突被害軽減ブレーキ、車線から外れそうになるとハンドルの振動や警告音で注意を促すレーンデパーチャーワーニング、リアパーキングカメラ(ステアリング連動ガイドライン付)、オートマチックハイビームなどを装備して、これまでの500のDNAを多くの点で継承しながら、新世代の電気自動車として生まれ変わっていると思っていい。

イタリアン・モダンなインテリア

さらに、乗り込んで心地良いのはイタリアンなインテリアだ。フィアットのロゴをあしらったモノグラムのシート表皮、トリノの街並みが描かれたスマートフォントレイ、ドアハンドル底面にあしらわれた「Made in Torino」の文字やNuova 500のイラストレーションなど遊び心のある雰囲気が目をひく。インストゥルメントパネル中央には10.25インチの「Uconnectディスプレイ」が配され、純正ナビゲーションを内蔵、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応している。

パワーユニットは全モデル共通、最大航続距離はWLTCモードで335㎞。

搭載するパワーユニットは全モデル共通で、最高出力87kW(118ps)、最大トルク220Nmの電気モーターを搭載。42kWhのリチウムイオン・バッテリーパックを床下に配置して低重心で、優れた重量バランスを実現。コンパクトEVでありながら、航続可能距離は、最大335km(WLTC)を達成。充電は単相交流200V用の普通充電と、付属のCHAdeMOアダプターを介した急速充電に対応する。
 まず初めに試乗したのはエントリーモデルで受注生産の500eポップで、走り出して、まず感じるのは、全体的に質の高い走行性だった。まず、スタートボタンを押すとシステムが起動、シフトは「P」「R」「N」「D」のセレクターボタン押して選ぶ。走行モードシステム「e-モードセレクター」は3種類で、「NORMAL」ではペダル応答性が高く、エンジン車のようなドライブ感覚を楽しめるという。「RANGE」では、回生ブレーキの効きが強まり、アクセルペダルを離しただけでブレーキを掛けたような強い減速が得られる。「SHERPA」は、アクセルレスポンスの制御やシートヒーターのオフなどによりエネルギー消費を極力抑え、航続距離を最大化するエコモードとなっている。当然RANGEモードで「D」ボタンを押してアクセルを踏み込んでいくと、滑らかに発進して、アクセルを緩めると、程よくブレーキがかかり、EVに乗っていることを感じさせてくれる。先に触れたようにNORMALモードを選ぶとガソリンエンジン車と同じような運転感覚であることも魅力的で、このふたつのモードの最高速度は時速150㎞に設定され、高速巡行も快適である。バッテリー容量は42kWhで、最大航続距離はWLTCモードで335㎞とコンパクトなEVとしては優秀で、普通充電と急速充電に対応している。試乗車に乗り始めた時は、バッテリー残量が92%で、残存航続距離が268㎞だったが、今回の試乗で、横浜市街地をメインに若干高速を走って、23.9㎞走行、平均速度が14㎞/hで、走行時間が1時間40分、結果残量は88%、航続距離244㎞と、実用的と言える。もちろん速度を上げれば、航続距離は少なくなるが、日常的な使用なら実用的だと思う。

コンパクトカーとは思えない上質な走行性

さらにコンパクトカーとは思えないほど乗り味は上質で、高級感のある室内に収まり、走り出した途端に、しなやかな足回りが際立ち、全長わずか3630㎜のシャシーとは思えないほどの快適性に驚かされる。EV車であれば、当然フロア下のバッテリーの重量があり、ボディサイズに対して、1320kgの車重はけして軽くはないが、それを有効活用していると言える。もちろんハンドリングもイタリアンで、スポーツライクな感覚も備えている。
 要するに、歴代500のDNAを受け継ぎながら、モダンなスタイルやデザインと、コンパクトカーとは思えないほどの快適性や先進安全性を備え、電気自動車としての多くのメリットを生かして、イタリアンとしての魅力を前面に打ち出していると言えば、イタリア好きにとって、魅力的だと言える。しかも、2020年3月にはイタリアで、EVになった新型のワンオフモデルとして、500eジョルジオ・アルマーニを発表しているが、いかに魅力的か理解できる。