セフィーロ 【1988,1989,1990,1991,1992,1993,1994】

遊びゴコロを大切にしたスペシャルティセダン

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


知的ヤングアダルトを意識した4ドア

 日産セフィーロはライバルであるトヨタのマークII系3BROS車(マークII、チェイサー、クレスタ)への強力な武器として、主として販売店からの要請によって誕生したモデルだった。高級化の道を走って価格が高騰し、ユーザー年齢層が上昇していたローレルや、熱烈なファンを持つものの販売成績が伸び悩んでいたスカイラインGTを補強する役割りが与えられていた。車名の「セフィーロ(CEFIRO)」とは、地中海に春をもたらす西風を意味するスペイン語をもとにした名前であると言う。

 セフィーロのメインターゲットは30代前半の「美しさ・遊び心」を大切にする知的ヤングアダルトとされ、スタイリッシュなエクステリア、くつろぎを感じさせるインテリア、ゆとりと安心の走りの3点を高次元でバランスさせることが開発コンセプトとして規定された。
 セフィーロは、ワイドバリエーションを狙ったモデルではない。最初から4ドアセダン一車種としている。ただし、エクステリアはもちろん、インテリア、メカニズムまで、すべてに開発者のこだわりが貫かれていた。スタイリングは6ライト(側面の窓が3つある)の4ドアで、当時人気絶頂だったシルビアのセダン版ともいうべきスポーティかつエレガントな雰囲気を漂わせた。マークⅡとは全くテイストの異なる曲面を多用したもので、空気抵抗係数Cd=0.32と優れた値を実現している。外観上の大きな特徴は、2分割型のスリットを持つ透明プラスチック製のグリルとフォグライトなどの補助灯を含む6灯式(ヘッドランプは小径プロジェクター式)のヘッドライト部分、曲面豊かなサイドパネルとそれに続くトランクだ。全長4960㎜、全幅1695㎜、全高1375㎜、ホイールベース2670㎜のサイズは、ライバルとなるマークⅡにほぼ等しい。前・マクファーソン・ストラット/コイル・スプリング、後・マルチリンク/コイル・スプリングのサスペンションは、シルビアからの流用である。ブレーキは前後輪ともディスク・ブレーキが装備される。

走りに重点を置いたメカニズム

 搭載されるエンジンは3種あるが、最も強力な仕様ではスカイラインやローレルにも使われているRB20系の直列6気筒DOHC24バルブにインタークーラー付きターボチャージャーを装備したRB20DET型となり、205ps/6400rpmの最高出力と27.0㎏・m/3200rpmの最大トルクを発揮する。車重は最も重い仕様でも1350㎏と比較的軽いので、最強力なエンジンを搭載したモデルでは性能的にもマークⅡを多くの部分で超えるものとなっている。マークⅡがあらゆる場面に過不足なく適応できる雰囲気を持っているのに比べ、セフィーロはどちらかというと走ることそのものに重点を置いたものだ。例えて言えば、メルセデス・ベンツ(マークⅡ)とBMW(セフィーロ)の違いでもあろうか。いずれにしても、「アンチ・マークⅡ」として計画されたセフィーロの狙いは、クルマとしてはかなり高いレベルで成功していた。メカニズム面ではローレルやスカイラインと共通部分が多いものの、走りの完成度は高く、新世代ドライバーズサルーンとして独自の世界を実現していた。シンガーソングライターの井上陽水を起用した「お元気ですか~」と言う斬新なCMも話題を集める。

販売成績を分けた弱点とは!?

 日産は、このセフィーロによって、イメージが旧態化していたローレルに代わり、マークⅡからのシェア奪回を狙った。だが既存のモデルからのコンポーネンツを流用したモデルではあまり大きな成果には結び付かなかったようであった。販売店の系列が限定されていたことも販売上のネックとなってしまった。クルマがいかに優れていようとも、販売戦略が不十分なままでは販売上の成功は望めない。加えて、車名やイメージが一般に浸透せず、このクラスの大方のユーザーは相変わらずマークII系3BROS車を買い続けたのだ。

 両車を直接比較した場合、造り込みのレベルや使用されている素材など、あるいはインテリアやエクステリアのデザイン全体の持っている雰囲気は、明らかにマークⅡの方が上だったからだ。セフィーロは、このクラスの4ドアセダンとしては、かなり完成度が高く良く出来たクルマではあったのだが、理屈抜きの豪華さや高級車然とした存在感などの感覚的な部分でマークII系3BROS車には及ばなかった。セフィーロには個性的なスタイリング、十分以上の走行性能など、クルマとしての魅力はあったのだが、それらと販売上のイメージを巧く結び付けられなかったわけだ。旧い時代からの技術優先という傾向の強い日産らしいところであった。