Q7 【2005,2006,2007,2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014,2015】

プレミアムSUVの頂点に位置するクワトロ

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


アウディ流クロスオーバーSUVの開発

 1990年代終盤から2000年代初頭にかけての自動車業界は、世界規模で自動車メーカーの合従連衡が進んだ時代だった。一方で業界の識者からは「企業グループが大きくなった分、ブランドイメージの向上を果たさないと世界市場での販売台数は伸びない」と指摘される。
 ドイツ最大の自動車企業であるフォルクスワーゲングループ内のプレミアムブランドに位置するアウディは、そうした意見を重視し、市場にアピールできるニューモデルを積極的に企画していく。とくに力を入れたのが、従来のアウディのラインアップにはない車種で、しかも新興国を含めて人気が上昇しているカテゴリー、すなわちクロスオーバーSUVの創出だった。

 アウディブランドならではのプレミアム性が感じられるクロスオーバーSUVに仕立てるためには−−。まず開発陣は、アウディの高性能技術の代名詞であり、SUVの駆動系としても大いに活用できる独自のフルタイム4WDシステムの“quattro”(クワトロ)を前面に押し出す戦略を練る。同時に、車両全体のイメージを“先進”や“洗練”で括り、他社のSUVとは一線を画す方針を打ち出した。

最新テクノロジーを積極的に投入

 基本骨格に関しては、フォルクスワーゲン・トゥアレグやポルシェ・カイエン(ともに2002年デビュー)に使用されるフォルクスワーゲングループのPL71プラットフォームをベースとしたスチールモノコックボディで構成する。ボディ自体は全体の58%に高張力鋼板または超高張力鋼板を導入して高い剛性を確保。また、フロントフードやフロントフェンダー、リアゲートなど大きな力が作用しない部分にはアルミ素材を用いて軽量化を果たした。
 懸架機構はアームの多くにアルミ鍛造製を用いた前4リンク/後トラペゾイダルのダブルウィッシュボーン形式とスタビライザーで構成。コイルスプリングとダンパーは固定式タイプのほか、135〜240mmの範囲内で最低地上高が調整できるエアスプリングと減衰力を連続的に変化させるダンパーを組み合わせた電子制御アダプティブエアサスペンションを設定する。また、操舵機構には軽量化とメンテナンスコストの軽減を果たしたサーボトロニック(速度感応式パワーステアリング)を装備した。

 エンジンは直噴システムの“FSI”を採用した4.2FSI・4163cc・V8DOHC(350ps/44.9kg・m)のガソリンユニットとコモンレール方式の3.0TDI・2967cc・V6DOHCディーゼルターボ(233ps/51.0kg・m)の2機種を搭載する。トランスミッションにはDSP(ダイナミックシフトプログラム)を備えた6速ティプトロニックATをセット。駆動機構にはセンターデフにセルフロッキングデファレンシャルを組み込み、また非対称ダイナミックトルク配分方式としたフルタイム4WDのquattroを採用し、通常走行時は前40:後60、状況に即して前60:後40から前20:後80の範囲で最適なトルクを配分ようにセッティングした。さらに、アクティブセーフティ機構として専用の“オフロードモード”を備えたESP(エレクトロニックスタビリゼーションプログラム)を装備。このESPは、ヒルディセントアシストやRSP(ロールスタビリティプログラム)などを統合的に制御する仕組みとしていた。

アウディの美学が結実したデザインを採用

 車両デザインについては、アウディAGのチーフデザイナーの任に就くワルター・デ・シルヴァの指揮のもと、シニアデザイナーの和田智などが辣腕を振るって造形を手がける。エクステリアは自然のなかでも、また都会の風景のなかでも、エレガンスさと力強さが感じられるスタイルでアレンジ。同時に、空力特性にも徹底して磨きをかける。具体的には、アウディのアイデンティティであるシングルフレームグリルに美しいラインのVシェイプフード、流麗なラインを描くルーフとショルダー部、S字ラインを描きながらサイドボディにまで回り込む斬新なリアゲートなどで上級クロスオーバーSUVらしいルックスを演出した。
 ボディサイズは全長5085×全幅1985×全高1740mm/ホイールベース3000mmと堂々とした体躯を実現。また、バイキセノンヘッドライトやコントラストペイントフィニッシュ(前後エプロン/サイドドアシル)、パノラマサンルーフといったアイテムを採用してプレミアム性を強調した。

キャビンは広大。7名乗り3列シートを設定

 インテリアは、人間工学の考えに基づいて各部をデザインする。インパネはドライバーが直観的に、かつ容易に操作できるよう、センター部を運転席側にオフセット配置。さらに、造形自体も立体的な形状でアレンジする。また、MMIターミナルと7インチMMIディスプレイからなるMMIマルチメディアインターフェイスを装備し、ナビやオーディオなど多彩な機能を簡単に引き出せるように設定した。シート配列は2/3/2名乗車または2/2/2名乗車の3列式と2/3名乗車の2列式で、乗車人数や積載物により多くのシートアレンジが選択可能。2/3列目席のシートバックを倒せば、最大で2035l (VDA方式)の広くてフラットなラゲッジルームが現れた。

 安全装備にも万全を期し、運転席・助手席2ステージエアバッグ/フロント・2列目両端サイドエアバッグ/フロント・リアヘッドエアバッグ、APS(リアビューカメラ付き)などを設定。利便性と快適性を高めるアドバンスドキーやオートマチックトランクリッド、デラックスフルオートエアコンディショナーといった先進アイテムも装備した。

「Q7」のネーミングで市場デビュー

 “Type 4L”のコードネームをつけたアウディ初の大型クロスオーバーSUVは、2005年9月開催のフランクフルト・ショーにおいてワールドプレミアを飾る。車名はquattroを強調する意味も含めて「Q7」を名乗った。またこのショーでは、コンセプト版のハイブリッドモデル(4.2FSI+モーター)も披露される。Q7の販売は同年中に開始され、生産はスロバキアのBratislava工場が担当(後にロシアのKaluga工場などでも実施)。日本にはサイドビューカメラを搭載する関係で導入が遅れ(外観のスタイリッシュさが損なわれることから、日本のSUVに義務づけられる補助ミラーをつけたくなかった)、発売は2006年10月にずれ込んだ。ちなみにアウディのQシリーズは、2008年にミディアムクラスのQ5が、2011年にコンパクトクラスのQ3がデビューを果たした。

 市場に放たれたQ7は、洗練されたスタイリングや時代を先取りした装備類、quattroシステムによる高い走破性などが好評を博し、たちまち大型クロスオーバーSUVクラスの人気モデルに発展する。この勢いをさらに高めようと、アウディは積極的に車種ラインアップの増強や各機構の改良を図っていった。

エンジン設定の拡充と安全・環境性能の強化

 2006年には、ガソリンエンジンの3.6FSI・3594cc・V6DOHC(280ps/36.7kg・m)を搭載する仕様を追加。2007年になると、4.2TDI・4134cc・V8DOHCディーゼルターボ(326ps/77.5kg・m)の設定や3.0TDIの出力アップ(240ps/56.1kg・m)および8速ティプトロニックATの採用などを実施する。2008年にはディーゼルエンジンの最強ユニットとなるV12 TDI・5934cc・V12DOHCディーゼルターボ(500ps/102kg・m)を発表した。

 2009年には内外装のマイナーチェンジが敢行される。外装ではフェイスリフトおよびフロントヘッドランプ内へのLEDポジショニングランプの設定やLEDテールランプの採用、リアゲートのデザイン変更、新デザインのアルミホイールの装着などを実施。内装ではウッドパネルの拡大展開やMMIマルチメディアインターフェイスへの7インチVGAディスプレイの導入、HDDナビゲーションシステムの装備などを行う。
 メカニズム関連ではアウディ サイドアシストとアウディ レーンアシストの採用をはじめ、3.0TDI clean dieselの搭載やエネルギーリカバリーシステムの組み込みなどを実施して安全性能と環境性能の向上を果たした。

 2010年になると、ガソリンエンジンのメインユニットとして3.0TFSI・2994cc・V6DOHCスーパーチャージャー(272ps/40.8kg・m、S-Line333ps/44.9kg・m)が新設定される。アウディ流のダウンサイジングコンセプトに基づいて開発された3.0TFSIは最新の8速ティプトロニックATと組み合わされ、優れた出力特性と燃費性能を実現していた。

 その後もメカニズムの緻密な改良や内外装のグレード強化を実施してプレミアムSUVとしてのポテンシャルアップを図っていったQ7。一方で2010年代中盤に入ると世界規模での環境問題の悪化が大きな問題となり、自動車市場では大型のSUVに逆風が吹き始める。対応策としてアウディは、次期型Q7のいっそうのダウンサイジング化を決断。2015年にはボディサイズの縮小や大幅な軽量化、メインエンジンの排気量引き下げなどを図った第2世代のQ7(Type 4M)を市場に放ったのである。