F624エストレモ(コンセプトカー) 【1987】

1990年代のSUBARUを示唆した前衛サルーン

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“究極”のスペシャルティセダンを提案

 SUBARUは先進技術で未来を切り開くメーカーである。その姿勢を明確に表現したのが1987年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカー「F624エストレモ」だった。エストレモ(ESTREMO)とはイタリア語で究極の意味。F624エストレモは、スバルの考える究極の次世代スペシャルティサルーンを具現化した存在だった。単なるデザインスタディではなく、エンジンから足回りの細部に至るまで、高い完成度で仕上げていたことが特徴である。

 スタイリングは、ジェット機を思わせるフルガラスキャノピーと力感あふれるショルダー部を組み合わせた3ボックスサルーン。メーカーでは「乗用車の最もベーシックで、人々に親しまれてきた姿を通して、スバルが培ってきた確かなテクノロジーの成果を伝えたいと考えた」と説明した。しかし、1987年にはすでにスバルはレオーネ・ツーリングワゴンで新たな乗用車像を提案していた。レオーネ・ツーリングワゴンは、4WDをはじめとする先進メカニズムと優れたユーティリティでスバルのイメージリーダーになっていた。F-624エストレモはセダンではなく、ワゴンとして開発されていたほうが、よりスバルのコンセプトカーらしかった、という声が当時聞かれた。

エンジンはフラット6ターボ。駆動方式は電子制御4WD

 パワーユニットは、オールアルミ製水平対向6気筒DOHC24V。片バンク(3気筒)にそれぞれ1基のターボチャージャーを持つツインターボ方式に仕上げ、1991ccの排気量から250psの最高出力と、30kg・mの最大トルクを発生した。絶対的なパワーのゆとりとともに、オイル潤滑システムをドライサンプ式とすることで、水平対向ユニットの低重心という利点を強調したことも特徴だった。 
 このエンジンには、アクセル開度を電気信号に変換して伝えるドライブ・バイ・ワイヤ・コントロール機構を採用。ドライバーのアクセル操作に即応するシャープなスロットルコントロールを実現するとともに、トラクションコントロールやクルーズコントロールの制御、そして変速やエアコンのON-OFFによる負荷変化によるショックの吸収を可能にしていた。

 トランスミッションは電子制御式4速AT。機構的には通常のATだったが、レンジセレクトをスイッチで行うシステムだった。変速は車速、エンジン回転数およびスイッチ操作直前のレンジポジションをコンピューターが判断。制御することで行っていた。誤操作、急発進を防止するとともに、セレクトレバーを廃止することで、センターコンソール部のスペースの有効利用を図っていた。

 駆動システムはトルクスプリットタイプの4WD。プラネタリーギア式センターデフとMP-T(油圧多板クラッチ)を組み合わせ、これをコンピューター制御とすることで走行&路面状況に応じて最適な前後駆動力配分が得られるように工夫していた。前後トルク配分は、前60対後40から、前20対後80の範囲内で連続的に変化。一般走行では前輪へのトルク配分を大きくして安定性を重視。コーナリング時には後輪への駆動トルク配分を大きくし、シャープな操縦性を実現していた。

 サスペンションには、アクティブエアサスペンションを組み込む。車体の加速度、各輪サスペンションの変位量をセンサーで検知し、エアサスユニット内の空気圧を精密にコントロールすることで、バネ常数やショックアブソーバー減衰力を変化。車体姿勢を自動制御していた。さらに電動モーター式の4輪操舵システムと組み合わせることで、リニアでシャープな操縦性を実現していた。

室内はシンプル。後方視界はモニターで表示

 室内はシンプルな仕上げ。ドライバー前面に大型カラー液晶ディスプレイを配置し、中央のメーター表示部は車速やエンジン回転数などの走行データを表示。また後方視界はボディ両サイドに取り付けたカメラが監視。左右のスクリーンにカラー画像を表示した。コンソール部には9㌅のカラーCRTモニターをセット。こちらはGPSナビゲーションをはじめ、ACなどの空調コントロール、オーディオの操作を受け持った。

 F624エストレモが搭載したメカニズムの多くは、その後のスバル各車で実用化された。その意味では“夢のクルマ”ではなく、確かに“近未来のクルマ”といえた。そういえば、スタイリングもどことなく1989年に登場した初代レガシィに近かった。F624エストレモは、1990年代のスバルの躍進を予見したフューチャーカーだったのである。