アプローズ 【1989,1990,1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998,1999】

欧州指向の合理設計5ドアセダン

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


ジュネーブで先行デビュー

 1980年代末はクルマ業界に元気があった。日本国内よりもひと足早く、海外で発表または発売したモデルが目立ったのだ。日本車初の本格高級車ブランドとして誕生したレクサスLS(日本名セルシオ)を筆頭に、マツダMX-5ミアータ(日本名ユーノス・ロードスター)や、本格リアルスポーツとして再出発したZ32型フェアレディ300ZXなど、ジャンルを問わず国際的な動きが活発だった。日本の自動車メーカーがワールドワイドに成長したことの証明だった。そんな中でダイハツは、3月のジュネーブ・モーターショーで一足先に発表した小型車MS-X90をアプローズのネーミングで7月から国内発売する。車名のアプローズとは“拍手喝采”を意味する英語である。

セダンとハッチバックのいいトコ取り!?

 アプローズの大きな特徴は、スタイリング的にはオーソドックスな4ドア・ノッチバックセダンに見えながら、リアに第5のドアであるハッチゲートを持つことである。フォーマルな外観ながら大きな荷物も収納できるマルチユース性にも磨きをかけていたのだ。不思議なことに、日本では1990年前後までこのハッチバック付き5ドアと言うカテゴリーが大きな成功を収めた前例はあまり無かった。旧い例では、1965年に登場したコロナ・5ドアセダンや1981年にデビューしたスカイライン・ハッチバックなどがあるが、いずれも販売面では低調であった。ダイハツが敢えて小型セダンのセグメントに5ドア・ハッチバックを送り込んだのは、カローラやサニーとは全く異なる合理的なテイストによって、独自のマーケットを築こうとしたからに他ならない。
 シャルマンに代わって登場したアプローズは、トヨタ系車種とは一切の共通点の無い、全てダイハツの自社開発によるモデルである。ボディスタイルは角の取れた大人しい造形で、目立つクロームメッキなどの装飾を持たないことも特筆して良い。ハッチゲートは3ボックス・スタイルの中に巧く溶け込んでおり、よほど注意深く見ないとゲートの存在は分からないほどだ。

ワゴンに匹敵するユーティリティ

 搭載されるエンジンは、ダイハツの独自設計による直列4気筒OHC16バルブで、排気量は1589㏄。電子制御キャブレター仕様のHD-F型(97ps/13.3kg・m)と、電子制御インジェクション仕様のHD-E型(120ps/14.8kg・m)を設定する。この新開発エンジンは、クランクシャフトやカムシャフトの中空化やシリンダーブロックをアルミで仕上げるなど、徹底的な軽量化が図られていた。車重970㎏(16Ri・MT車)には十分以上の性能の持ち主であり、実用上の使い勝手に優れていた。
 5名の大人のために必要十分な広さを持ったインテリアも、派手さを抑えた落ち着いたもので、独特の高級感に溢れている。後席はユーティリティを重視して、分割ダブルホールディング付きだった。駆動システムは、通常の前輪駆動方式とビスカス・カップリングを使うフルタイム4輪駆動の2仕様から選べた。アプローズは、当時の国産車には珍しく、当初からヨーロッパのマーケットへの販売を考慮した設計とデザインとなっていた。この点で当時の日本のマーケットの好みや要求とは必ずしも合致しない面があったことは否めない。言うなれば、隠れた名車である。