フェロー・バギィ 【1970】

自由な発想を大切にした限定モデル

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1968年にプロトタイプを披露

 1968年に日本で公開された映画「華麗なる賭け(スティーブ・マックィーン/フェイ・ダナウェイ主演)」で、二人の乗ったデューン・バギーが砂丘を縦横無尽に走り回るシーンに魅了された訳でもないだろうが、この時期に日本でもバギー(Buggy)と呼ばれる軽快なモデルが流行ったことがある。フェロー・バギィ(ダイハツの正式呼称は一般的なバギーではなくバギィだった)もそんなモデルの一つだった。

 1968年の第15回東京モーターショーに、ダイハツは2人乗りの軽快な全FRP製ボディを持ったオープン・バギーの試作車を展示した。フェローを名乗っていたものの、実質的には軽商用車のハイゼット・トラックのシャシーにフェロー用の空冷2ストローク2気筒、排気量356ccエンジンを搭載、サスペンションや駆動方式(フロント・エンジン、リア・ドライブ)、ドラム式ブレーキ、タイヤなどはハイゼットのままとなっていた。

ショーモデルのグレードは3種あった!

 試作車ではあったが、モデル・バリェーションには「スピード」、「ビーチ」、「カントリー」の3種があり、完全なオープン仕様と簡単なソフトトップ付きがあった。さらに、仕様により搭載される2種のエンジンも使い分けられていた。インテリアもスケールは小さいものの本格的なバギーのスタイルとなっており、たとえばビーチと呼ばれる仕様では濡れた水着でも座れるように、内装はFRPのままとなっていた。ダイハツは本格的な市販を前提にして開発していたのである。

 フェロー・バギィはFRP製の一体構造ボディは乗り降りのためのドアは無く、低められたボディサイドを跨いで乗り降りする。一枚ガラスのフロント・ウィンドウは、サイド部分のヒンジでJeepと同様に前方に倒すことも出来た。エンジンには2種あり、「スピード」と「ビーチ」にはフェローSSと同じ32ps/6500rpm仕様が、「カントリー」には標準型の23ps/5000rpm仕様が組み合わされる。トランスミッションはマニュアルでフロアシフトの4速、ブレーキは4輪ドラムとなる。車重は460kgで、軽セダンのフェローよりおよそ55kg軽量化されている。モーターショーでは何台かの試乗車を用意し、希望者に同乗試乗させていた。評価は決して悪く無かったという。

市販モデルの生産台数は僅か100台

 このダイハツ製軽バギ-は、モーターショーに展示した2年後の1970年4月に、フェロー・バギィと名付けられて100台の限定販売ではあったが実際に市販されている。内容的にはショーモデルのビーチに近く価格は37万8千円だった。しかし、全くのレジャー用であり、実用性もほとんど無いフェロー・バギーは爆発的な人気を得るには至らなかった。1970年代当時、軽自動車とは言えレジャーだけのために一台を所有することは未だ難しかったのだ。さらに、ホイールベースが1940mmと長く、装備されるタイヤが10インチ・サイズとあっては、フロント・エンジン、リア・ドライブの駆動方式と共に、悪路走破性能は決して高いものではなかった。結局、ダイハツは100台を売り切ったところでバギーの開発と生産を中止してしまった。タイヤをもっと大径のものとし、エンジンをリアに置き、ギア比を下げて低速、低回転での走行を可能としていれば、もっと悪路での走行性能は上げられたはずだ。
 ダイハツがフェロー・バギィで見せた軽自動車に新しい可能性を開拓しようとしたアイディアは間違ってはいなかった。しかしフェロー・バギィを取り巻く社会状況は、とても「華麗なる賭け」のようには行かなかったのだ。