バネットラルゴ 【1982,1983,1984,1985,1986】
快適さを磨き込んだミドル級ワンボックス
バネットラルゴは、1982年10月に大衆ワンボックスワゴンのベストセラーカーだったバネットの上級版として誕生した。実質的にはバネットの幅を90mm広げ、装備を豪華にし、パワフルなパワーユニットを搭載したモデルである。カタログでは「もうこれ以上は望めない、スーパーワンボックス、好評バネット・シリーズの横幅をさらに90mmワイドにし、視界や走行安定性を向上させた上、スタイルもキリリとフレッシュアップ。加えて室内はまさに“ザ・サルーン”と呼ぶにふさわしいゴージャスさを実現しました。走りダイナミックなLD20ターボも搭載」と魅力を表現していた。
ちなみにバネットラルゴもバネットと同様に販売ディーラー別にサニー・バネットラルゴ、チェリー・バネットラルゴ、ダットサン・バネットラルゴ(1988年9月にニッサン・バネットラルゴに改名)の3車種があったが、3車の違いはエンブレムなどの細部のみ。内容的には同一のクルマだった。
バネットラルゴのボディサイズは全長3965×全幅1690×全高1920mm(コーチ・グランドサルーン)。ベースとなったバネットの全長3930×全幅1600×全高1965mm(コーチ・ハイルーフSGL)と比較して35mm長く、90mmワイドで、45mm低い。全長の増加分は大型バンパー装着の影響、全高はルーフ形状の違いだったから、ラルゴの独自性はカタログ表記どおり90mm拡幅したボディにあった。5ナンバー規格いっぱいまで広げたワイドボディを持つバネットがラルゴだったのだ。ちなみに2075mmのホイールベースは両車共通。フロントがウィッシュボーン式、リアがリーフリジッドのサスペンションも同一である。
ワイドボディのバネットラルゴは上級版らしく豪華なモデルだった。スタイリングはボディのワイド化と同時に大型バンパーを採用し、フロントウィンドーを上下60mm、左右100mm拡大、リアも上下90mm、左右で100mm大型化しモダンでスタイリッシュな印象を増していた。大型リアゲートだけでなくリアウィンドーのみでも開くガラスハッチの採用でユーティリティを引き上げたのも朗報だった。
幅695×長さ745mmの大きな開口部を持つ電動サンルーフやハロゲンヘッドライト、スチールラジアルタイヤなど快適性と安全な走りをサポートするアイテムを全車に標準装備したのも上級車らしい配慮と言えた。
しかし、なによりバネットラルゴの個性の発露は豪華な室内空間にあった。カタログで「広さ、装備、音響、空調システム……すべてがファーストクラスの快適さ」と表現するだけに、パセンジャーに特別な時間を提供する配慮に溢れていた。最上級グレードのグランドサルーンではシートが高級アメリカ車のようなモケット仕上げのルーズクッションタイプになり、2列目シートは両側アームレスト付きのセパレートタイプ。3列目にはセンターアームレストが用意されていた。160mmスライド可能な2列目シートは3列目との対座レイアウトが可能なこともポイントだった。室内長3005mmのゆったりとした室内空間をフルに活用したバネットラルゴの快適性は格別だった。
空調もヒーター&クーラーともに前席用渡後席用が独立して調節できるタイプでどの席に座ってもオールシーズンで爽やかさを提供した。オーディオも凝っている。オプションで出力10W×4のオートチューニング&バランス&トーンコントロール付き電子チューナーとドルビー対応カセットデッキを用意し、室内各所に配置した大型スピーカーからグッドサウンドを届けたのだ。バネットラルゴは3列シートワゴンのまさに“ファーストクラス”と言えた。
パフォーマンスも秀でていた。排気量1952ccのZ20型ガソリン(105ps)と、LD20型ディーゼル(65ps)、さらにLD20ディーゼルターボ(81ps)の3種のエンジンを用意し、上質なクルージングを約束したのだ。とくにLD20ディーゼルターボ仕様はZ20型ガソリンと同等の16.5kg・mの最大トルクを2400rpmの低回転で発揮したため、感覚的にはガソリンエンジンよりもパワフルな走りを披露する。しかも実用燃費も良好だったから、バネットラルゴにとって理想的なエンジンと言えた。アイドリング時こそディーゼル特有のノイズが耳についたがクルージング時では静粛な点も魅力だった。
バネットラルゴは、定番モデルを熟成させることで新たな魅力を身に付けた実力派だった。新機軸は盛り込んでいなくとも良質なクルマが誕生することの見本のような存在である。