バネット・セレナ 【1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998,1999】

家族の時代”を切り開いた先進ミニバン

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日産ファミリー・ミニバンの原点

 “技術で世界のトップに立つ!”という日産の「901活動」は、R32型スカイラインGT-R、Z32型フェアレディZ、P10型プリメーラなど、数々の名車を生みだした。1991年6月に登場したバネット・セレナも901活動の果実の1台である。「家族の時代をはじめよう」というキャッチコピーとともに誕生したバネット・セレナは、従来の商業車派生だったバネットとはすべてが違っていた。理想の3列シート・ミニバンを目指しゼロから開発した本当の新世代だった。ファミリーユースを第一義に考えた日産ミニバンの歴史は、バネット・セレナからスタートする。

 開発陣は、ファミリーカーとして理想的な3列シート・ミニバンの開発にあたって、商用車ベースでも、また通常のサルーンをベースにしてもベストなモデルは出来ないと考えた。開発にあたって具体的に設定した目標は6項目。①自信を持って道のまんなかを走りたい。 ②車内と家内の安全をしっかりと守りたい。 ③子供たちが乗り降りしやすいクルマでありたい。 ④ハイウェイでうしろ指をさされたくない。 ⑤いま乗っているセダンと同じ感覚で運転したい。 ⑥家族の会話がはずむジャストサイズでありたい。などだった。6項目は現在のミニバンでは当たり前のことばかり。しかしバネット・セレナの開発にとりかかった1980年代半ばでは、当たり前ではなかった。当時の3列シートモデルは、商用1ボックスのラゲッジスペースに2&3列目のシートを配置し、装備を豪華に仕立てたクルマが一般的だった。1ボックス構造なので、万が一のクラッシュ時には安全性に不安があった。動力性能的にも満足のいくレベルには達していなかった。

ワンルーム感覚の広々パッケージング

 バネット・セレナはすべてが画期的なクルマだった。パッケージングそのものを革新していた。前輪を前席の前に配置するレイアウトを採用することで先代バネットとくらべ585mmも長い2735mmのホイールベースを実現。エンジンを理想的な前後重量配分が得られる前車軸後方のミッドシップに配置する。

 新パッケージングによりフロントに有効なクラッシャブルゾーンが生まれ安全性がぐっと高まった。それだけではない。従来の1ボックス型にあった1列目シートと、2&3列シートの間の無駄なスペースがなくなりワンルーム感覚のキャビンを実現する。従来の1ボックスワゴンは、1列目に座るドライバーと、2-3列目のパセンジャーが遠く、コミュニケーションが取りづらい面があった。しかしワンルーム感覚のバネット・セレナは1-3列のどの席に座っても快適だった。広いウィンドー設計により開放感も満点だった。

 フロントミッドシップ配置&ロングホイールベースの組み合わせはフットワークも改善する。後輪に新設計のマルチリンク式独立サスペンションを奢ったこともあり、バネット・セレナのロードホールディング性能は、並みのセダンを凌ぐレベルだった。なかでもワインディングロードでの安定性は特筆レベルだった。

パワフルなエンジン。多彩な使い勝手

 エンジンも強力だった。ガソリン2種、ディーゼル2種の計4タイプのパワーユニットが選べた。主力となった1998ccのSR20DE型・直列4気筒DOHC16V(130ps/17.5kg・m)のガソリンユニットと、1973ccのCD20T型・直列4気筒OHC(91ps/18.8kg・m)のディーゼルターボユニットはパワフル。小型車枠に収まる全長4315×全幅1695×全高1830mm(PXグレード)のボディを、町中はもちろんハイウェイでも俊敏に走らせた。

 ミニバン最大の魅力である広い室内空間も自慢だった。室内寸法は長2760×幅1420×高1235mm(PXグレード)と実に広々としており、グレードに応じて定員8名の標準仕様と、定員7名の2列目キャプテンシートから選べた。どちらの仕様も2-3列目の対面対座&フルフラット・レイアウトが可能で、3列目を折り畳むと広いラゲッジスペースが出現した。バネット・セレナは多人数でのファミリードライブを快適にこなし、さらにアウトドアレジャーでは、広い室内が“遊びのベース基地”に変身するマルチユースカーだったのだ。豊富なバリエーションを設定したバネット・セレナは好調な販売成績をマークし、日本に新たなファミリー・ミニバンの時代を切り開く。技術の革新で新しい価値を生み出したバネット・セレナは1990年代を代表する日産車の1台だった。

ミッドシップ・ミニバン分析

 1990年代初頭は日本にとって新世代ミニバンの黎明期だった。日産は1991年6月に登場したバネット・セレナがパイオニアだった。トヨタはひと足早い1990年5月にエスティマを送り出す。エスティマもバネット・セレナと同様に商用車派生ではなく、ゼロから開発した3列シートのミニバンだった。両車はエンジンを前車軸後方のミッドシップに搭載するなど技術面でオーバーラップする面が多い。ただし同じミッドシップでもエスティマはエンジンそのものを75度も傾ける工夫を施し、セレナよりも低くフラットなフロア面を実現していた。広い室内スペースの実現、という点ではエスティマのほうが徹底していた。遮音対策も入念で静粛性でもエスティマのほうが洗練されていた。とはいえバネット・セレナの完成度も高く、現在の目で判断しても走りの完成度は優れた面を持っている。