ガゼール 【1983,1984,1985,1986】
走りとスタイルに磨きをかけた最後のガゼール
日産サニー系販売会社でリリースされたシルビアに対し、日産モーター系販売会社の店頭に並べられた兄弟車のガゼール。小型スペシャルティカー市場でのシェア拡大を狙って、S110型系(1979年3月デビュー)から採用されたこの2系列での販売戦略は、次期モデルでも続けられることとなった。
1980年代中盤に向けた次期型ガゼールを企画するに当たり、開発陣は市場の動向を入念に調査・検討する。スペシャルティカーを求めるユーザーは流行に敏感で、ライフスタイルもますます多様化、高度化の様相を呈している。そんな層に注目されるスペシャルティカーの姿とはどういうものか……。最終的に開発陣は、スポーティ性のいっそうの追求とファッション性にさらなる磨きをかけることが必須という結論に達する。そして開発方針として、高性能エンジンや先進の足回りを組み込んだハイメカニズムによる「俊敏でスポーティな走りの機能」と機能美を徹底追求した「精悍で斬新なスタイル」を高いレベルで調和させるという具体策を打ち出した。
次期型ガゼールのスタイルについては、強いウエッジと低いノーズライン、大胆に傾斜させたフロントウィンドウ、ハイデッキによるシャープなリアビューでスポーティ感とファッショナブルな雰囲気を強調する。また、フロントグリルはハニカム形状、リアコンビネーションランプは横桟形状でデザインするなど、シルビアとは異なる独自のアレンジを施した。
ボディタイプは3ドアハッチバックと2ドアクーペを用意。2ボディともにフルリトラクタブルヘッドライトの装着と外板全般のフラッシュサーフェス化を実施し、空気抵抗係数はクラストップレベルのCd値0.34(ハッチバック)を実現する。一方、ボディサイズは全長と全幅を従来型より短縮したうえで、ホイールベースを25mm、トレッドを前35〜45mm/後20〜60mmほど延長し、走りの安定性を引き上げる設定値とした。
インテリアに関しては、パッド上面に緩い傾斜をつけて開放感を演出した上で深い皮絞り風の処理を施したインパネやエキサイティングなイメージで仕立てたメータークラスター(メーターはデジタル表示とアナログ表示の2種類を設定)、ストレートアームを使いやすい高さにレイアウトしたステアリング、シックかつファッショナブルなカラーリングで仕上げた内装表地などでスペシャルティ性を強調する。また、シートには高弾性ウレタンを内蔵して座り心地を向上。スポーツグレードの前席には、8つの部位を自由に調整できるマルチアジャスタブルタイプのバケットシートを装着した。
動力源については、フラッグシップユニットのFJ20E-T型1990cc直4DOHC16V(190ps/23.0kg・m)を筆頭に、従来のZ型系ユニットに代わる小型・軽量・低燃費のCA18型系1809cc直4OHCエンジンの3機種(CA18E-T型135ps/20.0kg・m、CA18E型115ps/16.5kg・m、CA18S型100ps/15.2kg・m)を採用する。また、CA18E-T型エンジン搭載車には5速MTのほかにOD付き4速ロックアップオートマチックミッションを設定。FJ20E-T型エンジン搭載車には、ギア径200mmのファイナルドライブとリミテッドスリップデフを組み込んだ。
走行関連の機構では、ステアリングシステムにラック・アンド・ピニオン式を新設定したほか、バリアブルギアの採用(マニュアルステアリング車)やパワーステアリングユニットの小型・軽量化などを実施する。サスペンションに関しては、リアに新開発のセミトレーリングアーム式独立懸架を採用(FJ20E-T型/CA18E-T型エンジン搭載車。それ以外は4リンク式)し、フロントにはハイキャスター/ゼロスクラブとした改良版のマクファーソンストラット式を組み合わせた。また、全車のフロントブレーキにはフィスト型ベンチレーテッドディスクを装着。さらに、60扁平の高性能ラジアルタイヤ(195/60R15 86H)をFJ20E-T型エンジン搭載車に標準、CA18E-T型エンジン搭載車にオプション設定とした。
開発陣はガゼールのスペシャルティ度のアップを図るために、装備面についても大いにこだわった。先進アイテムとしてはマイコン制御のオートエアコンや国産車初採用となるキーレスエントリーシステム、ダイバシティFM受信システムを組み込んだオーディオ、再生効果を高めたスピーカーシステム、目的地の方向を指示するドライブガイドシステムを設定。さらに、世界初採用となるリアパーセルボード共用タイプのパワーウーハーや国産車初のチルトアップ&スライド機能付き電動ガラスサンルーフなども用意した。
2代目となるガゼールは、4代目シルビアとともにS12の型式をつけて1983年8月に市場デビューを果たす。キャッチフレーズは「夢かぎりなく」。車種展開はハッチバックとクーペを合わせて、計17タイプのバリエーションを設定した。
市場に放たれたS12型系ガゼールの中で、ユーザーの注目を最も集めたのはFJ20E-T型エンジンを搭載するターボRS-X系グレードだった。4バルブDOHCヘッドやギャレットエアリサーチ社製ターボチャージャーを組み込んだ珠玉のエンジンは、1.2トン級のボディを豪快に加速させる。とくに、4000rpm付近を境にしたパワーの急激な盛り上がりやダイレクトな振動感などが、走り好きを大いに魅了した。一方、コーナリングの楽しさや走りのバランス性を重視するユーザーには、新開発のCA18E-T型エンジンを搭載したターボR-X系グレードが高く評価される。FJ20E-T型エンジン搭載車よりも前輪荷重が軽く、しかもエンジン本体が前軸後方に収まるCA18E-T搭載車の特性が、ワインディング派の琴線に触れたのであった。
S12型系ガゼールはデビューから半年ほどが経過した1984年2月になると、スポーツ仕様の“ターボR-L FISCO”と充実装備の“R-X・Eカスタム”が追加され、グレード展開のさらなる強化が図られる。また、ターボR-L FISCOに関しては専用の広告まで制作された。
スポーティ性とファッション性を高い次元で両立させたS12型系ガゼール。しかし、ユーザーが興味を持ったのはスポーティ性がメインで、スペシャルティカーならではの特徴であるファッション性に関しては、AB型系ホンダ・プレリュードなどと比較されてあまり高い評価が得られなかった。さらに、1985年8月に最大のライバルであるトヨタ・セリカがカリーナED/コロナ・クーペを伴ってST160型系に切り換わると、ガゼールの存在感はさらに薄れるようになる。
小型スペシャルティカー市場での閉塞感を打開しようと、日産は大胆な戦略に打って出る。1986年2月のS12型系のマイナーチェンジを機にガゼールの販売を中止し、同市場での勝負車をシルビア1本に絞ったのだ。この背景には、当時の日産が拡大しすぎた車種ラインアップを整理し、経営資源を集中させる方針を推進していた事実があった。結果的にガゼールは、S12型系をもって市場からその名が消えることとなったのである。