FCXクラリティ 【2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014,2015.2016】
燃料電池専用モデルの開発とリース販売
本田技研工業は1990年代後半から燃料電池車の開発に力を注ぎ、「FCX」と名づけた実験車の開発を積極的に推し進める。そして、2002年12月には「ホンダFCX」が市場デビュー。リース形式で最初に納車されたのは、日本の内閣府と米国のロサンゼルス市庁だった。FCXはその後、販売先を官公庁や民間企業に拡大させ、さらに2004年には箱根駅伝や屋久島ゼロエミッションプロジェクトなどに参画した。
存在感を増すホンダのFCXプロジェクト。開発陣は、燃料電池車のさらなる進化を目指して新型車を企画していく。システムでは“V Flow(バーチカル・ガス・フロー)FCスタック”と呼ぶ新セル構造を採用した機構を開発。従来のFCスタックに比べて容積出力密度で50%、重力出力密度で67%向上し、システム自体の軽量・コンパクト化と高効率化を成し遂げる。さらに、最高出力も100kWにまでアップさせた。
開発陣は車両デザインに関しても“新しいクルマのカタチ”を模索する。スタイリングについては、分散配置が可能なパワープラントの特性を活かしたダイナミック・フルキャビン・セダンのフォルムを創出。同時に、エクストラウィンドウをはじめとする先進のディテールデザインを導入した。キャビンルームには、4席の独立空間を心地よく包み込むフューチャリスティック・コクーン・インテリアやバイ・ワイヤ技術によってコンパクト化したシフトレバーとFCマルチプレックスメーターを一体化したフューチャリスティック・アドバンスド・コクピットを採用する。さらに、シート表地やドアライニングなどには植物由来の新素材であるHondaバイオファブリックを使用。シート自体には冷暖房機能を備えた温度調整機構を組み込んだ。
プラットフォームについては、パワープラントをコンパクト化すると同時に最適配置とした新骨格の“V Flow FCプラットフォーム”を開発する。燃料電池スタックは集約され、そのうえでセンタートンネルに配置。また、同軸型駆動モーター&ギアボックスを採用してノーズのショート化を実現した。さらに、リチウムイオン電池をリアシート下に設置してキャビン空間を拡大したり、水素タンクの1本化および各部機能の集積化によってリアスペースと荷室スペースの拡大を図ったりと、パッケージ効率の向上を可能な限り実践した。
走行性能ついては、内燃機関では体験できない、静かでスムーズなドライブフィールを目指して開発を進める。また、ホンダ車ならではのハイレベルなハンドリングと乗り心地を達成する目的で、懸架機構には専用設計の4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションをセット。さらに、VSAと協調して車両の挙動を安定化させる操舵力アシスト制御モーションアダプティブEPSや車速/車間制御機能のACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)、追突軽減ブレーキ(CMBS)+E-プリテンショナーといった先進機構を積極的に盛り込んだ。
ホンダの次世代モビリティの提案形となる渾身作の新型FC車は、2007年11月開催のロサンゼルス・オートショーで初披露される。車名は「FCXクラリティ」。新しいスタックに加えて、水素と空気の流路を波形形状にした“Wave流路セパレーター”を導入した新システムは、燃費面や航続距離、さらに機構自体の効率性の面で世界トップレベルのFCに仕上がっていた。FCXクラリティは2008年7月より米国でのリース販売を開始。また同月、右ハンドルの日本仕様車も公開し、4カ月ほどが経過した同年11月にリース販売をスタートさせた。
2010年代に入ると、ホンダのFCXプロジェクトはさらなる拡大する。2010年1月に家庭用の次世代ソーラー水素ステーションの実証実験を開始。2011年1月にはトヨタ自動車や日産自動車などとともに、「燃料電池自動車の国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」を発出した。さらに、同年9月には成田空港を拠点とするハイヤー走行実証実験にFCXクラリティを提供。翌2012年3月には、埼玉県庁敷地内に高圧水電解システムを適用したソーラー水素ステーションを設置する。2014年3月からは外部給電機能を装備したFCXクラリティを、さいたま市、神奈川県、大阪府に順次納車した。
FCXクラリティによって燃料電池自動車の開発ノウハウをいっそう高めた本田技研工業。その成果は、2016年3月発売の新型FC車「クラリティ・フューエル セル」へと活かされていったのである。