キャリイ 【1969,1970,1971,1972】

ジウジアーロ・デザインのスタイリッシュバン



新進気鋭のジウジアーロを起用したスズキの決断

 スズキ自動車は、1969年8月に同社の軽商用車であるキャリィ・シリーズの第四世代となるL40 型キャリィ・バンをデビューさせる。当時の軽自動車は、未だ最大排気量360ccの時代であった。車名のキャリィ(Carry)は、文字通り荷物を運ぶことの意味である。

 軽自動車という限られた条件下では、他車との同工異曲といえるモデルになってしまうことは致し方ないことだ。そこで、スズキはスタイリングデザインをイタリアン・カロッツェリアに委ねることを決断する。選ばれたカロッツェリアは、独立して自らの設計事務所を起こして間もない新進気鋭のデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロである。ジウジアーロは、1968年にそれまで主任デザイナーの地位にあったカロッツェリア・ベルトーネを辞め、新しいデザイン会社、イタル・デザインを29歳で設立したばかりだった。イタル・デザインの処女作は、1968年に発表したスーパースポーツのビッザリーニ・マンタで、その革新的なデザイン手法は世界的な注目を集めつつあった。

 そんなイタル・デザインに、軽商用車である新型キャリィのスタイリングデザインを依頼しようというのだから、スズキの熱意も半端なものではなかった。果して、でき上がった新型キャリィのスタイルは、業界をアッといわせる斬新なものとなった。軽自動車の寸法的な制約を逆手に取る形で、前後のウインドウの傾斜はほぼ対称形で、ちょっと見にはどちらが前か後ろか分からないほどだった。無骨なスタイルが多かった軽商用車のデザインとしては、数世代は進んだものとなった。

フィアット・ムルティプラのスズキ版!?

 キャリィ・バンは、ジウジアーロのデザインスケッチをベースに造形が進められた。ジウジアーロが描いたフォルムは、フィアット600をモノフォルム化したスペースワゴンのムルティプラの現代版といったイメージだったという。ジウジアーロの頭の中にあったのは荷物を積むためのクルマではなく、人間を運ぶためのワゴンだったのだ。リアエンドの大きな傾斜はキャビンを明るくするための工夫だった。

 ちなみにキャリィ以降もジウジアーロはスズキとの良好な関係を保ち、いくつかのデザイン提案をしている。その結実のひとつが1971年に誕生したスタイリッシュなフロンテ・クーペだった。

パワーユニットは2サイクルの2気筒搭載

 スズキ キャリィ バン360として売り出されたL40Vは、ボディサイズは軽規格一杯の全長2990mm×全幅1295mm×全高1575mm、ホイールベース1745mmとなっていた。荷室は1320mm×1170mm×1010mmと数値的には十分だったが、リアウインドウが寝過ぎていたために、実際にはあまり使い勝手は良くなかったという。

 フロントの前席下に縦置きで搭載され、後輪を駆動するエンジンは、排気量359ccの空冷2気筒2サイクルで、7.3の圧縮比とシングルキャブレターを装備して25ps/6000rpmの出力を持つ。注目して良いのは、スズキ独特のガソリンとオイルの分離給油システムであるCCI(Cylinder Crank-Injection)を搭載して耐久性と性能向上を果たしていたことだ。

 スズキCCI方式は、オイルポンプの働きにより、エンジンの燃焼状態に適応して新鮮なオイルをクランクシャフトやコンロッド大端部に直接給油するもの。あらかじめガソリンとオイルを混ぜる必要はなく、ガソリンとオイルそれぞれを専用タンクに満たすだけのフールプルーフだった。

トップスピードは95km/hをマーク

 トランスミッションはフルシンクロメッシュ機構付き4速マニュアルのみの設定で、シフトレバーはステアリングコラムに付けられていた。オートマチックや4輪駆動仕様は設定されていない。フロントサスペンションには軽商用車としては異例のダブルウイッシュボーンが採用されていた。ブレーキはフロントがツーリーディング、リアがリーディングトレーリングの4輪ドラムでサーボ機構は付かない。今日では考えられないほどシンプルなメカニズムであった。最大積載量は300kg(2名乗車時)で、最高速度は95km/hが可能だった。価格は37万9千円で、ライバル他車とほぼ同レベルにあった。

 スタイリングデザインとしては画期的であったL40系キャリィだったが、当時の軽商用車ユーザーの多くは、そのデザインを理解することができず、荷物の積み下ろしや室内空間の狭さに苦言を呈したという。1972年5月に登場したL50系キャリィでは、ジウジアーロの個性を大分希薄にしたオーソドックスなスタイルに戻っていた。しかし、実用性が大きく向上したのは事実で、キャリィは高い人気を獲得する。軽自動車でもイタリアン・カロツェリアの作品が商品化されたことの証として、L40 系キャリィは記憶されるべきモデルだ。

アウトドア志向を先取りしたキャンピング仕様の設定

 キャリィ・バンにはユニークなバリエーションが設定されていた。キャンピング仕様である。前席と後席を仕切るテーブルをベースにハンモック型ベッドを取り付けられるようにしたモデルで、狭いながら2名が就寝できた。窓にはプライバシーを守るサイドカーテンが装備され、蚊などの虫の侵入を防ぐ防虫ネットや、専用リアルームランプなども装備されていた。

 車両価格はベースモデルより2万円高い39万5000円。もともとがコンパクトサイズだから使いこなすにはアイデアと工夫を要求したが、アウトドア志向を先取りしたキャンピング仕様の設定はキャリィ・バンの大きな個性だった。