X-90 【1995,1996,1997,1998】

自由発想の4WDオープン2シーター

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


マルチな魅力の新世代パーソナルカー誕生

 スズキX-90は、オフロードモデルの逞しさとオープンカーの爽快さ、そしてシティビークルとしての小粋さを兼備した個性派パーソナルカーだった。1993年の東京モーターショーをはじめ、欧米のモーターショーに参考出品された「X90」の市販モデルで、正式デビューは1995年10月である。

 スズキX-90ほど自由な発想で仕上げられたスペシャルモデルはない。ベースモデルは、初代エスクード。初代エスクードは、本格ラダーフレームを持つ4WD車である。シティユースも考慮されていたが、本質はオフロードカーだ。一般的にオフロードカーをベースにスペシャルモデルを企画する場合、オフロードカーのキャラクターを鮮明にするのが正統派。しかしX-90は、その正反対に挑戦する。“土の臭いを感じさせない4WD”と呼べばいいだろうか、基本メカニズムはオフロードカーのエスクードそのままながら、スタイリングも各部の仕上げも、スポーツモデルの流儀を採り入れたのだ。スタイリングは曲面構成で、リアスポイラーを標準装備。パッケージングは2シータークーペに仕上げた。最大の特長はルーフ回りで、2枚のガラストップで構成するTバールーフを採用する。X-90はガラスルーフのためクローズド時も外光が感じられ、簡単な操作で外すと、フルオープンに匹敵する爽快さが満喫できた。

本格4WDメカを持つ2シーターという新発想

 X-90は、エスクードのメカニズムを持っていたが、本質は2シーターのオープンクーペだった。X-90がデビューした1995年当時、トヨタ・ハイラックス・サーフや日産テラノを筆頭に、ワイルドなキャラクターを持つSUVを乗り回すのが、新たなスポーティさの表現になっていた。パフォーマンス面のスポーティさ以上に、ライフスタイルをスポーティに演出できることが人気の秘密となっていた。X-90は、この流れの一歩先を行くもので、2シーターオープンの新たな提案と言えた。

 X-90のスリーサイズは全長3710×全幅1695×全高1550mmで、ホイールベースは2200mm。エスクードと比較して140mm長く、60mmワイドで、115mmも低いプロポーションだった。2200mmのホイールベースは共通である。ちなみに最低地上高は160mmに設定されエスクードより大幅に低められていた。
 メカニズム面はエスクードと共通。強靱なラダーフレーム構造を採用し、搭載エンジンはG16A型の1590cc直列4気筒OHC16V。100ps/6000rpm、14kg・m/4500rpmのスペックも同一である。サスペンションは前がストラット式、後ろがトレーリングリンクとセンターウィッシュボーンの組み合わせで、これもエスクードからの流用である。トランスミッションは5速マニュアルと4速オートマチックの2種で、駆動方式はFR→4WDのセレクティブ方式。2段切り替え式トランスファーも備えていた。

販売累計は約1000台。生まれるのが早すぎた!?

 X-90の走りは、ギア比の見直しにより高速クルージング時の静粛性が高められていたものの、ほぼエスクードそのままだった。この点はX-90の弱点だった。せっかくエクステリアに新たな提案が込められていたのに、乗ると斬新な印象が希薄だったのである。確かにX-90は、エスクード並みに悪路にも踏み込めた。しかし加速は必要にして十分なレベルに止まった。ひとまわり排気量の大きなトルクフルなエンジンを搭載するとか、思い切ってシンプルなFRレイアウトにし軽量化を図っていれば事情は変わっていたかもしれない。

 ユーティリティの低さもユーザーを限定した。X-90は独立したトランクスペースを持つクーペだった。取り外したガラスルーフはトランクにきれいに収まり、シート後方にも相応の小物収納スペースが存在した。都会派のクーペとして考えるとユーティリティは合格レベルだった。しかし4WDのメカニズムを生かし、海や山に出掛けようとするとサーフィンボードやマウンテンバイクなどの大物スポーツギアの収納スペースは皆無。トランク部をオープンリッド構造とし、小粋なピックアップとしても使用可能にするなどの工夫が望まれた。

 X-90のような“提案型モデル”は、マーケットに定着するまでに相応の時間と、改良の持続が要求される。X-90は、新世代のパーソナルクーペとして、大きな可能性を秘めていた。しかし残念なことに登場から3年ほどでマーケットから姿を消してしまう。販売累計は約1000台に止まった。