フィット 【2001,2002,2003,2004,2005,2006,2007】
スペース効率が高いニューエイジ・コンパクト
ホンダの伝統であるMM(マンマキシマム・メカミニマム)思想の現代の体現車、それがフィットだ。2001年6月にデビューしたフィットは、ロゴの後継の位置づけだったが、実質的にはすべてを新設計したブランニューモデルである。しかも開発コンセプトが実に意欲的だった。個々のユーザーの要求のすべてに、1台で最大限に応える“パーソナルMAX”の実現を目指したのだ。いわばオールマイティなコンパクトカー、クラスレスの魅力を携えた新世代カーの創造である。
フィット最大のセールスポイントは、卓越のスペースユーティリティを実現した新世代プラットフォームにある。通常は後席下に配置する燃料タンクを前席下の車両中央に配置したセンタータンクレイアウトを採用し、圧倒的な低床ビッグキャビンを生みだした。従来の常識に捕らわれない開発手法がブレークスルーを呼び込んだのである。
フィットのスリーサイズは全長3830mm×全幅1675mm×全高1525mmとコンパクト。しかしその豊かな室内空間はふたクラス上のクルマ以上のものがあった。室内寸法は長1835mm×幅1385mm×1280mmと伸びやかで、とくにミニバンを上回るほどの室内高が印象的だった。上級クラスのオデッセイと共通サイズの大型シートや開放的でモダンなインスツルメントパネルと相まって、フィットの室内は快適そのものだった。従来までのコンパクトカーに感じた、割り切りや窮屈な印象はまったくなかった。むしろ兄貴分のシビックやアコード以上に広く感じたほどだ。
室内のユーティリティも秀逸だった。カタログで「フィットならではの空間マジック、マウンテンバイクからサーフボードまで、積みたいものにスピード対応。自慢の簡単・多彩なウルトラシートです」とアピールするだけのことはあった。
後席はヘッドレストを装着したまま3アクションで畳め、その後には最大1720mmの長さを誇るフラットスペースが出現した。その広さは並みのスターションワゴンを凌ぎ、しかも床面地上高は470mmと低かったから重量物の積み込みも容易だった。さらにこの状態で助手席をリクライニングすると最大2400mmの長尺物も楽々運べた。それだけではない、後席のクッション部をチップアップすると1280mmの室内高を生かした荷室が出現。高さのある観葉植物などにも対応したのだ。前後シートをリクライニングさせればフラットスペースを生み出すのも自在。フィットの室内は広いだけでなく、まさにユーザーの様々な要求に応えるフレンドリーを備えていた。
肝心の走りの性能も秀逸だった。パワーユニットは排気量1339ccの新開発L13A型。1気筒に2つのプラグを備えた高効率設計を施し86ps/12.1kg・mの十分なパワーとクラストップの実用燃費(10・15モード23km/L)を実現していた。滑らかな無段変速のCVTトランスミッションとのマッチングも良好だった。フィットはタウンユースはもちろんハイウェイやワインディングロードでも小気味いい走りが味わえるクルマだった。
ちなみに燃料タンク容量は42Lだったから、航続距離は10・15モード燃費換算で966kmだった。966kmはイタリアのミラノからナポリまでの距離にほぼ相当する。フィットは満タンでイタリア半島を縦断できる経済性の持ち主だったのだ。カタログでイタリア半島をモチーフに優れた燃費性能を説明したのは、これが理由だった。
フィットの斬新なコンセプトは、デビューと同時に大きな共感を生みだした。販売は絶好調。メーカーの販売計画である月8000台を大幅に上回るセールスを記録する。2001年は6月からの販売だったのにも関わらず10万4298台を売上げ、登録車販売ランキング6位に食い込む。翌2002年になると販売はさらに上向き年間25万790台を売り上げた。この販売成績は長年ベストセラーの座に君臨してきたトヨタ・カローラを抜き去るものだった。フィットがデビュー2年目にして登録車販売台数の王者になったのである。
好調な販売成績だけでなく2001-2002日本カー・オブ・ザ・イヤー、2002RJCカー・オブ・ザ・イヤーに輝くなど栄誉ある賞も獲得。フィットは傑作コンパクトと呼ぶに相応しい高い評価を専門家からも受けた。