ブルーバード(910型) 【1979,1980,1981,1982,1983】

「名車510の再来」といわれた6代目910



ブルーバード・スピリットの復権

 厳しい排出ガス規制に対し、セドリック級の大型車クラスは電子制御式燃料噴射装置+三元触媒、ブルーバード級の中型車クラスは2点火栓急速燃焼方式(NAPS-Z)+酸化触媒、サニー級の小型車クラスはエンジン改良+酸化触媒で乗り切った日産自動車。同社は排出ガス対策にある程度の目処がついた1970年代中盤になると、積極的に新型車の開発を推進する。とくに中核車である次期型ブルーバードの開発には、大いに力を入れた。

 新しいブルーバードを企画するに当たり、開発陣はコンセプトに“原点回帰”を掲げる。ブルーバードの設計理念は「つねに先進的なクルマであること。そして、最高水準のメカニズムをもつこと」。これこそが本来の“ブルーバード・スピリット”であり、次期型はこれを具現化するものでなくてはならない--。こうした開発方針のもと、「1980年代を代表する高性能、高品質の本格乗用車」の完成を目指した。

 スタイリングは、“シンプル&クリーン”がテーマ。数多くのアイデアスケッチが提出されたが、その中から直線基調のシャープなボディラインを描く1枚が選出された。また各設計課には、「デザインを変更するような注文は一切出してはいけない」という厳命が出される。
 メカニズムについては、従来の810型で他車との共通化や省資源を徹底したことを鑑み、次期モデルでは新機構を積極的に取り入れる戦略を打ち出す。そして“ハイキャスター・ゼロスクラブ・サスペンション”、“ラック&ピニオン式ステアリング”“ベンチレーテッドディスクブレーキ”“高性能&省資源のZエンジン”という4つの技術トピックを生み出した。

足回りを中心にこだわりを満載

 フロントに配したハイキャスター・ゼロスクラブ・サスペンションは直進安定性と制動時の方向安定性を高める機構で、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車としては日本初の採用となる。その数値が小さいほどに直進性と制動安定性が増すスクラブ半径を、キングピン軸の延長線がタイヤの接地面の中心に交わるゼロの位置に設定。さらに、クルマの直進性に大きな作用を及ぼすキャスター角(キングピン軸のタイヤの接地中心に対する後傾角。その角度が大きいほど直進性が増す)は、国産車では屈指の約4度というハイキャスターの設定とした。リアサスペンションに関しては、SSS系にチューニングを見直したセミトレーリングアーム式を、それ以外のグレードにはリンクダンパーを組み込んだ4リンク式を採用する。トレッドは前後とも従来の810型系より拡大された。

 ラック&ピニオン式ステアリングは、同社のフェアレディZ用で培ったノウハウをベースにしながら、緻密な改良を加えていった。目指したのはハイキャスター・ゼロスクラブ・サスペンションとの最適なマッチング。結果的に軽くて鋭い切れと素早い応答性、さらに高速走行でのしっとりとした安定感を実現する。また上級グレード用には、西ドイツ(現ドイツ)のZF社との技術提携により生まれたパワーステアリングを組み込んだ。

 フロント側に装着するベンチレーテッドディスクブレーキはクラス初採用となる機構で、同時にマスターバック径を7.5インチ(SSS-E系以上は9インチ)にサイズアップする。放熱性や耐フェード性に優れたベンチレーテッド式は、ゼロスクラブによる制動時の方向安定性の高さと相まって、優れたストッピングパワーを発揮した。また、SSS-E系以上には後輪にもディスクブレーキを装着。さらに、後輪の早期ロックを防止するNPバルブや2系統式油圧回路のタンデムマスターシリンダーも採用した。

 エンジンに関しては、V字型配置の吸排気弁や1気筒当たり2本のプラグの配置した既存のZ型系エンジンを、チューニングを見直して搭載する。ラインアップはZ16型系1595cc直4OHC/Z18型系1770cc直4OHC/Z20型系1952cc直4OHCを設定。Z18型については、最新の過給器であるターボチャージャーの組み込みも仕様検討された。

クリーン&シンプルなスタイルで登場

 810型ブルーバードの登場からわずか3年4カ月後の1979年11月、6代目となる910型ブルーバードが市場デビューを果たす。ボディ展開は2ドアハードトップ(HT)と4ドアセダン、5ドアワゴン(車名はADワゴン)、5ドアバンの計4タイプを用意(ワゴンとバンは同年12月から販売)。810型系で用意していた6気筒エンジンを積むロングホイールベース版は廃止された。搭載エンジンに関しては改良版のZ型系のほか、実用重視のLD20型1952cc直4ディーゼルを設定する。

 直線基調のシャープなスタイリングに、先進の足回りを採用した910型ブルーバードは、たちまち市場の大人気を獲得する。販売台数はウナギ登りで、1979年12月には1600cc~2000cc小型乗用車クラスの月間トップセールスを記録。それ以後も、同クラスの首位に立ち続ける。また910型系はその走りの良さから、自動車マスコミ界で「510ブルの再来」、「ブル本来の走りが蘇った」などと大絶賛された。

ターボモデルの設定

 好調な販売を続ける910型系ブルーバードは、1980年3月になると真打ちともいえるスポーツ仕様を追加設定する。日産にとっては1979年12月に登場した430型セドリック/グロリア2000ターボに続くターボモデルの第2弾となる“ブルーバード1800SSSターボ”が登場したのだ。

 搭載エンジンはZ18E型1770cc直4OHCをベースにギャレット・エアリサーチ社製ターボチャージャーを組み込んだユニットで、型式は“Z18E-T”を名乗る。最高出力は135ps/6000rpm、最大トルクは20.0kg・m/3600rpmを発生した。またZ18E-T型は、新開発のノックセンサーシステムを採用したことでも注目を集める。通常のターボ付きエンジンは圧縮比を下げないとノッキングを起こしやすくなるが、Z18E-T型はノックセンサーシステムによって圧縮比を8.3の高さに保持。その結果、スムーズな吹き上がりと優れたドライバビリティを実現した。

 ハイパワーエンジンを手に入れたブルーバード1800SSSターボは、足回りの強化も実施する。フロントがマクファーソンストラット式、リアがセミトレーリングアーム式の四輪独立懸架のサスペンションは、ターボモデル専用にチューニング。とくにSSS-Sグレードでは、ハードタイプのダンパー&スプリングに185/70HR14サイズのミシュラン製ラジアルタイヤを組み込んだ。
 ちなみに1982年5月には、モータースポーツの世界でも“ブルーバード・ターボ”がデビューする。ベース車は2ドアハードトップで、当時のグループ5規定に合わせた改造、具体的にはノバ・エンジニアリング製のシャシーにムーンクラフト製のカウル、そしてLZ20B-T型改の2082cc直4DOHC+エアリサーチ社製T05Bターボエンジンを搭載したレーシングマシンだった。

スタイリッシュな4ドアHTの追加

 ターボモデルの追加によって販売台数に拍車がかかった910型ブルーバードは、1982年1月になると新鮮味を維持するためのマイナーチェンジを実施する。最大の注目ポイントは、新ボディタイプと新エンジンの設定だった。
 ボディタイプに関しては、「4ドアセダンの実用性と2ドアHTのスポーティさにファッション性をプラスした」という4ドアHTを追加する。ピラーレスによる開放感とともに見た目のスタイリッシュさも創出した4ドアHTは、若者層を中心に大人気を博した。同時にマイナーチェンジでは、ロックアップ機構付きのオートマチックトランスミッションの設定やエレクトロニック・デジタルメーターの採用なども実施。クルマとしての魅力度は、さらに引き上がった。

 510型以来の人気モデルとなった910型ブルーバードは、1983年10月になるとフルモデルチェンジが実施され、7代目となるU11型に移行する。そのU11型系では、伝統のFRからFF(フロントエンジン・フロントドライブ)機構へとレイアウトが一新された。
 結果的に最後のFRブル—バードとなった910型。しかし、最大のライバルであるトヨタ・コロナをも凌駕し、27カ月連続でトップセラーの地位に君臨した偉業は、長いブルーバード史の中でも一際強い光を放っている。