インプレッサWRX・STIセダン 【2010,2011,2012,2013,2014】

サーキットを射程に収めたハイパフォーマンスセダン

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インプレッサの頂点、WRX STIの優れた戦闘力

 水平対向型エンジンを中心とした低重心設計。シンメトリカルAWDと名付けられた左右対称形の4WDレイアウト。そしてWRC(世界ラリー選手権)で鍛え上げられたハイメカニズムなど、SUBARU(スバル)インプレッサの特徴は多い。中でも本格的なラリーカーやレースマシンのベースにもなるトップグレードのWRX・STIは性能の面では国産車の中でもベストと言っていい。

 車名のインプレッサ(IMPREZA)とは、英語で紋章とか格言などの意味を持ったIMPRESAに由来するもので、スペルを変えた造語であるという。WRXは1990年に始まったスバルのWRC(World Rally Championship)への本格的な参戦と好成績にちなんで、WRCと当時の主力車種であったレオーネのスポーティー仕様車に付けられていたRXを繋ぎ合せてグレード名とし、STIはラリーマシン開発の中心的存在だったスバルテクニカインターナショナルのイニシャルを加えたもの。車名の全てがアルファベットであり、しかも複数の意味を持った造語であるというのは、いかにも技術優先の自動車メーカーであるスバルらしいところだ。

世界のラリーシーンを席巻したスバル

 スバルのラリーを始めとするモータースポーツ参加の歴史は古い。1963年5月に完成間もない三重県鈴鹿サーキットで開催された第一回日本グランプリ自動車レースにまで遡る。この時は惨敗したが、翌1964年5月の第2回日本グランプリでは1位、2位を占める好成績を残す。以後、スバルはラリーやサーキットレースに大活躍を見せることになった。

 1990年にレガシィRSをベースとしたラリーマシンを開発し、ワークスチームを組織してWRCへの本格参戦を開始したスバルは、1995年、インプレッサWRXによってマニュファクチャラーズチャンピオンシップとドライバーズチャンピオンシップ(ドライバーはコリン・マクレー)のダブルタイトルを獲得する。その後、スバルの圧倒的な強さは1997年まで3シーズン連続でマニュファクチャラーズチャンピオンシップのタイトルを獲得している。さらに、2001年にはリチャード・バーンズ選手がやはりインプレッサを駆ってドライバーズチャンピオンシップを、2003年にはペター・ソルベルグ選手がドライバーズチャンピオンシップを得ている。スバルブルーと言われた濃紺のボディーカラーと冠スポンサーであったたばこのブランドの派手な組み合わせは、世界のラリーフィールドを席巻していた。

4ドアWRX STIモデルが復活

 しかし、2005年ころからの世界的な経済不況、それに伴うメーカーの経営不振などWRCばかりか、モータースポーツ全体が縮小傾向に向かうことになる。また、レギュレーションの頻繁な変更、マシン開発に要する莫大な投資なども重なり、有力なメーカーチームの撤退が相次ぐ。2005年にフランスのプジョーがWRCからの撤退を決め、フォルクスワーゲングループのセアトは2000年、シュコダは2005年にそれぞれWRC撤退を決めている。そして日本のメーカーチームもその例外ではなく、スバルは2008年で、三菱も2005年を最後にワークスチームの活動を休止してしまった。

 だが、転んでもタダでは起きない(!?)スバルは、2010年7月に発表したインプレッサの4ドアスポーツモデルに再びWRXの名を与えた。5ドア同様に、このインプレッサWRX・STI セダンには、メカニズムから内装に至るまで、ラリーフィールドで鍛え上げられた装備の数々が盛り込まれ、標準型のインプレッサとは全く異なる高性能モデルに仕上げられていた。STIの名を冠していることからも分かるように、またコンプリートカーと言われる通り、おそらく世界的に見ても最もWRCに出場していたワークスマシンに近い市販モデルのひとつとなっていた。またセダンは優れた空力特性を武器にサーキットフィールドにも活躍の場を広げる。世界のツーリングカーが速さを競う「ニュルブルクリンク24時間レース」への本格挑戦である。

2.5リッターAT専用モデルもデビュー

 2008年10月にスバルは3世代目のインプレッサに、それまでの5ドアハッチバックに加えて、4ドアセダンを「アネシス」の名でデビューさせていた。車名のアネシス(Anesis)とは快適とか安心を意味するギリシア語である。5ドアハッチバックのWRX STI仕様は2007年10月に発表されていたわけだが、2010年7月から4ドアセダンにもWRX・STI仕様が登場した。モデルバリエーションは2種あり、2Lツインスクロール型ターボチャージャーを装備したWRX STIと、2.5Lシングルスクロール型ターボチャージャー装備のWRX STI A-Lineがある。両車の違いは、トランスミッションで、2L仕様が6速MT、2.5L仕様は5速ATを組み合わせる。

 フルモノコック構造の5人乗り、4ドアセダンのボディは、基本的には標準型のインプレッサセダンに等しいが、WRX STIはファットなブリスターフェンダーを採用し前後のトレッドが35㎜拡大されている。これはワイドタイヤと大径ホイールの装着を想定したものだ。なお2.5LのA-Lineにはリアスポイラーが装着されていない。

MT仕様は308psのハイスペック2Lエンジンを搭載

 搭載されるエンジンは前述のように2種で、STIには排気量1994㏄の水平対向4気筒DOHC16バルブにツインスクロールターボチャージャー付き(EJ20型、出力308ps/6400rpm)が、STI A-Lineには排気量2457㏄水平対向4気筒DOHC16バルブにシングルスクロールターボチャージャー付き(EJ25型、300ps/6200rpm)が組み合わせられる。駆動方式はスバルではAWD(All Wheel Drive)と呼ぶフルタイム4輪駆動システム。特にSTIではドライバーの操作でセンターデファレンシャルの前後輪へのトルク配分比率を変えられるDCCD(ドライバーズ コントロール センター デファレンシャル)が組み込まれる。トランスミッションはWRX・STIが6速マニュアル、A-Lineではマニュアルモード付き電子制御5速オートマチックになる。

ブレンボ製ブレーキなど足回りを強化

 サスペンションは前がストラット/コイルスプリング、後はダブルウィッシュボーン/コイルスプリング、ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスクブレーキが標準装備されるが、WRX STIでは前がブレンボ社製対向4ポッドベンチレーテッド、後が2ポッドベンチレーテッドで、A-Lineでは同ブレーキをオプションで用意した。ステアリングはレスポンスに優れたラック&ピニオン式でギア比は13.0となる。

 また、2011年11月には、STIが独自に設定した仕様と装備を持ったS206をSTIのコンプリートモデルとして発売した。価格は540万7500円で計300台の限定モデルではあったが、オリジナルのカタログなども用意する本格的なものであった。

 スバルがWRCから撤退して久しいが、現在はニュルブルクリンク24時間レースなどサーキットレースに挑戦している。しかしラリーはサーキットレースとはまた違った魅力あるモータースポーツであり、F1などに比べれば安価に参加できるものだから、再度のワークスチームでの参戦を期待したい。それこそがスバルの魅力なのだから。