ビッグホーン・ワゴン 【1984,1985,1986,1987,1988,1989,1990,1991】

ワゴンモデルを設定した国産SUVの先駆

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新ジャンル4WDカーのデビュー

 いすゞ自動車は自社の4WDピックアップのファスター・ロデオ(1979年デビュー)をベースに、アメリカで発展したクルマのカテゴリーであるレクリエーショナルビークル(RV)に仕立てた「ロデオ・ビッグホーン」を1981年9月に発売する。いすゞオリジナルのRVを企画するに当たって、開発陣は1:オフロードでも街中でも新鮮な印象を与える内外装を持つ、手ごろなボディサイズとする 2:道を選ばぬ快適な乗り心地と静粛性、操作性により長距離ドライブが楽しめるキャビンを創造する 3:マルチパーパスにふさわしい広いユーティリティスペースを持つカーゴルームを備える 4:従来の4WDを凌ぐ悪路走破力と高い信頼耐久性を持つ4WD機構を開発装備する 5:日本国内はもちろん海外にも通用する国際感覚を持たせる、という商品コンセプトを掲げた。

 未知の分野のクルマで、しかもピックアップをベースとしたことから、デビュー当初のロデオ・ビッグホーンは車種ラインアップを2ドアのバンタイプのみに絞る。搭載エンジンは、C223型2238cc直4渦流室式ディーゼル(73ps/14.2kg・m)を採用した。
 意気揚々と市場に放たれたロデオ・ビッグホーン。しかし、当時の市場での評価はいまひとつだった。1980年代初頭は各メーカーからスペシャルティカーが続々とデビューし、流麗なスタイリングやハイパワーのスペックがモノをいう時代で、ビッグホーンのキャラクターは地味だったのだ。また、走りにも力感がなく、非力な印象。ルックスについても、英国のレンジローバーに似ていたために“プアマンズ・レンジローバー”という不本意なニックネームがついてしまった。

“新生ビッグホーン”の開発

 市場での悪評を払拭しようと、いすゞの開発陣は工夫を凝らしたロデオ・ビッグホーンの改良を計画する。
 車種ラインアップでは、RVとしての特性を強調するために乗用モデルの“ワゴン”の設定を決断する。内外装は既存のバンよりも大幅にグレードアップ。とくに、シートの座り心地の引き上げや装備類の充実にこだわった。搭載エンジンについては、主力ユニットのC223型ディーゼルにターボチャージャーを装着。加えて過給圧が高まると排気を逃がしてタービンの回転を調整するウエストゲートを採用し、低回転域から高回転域までのフラットなトルク特性を実現した。パワー&トルクの数値は、87ps/18.7kg・mにまで引き上がる。出力アップに合わせて制動性能も見直し、マスターバックの拡大(7インチ→8インチ)やプロポーショニングバルブの採用などを敢行した。一方、シャシーについても徹底したリファインが図られる。前後サスペンションはチューニングを見直し、ピッチングを最小限に抑えた設定に変更。スタビライザーバーのサイズアップも実施する。タイヤは既存の6.00-16-6PRLT/H78-15-4PRに代わって215SR15ラジアルを装備した。

 1984年1月、ロデオが省かれて単独ネームとなった“新生ビッグホーン”が満を持して市場デビューを果たす。“ザ・リアル・ステーションワゴン”と称する2ドアのワゴンモデルはショート(ホイールベース2300mm)とロング(同2650mm)の2タイプがラインアップされ、ともにエンジンはターボチャージャー付きC223型ディーゼル(C223-T型)が積み込まれる。またこの時、バンモデルに4ZC1型1994cc直4OHCガソリンエンジン(105ps/16.6kg・m)仕様が設定された。

「イルムシャー」と「ロータス」の登場

 乗用モデルの追加によって、商品力がアップしたビッグホーン。しかし、販売成績は伸び悩み続けた。市場でのRVの注目度は急上昇したものの、その人気はビッグホーンよりも強面で目立ち、車種ラインアップも豊富だった三菱パジェロやトヨタ・ハイラックス・サーフといった後輩たちに集中してしまったのである。結果的にビッグホーンの販売成績は、パジェロらの後塵を拝することとなった。

 いすゞはテコ入れ策として、海外ブランドの活用を選択する。まず最初に、ドイツのチューニングメーカーであるイルムシャー社と提携。1987年10月にはイルムシャー社が足回りをセットし、レカロ製シートとモモ製ステアリングを装着したビッグホーン・イルムシャーを発売した。1988年6月にはオーバーフェンダーを備えたイルムシャーRを追加。さらに1990年1月には、ロータス社が足回りを仕立てたスペシャルエディション・バイ・ロータスをリリースする。
 車種の拡充を図り、乗用モデルとしての評価も高まったビッグホーン。しかし、結局はパジェロやハイラックス・サーフらの販売成績にはかなわなかった。ただし、その堅実なクルマ作りと信頼性の高さは、コアなSUVファンからの大きな支持を獲得することとなったのである。