ヴォルツ 【2002,2003,2004】

斬新コンセプトの米国製フレッシュモデル

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ターゲットは〝ジェネレーションX″

 ヴォルツは、アメリカ生まれの帰国子女である。生産はトヨタとGMの合弁工場であるNUMMIが担当。日本に輸入されたヴォルツは、アメリカでポンテアック・ヴァイブとして販売していたモデルの右ハンドル仕様だった。トヨタが北米で販売していたマトリックスと比較して、各部の造形がスポーティになっていたのが特徴だ。

 ヴォルツは、トヨタとGMの共同開発車だった。ユーザーターゲットは、アメリカで“ジェネレーションX”と呼ばれる1961年から1981年に生まれた世代。日本の“団塊ジュニア”とオーバーラップする若年層である。彼らは多様な価値観の持ち主だ。クルマは「セダン」「クーペ」「ワゴン」など、従来のジャンル分けに捕われることなく、自分にとって使いやすいかどうかが選択基準。しかもクルマは憧れの対象ではない。あくまでも道具。だが道具だからこそ、自分らしさを表現できるかどうかは大切な要素だった。彼らはいままでのクルマ作りの手法が通用しないユーザーだったのだ。

 開発スタッフは入念なマーケットリサーチの後、ヴォルツのキャラクターを「スポーツユーティリティワゴン」とする。イメージしたのは、スタイリングとパフォーマンスはスポーティカー。室内はワゴンのようなユーティリティを備えたモデルである。ラゲッジスペースには、スペース性だけでなく、実際の彼らのライフシーンにマッチする機能性を盛り込むことが大きな要素になった。

2002年日本デビュー! 6速MTも設定

 ヴォルツは、メカニカルコンポーネンツをアメリカ仕様のカローラから流用することが当初から決定していた。そのため開発陣の最大の仕事は車両キャラクターの設定と、スタイリンング製作だった。開発は比較的順調に進み、2000年1月の北米デトロイト・モーターショーにGM版のポンテアック・ヴァイブのプロトタイプを公開。ヴォルツは2001年10月の東京モーターショーに展示され、2002年8月に正式に販売を開始する。

 ヴォルツは、コンセプト通り若々しくスポーティで、ユーティリティに優れたモデルだった。スタイリングはシャープなフロントマスクが印象的な5ドアHB。SUVイメージのオーバーフェンダー&前後バンパー処理を持ち、なだらかに傾斜するルーフラインが躍動感を表現していた。ボディサイズは全長4365×全幅1775×1605(4WDは1615)mm。全長に対し全幅がワイドな点がアメリカ生まれらしかった。

 ヴォルツらしい個性が発揮されていたのはラゲッジルーム。フロアは濡れたグッズの積み込みにも安心な防水樹脂仕上げ。後席は分割可倒式で、長尺物の積み込みに備え、助手席シートバックも前倒し出来た。荷室フロア下にサブトランクを備えるなど使いやすさを増す配慮を満載。大型リアゲートには狭い場所での荷物の積み降ろしに便利なガラスハッチ機能も盛り込んでいた。

思わぬ販売不振、その要因は?

 バリエーションは、1795ccの2ZZ-GE型スポーツツインカム(190ps/18.4kg/m)を搭載したZと、1794ccの1ZZ-ZE型ハイメカツインカム(132ps/17.3kg・m/4WD125ps/16.4kg・m)Sの2グレード構成。トランスミッションは全車に電子制御4速ATを設定。Zでは6速MTが選択できた。駆動方式はZがFF.SはFFと4WDの2タイプである。

 ヴォルツの日本での販売には、トヨタ、GMともに大きな期待を寄せていた。しかし、残念ながら予想を下回る販売実績しか残すことができなかった。さまざまな要因が考えられるが、最大のポイントは、日本のユーザーにとってコンセプトが斬新すぎた点にあった。

 ヴォルツは日本では2010年以降に一般的になるクロスオーバーSUVの先駆けだった。クロスオーバーSUVは、2010年以降、日本はもちろん欧州でも人気モデルに成長する。しかしヴォルツがデビューした2002年当時は、魅力が理解されるほど市場は成熟していなかった。その点では、アメリカは先進国である。ポンテアック・ヴァイブの販売は好調で、ヴォルツが2004年に早々と販売を終了した後も、2008年まで販売が継続された。日本では早すぎたコンセプトだったが、アメリカではきちんと評価されたのである。

生産工場NUMMIはEV用として再生

 ヴォルツの生産工場となったNUMMI(New United Motor Manufacturing)は、トヨタとGMが1984年に合弁で設立した工場だった。合弁のきっかけは、工場の高コスト体質に悩んでいたGMが、トヨタの誇る低コスト・高効率な「かんばん方式」を導入した新工場の設立を目指したことにあった。そこでGMとトヨタは、1983年2月に共同で合弁会社を設立する覚え書きを締結。翌1984年にNUMMIを設立した。

 工場の用地と基本的な施設は、1982年にGMが閉鎖したカリフォルニア工場を活用し、1984年12月に本格操業を開始した。NUMMIではヴォルツをはじめ、トヨタ、シボレー、ポンテアックなど3ブランドのモデルを生産し、トヨタとGMの双方に大きなメリットを与える。しかし2009年6月のGM破綻を機に、NUMMIの合弁解消が発表され、GMが撤退。トヨタ単独ではNUMMIの維持が難しいことから、工場は閉鎖される方向になった。
 だがNUMMIは不死身だった。2010年以降、トヨタと提携したEV専門メーカー、テスラ・モーターズの生産工場として甦り、高級EV、タイプSなどを生産している。