三菱デザイン8 【1987,1988】
インパクトとパッケージングを重視したデザインの創造
好景気に沸く1980年代後半の自動車業界のなかにあって、マツダやホンダとともに国内メーカー第3位の地位を競う三菱自動車工業は独自の戦略を選択する。過大な投資を控え、ニッチ市場(とくに4WD車市場)の開拓と海外メーカーとの新たなる提携、そして既存車のインパクトを重視した全面改良で勝負したのだ。新型車の車両デザインではオリジナリティを強調する方針を打ち出し、ひと目で三菱車とわかる“顔”の演出を心がけた。
1987年10月のミラージュのフルモデルチェンジから、新しい戦略が明確になる。3代目となる新型のキャッチフレーズは「社交性動物 ミラージュ変新」。クルマを社交の道具、遊びの道具と捉える新世代の若者層に向けて、個性的なコンパクトカーの提案を行った。訴求ポイントとなったのがスタイリング。躍動的で温かみのある連続した曲面と“ロングウェイビングルーフ”と称する長くて緩やかな傾斜を持たせたルーフ形状によってスタイリッシュなハッチバックフォルムを実現する。
車種ごとに外装パーツを差異化したのも話題だった。おしゃれ感覚あふれるスポーティな「SWIFT(スイフト)」、空力パーツを満載した高性能モデルの「CYBORG(サイボーグ)」、主に女性層に向けた充実装備の「FABIO(ファビオ)」、そしてリアクオーター部にパネルをはめ込んでバン風のボディとした「XYVYX(ザイビクス)」という4種類の仕様を設定した。ほかにも、オープンエア感覚が味わえるスーパートップや多彩なカラーが選べるカメレオン機構メーターなどの新アイテムも装備する。エンジンは4G61型のNAとターボ付きを筆頭に、4G15型や4G13型といったサイクロンエンジンを搭載した。
3代目ミラージュの登場から8カ月ほどが経過した1988年6月、基本メカニズムを共用するランサーも3代目に移行する。それまではスポーツ志向の「ランサーEX」とファッショナブルな「ランサー・フィオーレ」で構成していたが、新型では2車を統合。目指したのは、ランサーの伝統である活発な走りと機能美あふれる内外装の構築だった。
シャシーに関しては、3代目ミラージュ用を流用しながら独自のチューニングを施す。被せるボディは、ダイナウエッジ(くさび型)ラインを基調とした5ドアハッチバックに1本化。ただし、5ドアハッチバックは日本市場では人気薄なことから、あえてセダンルックのスタイリングとした。広告などでは「アクティブセダン」「新セダン類」を謳う。各部のアレンジにも工夫を凝らし、ロング&トールのルーフやドリップチャンネルのないフルドアなど、随所で独自性を主張した。またインテリアについても、基本造形を3代目ミラージュと共通としながら、専用のカラーリングやシート地などを採用してオリジナリティを強調する。駆動機構はFFのほか、4G61型ターボ用にセンターデフ式のフルタイム4WDを設定した。
話はランサーと前後するが、3代目ミラージュの登場から4日後、新型ギャランがデビューする。6代目となるギャランは、「INDIVIDUAL 4DOOR」を標榜。メーカーは「自分の感性にこだわり生活のすべてを本物で構成するユーザーのために開発したクルマ」と説明した。
スタイリングは、メインセクションにS字断面を導入した“オーガニックフォルム”を基本に、伝統の逆スラントノーズやグリップ式のドアノブ、リアサイドに組み込んだクオーターガラスなどでオリジナリティを強調。車高の低いスタイルが流行だった当時のミディアムクラス車のなかにあって、居住空間を重視した背の高いフォルムが異彩を放った。インテリアについては、上級感の引き上げとともに機能性を踏まえてデザイン。2段式のダッシュボードやダイヤル式の空調スイッチ、大型のメーター、面圧分布を重視したシートなどを装着する。また、各部の操作性や接地性など、乗員の“触感”性能にも徹底してこだわった。メカニズム面では、当時の三菱の新技術を積極的に採用。とくにトップグレードのVR-4には、4VALVE(ターボ付き4G63型エンジン)/4WD/4WS/4IS/4輪ABSで構成する“ACTIVE FOUR”の先進システムを奢った。
ギャランの兄弟車であるエテルナも、1988年10月に新型に移行する。エテルナは欧州で人気の高い5ドアハッチバックとなった。ただしボディの呼称は“5ドアセダン”。ハッチバック=小型車という市場イメージに配慮して、あえてセダンの呼称を使用していた。また、広告などのキャッチコピーは「Sedan Freedom」や「高品位プライベートセダン」とし、エテルナはあくまでもセダンであって、そこにプラスαの魅力を加えたクルマであることを強調した。