キャブライト 【1962,1963,1964】
3名乗りキャビンで快適に進化したフレンドリートラック
1958年の東京モーターショーでデビューし、3輪トラックとほぼ同等の低価格もあって絶大な人気を集めたキャブライトは、1960年10月に新型に移行する。新型は初代の高い実用性はそのままに、快適性とタフさに一段と磨きをかけていた。さらに1962年には新意匠のフロントグリルを採用すると同時に、定員を3名に増やしたA121型に進化する。当時の日本車は乗用車、商業車を問わず、毎年なんらかの改良・変更が加えられ、魅力を増していたが、キャブライトはとくに改良に積極的なモデルだった。
1962年のA121型は、セミキャブオーバー型の基本スタイルこそ従来モデルと共通だったが、2分割デザインのフロントグリルが目新しい印象を訴求した。コストを抑えるためにフロントグリルはバンパーとともにホワイト塗装仕上げながら、ボディカラーはライトグリーンなどの単色とともにお洒落なツートン塗装を選ぶことが出来た。
大きく改良されたのはキャビンである。シートや各部スペースの見直しで定員を3名に増やしたのだ。シートはブルーバードなどと同じスプリング構造を持つクッション性に優れたベンチ形状で、定員の増加に伴って、従来ハンドルの左側に配置していたコラムシフトレバーは、ハンドル右側に改められた。シフト操作をしても、中央席のパッセンジャーを邪魔しないための配慮である。メーターも速度計内に補助メーターを配置した1眼式から、速度計の左右に燃料&水温計&油圧計を配置したコンビネーション式にリファインすることで視認性を引き上げた。新鮮な空気を自在に取り込めるベンチレーターや助手席側にはアシストグリップも完備し、キャブライトのキャビンは、パッセンジャーに対する心配りが一段ときめ細かくなっていた。
トラック本来の荷室も広大だった。最大積載量850kgを誇り前後長は2020mm、左右幅もクラス最長級の1492mmを確保していた。床面の高さは660mmと低く、荷台床面のビード形状には重い荷物に対するたわみを防ぐ設計が施されていた。頑丈なフレーム構造のシャシーに組み付けられた前後サスペンションは、前後ともタフな半楕円リーフのリジッド式。リーフスプリングの幅を広くすることで剛性を高め、荷傷みを防ぐ設計が採用された。サイドバルブ方式の排気量860ccの直列4気筒エンジン(27ps/4200rpm、5.3kg・m/2400rpm)は決してパワフルではなかったが、低速から有効なトルクを生み出すため、なかなか力強かったという。ちなみに車重は845kgと軽くトップスピードはフル積載状態で75km/hに達した。
キャブライトは低床トラックが基本だったが、ユーザーのニーズに応じて定員6名のライトバンや、荷台にホイールハウスの張り出しのない高床式トラック、後席をプラスしたダブルキャブ、大切な荷物の運搬に適したパネルバンなど、さまざまな特装モデルを選ぶことができた。街には屋号が書き入れられ、カラフルなカラーリングに身を包んだ、様々なボディのキャブライトが走り回った。キャブライトは1960年代初頭の街の風景の一部を演出した立役者だった。機能のために贅肉をそぎ落とし、生活に密着したツールとして磨かれた“働くクルマ”にはグッドデザインが多い。キャブライトもそんな1台だった。虚飾を排した造形は、現在の目で見ても決して古くさくない。どこか人間味を感じさせる愛すべきコマーシャルカーである。