シルビア 【1999,2000,2001,2002】
引き締まったボディ、鮮烈FRスポーツ
1999年1月にデビューした7代目シルビア(S15型系)は「走りのスポーツクーペ」だった。新型は先代で3ナンバー規格に肥大したボディサイズを再び5ナンバー規格にスリム化。ボディ剛性を強化するとともに足回りのセッティングを見直し、エンジンをパワーアップすることでFRスポーツらしい走りのパフォーマンスを徹底的に磨き上げたのだ。
開発キャッチワードは「動イズム。」カタログでは「大地を蹴るダイナミックな動きに、卓越したハンドリングが応える。忘れかけていた、走りへの本能を目覚めさせる、ニューシルビア誕生」と語りかけた。
バリエーションは1998ccのSR20DET型・直4DOHC16Vターボ(MT250ps/AT225ps)を搭載するスペックRと、自然吸気の1998cc、SR20DE型・直4DOHC16V(MT165ps/AT160ps)を積むスペックSの基本2グレード構成。それぞれに標準仕様と、ウイング形状の大型リアスポイラーなどエアロパーツを標準装備したエアロ仕様が選べた。トランスミッションはMTとATの2種。MTはスペックRが6速、スペックSは5速タイプ。ATは全車が電子制御式の4速を組み合わせた。駆動方式は、当然ながら走りの基本ポテンシャルに優れたFRである。
スタイリングはシャープで彫刻的なラインでまとめられ、ロングノーズとコンパクトなキャビンがスポーティさを訴求。ボディサイズは5ナンバー規格に収まる全長4445mm、全幅1695mm、全高1285mm。旧型と比較して全長は75mm短く、幅は35mmタイト。全高は10mm低く仕上げられていた。
ヘッドランプは全車薄型形状のプロジェクタータイプ。明るいキセノン式は全車オプションで設定され、バンパー組み込みタイプのフォグランプをエアロ仕様に標準装備していた。ユニークだったのは、悪天候時の後方視界を確保するリアワイパーを全車に装着していた点である。これは、天候に関わらず安全な運転環境を約束するというメーカーの姿勢を示していた。
インテリアは定員4名の前席優先設計。メーターや空調ルーバーはすべて丸型形状で統一され、スポーティな印象を訴求。スペックRとスペックSエアロは、Aピラー部に補助メーター(スペックRはブースト計/スペックSエアロは油圧計)を装着していた。この補助メーターは、走り好きのマニアのモデファイを巧みに取り入れたもの。開発者がスポーツ派ユーザーにシンパシーを感じていたことの現れといえた。ステアリングホイールはベース車を除きSRSエアバッグを組み込んだ赤ステッチ仕上げの本革巻き。インテリアの基調色は精悍なブラックが標準。エアロ仕様にはフロントシートとドアトリムをオレンジで仕上げたインテリアパッケージをオプションで選ぶことができた。
7代目シルビアの特色は足回りにあった。カタログでは「俊敏で軽快な走りと、小回りの効くきびきびした動きこそが、スポーツカーの持ち味です。シルビアはその原点にこだわり、ステアリングとアクセルワークでクルマを自在に操れる“FR”のさらなる熟成をはかりました」と、運動性能を磨き上げたことを宣言していた。
サスペンションは前ストラット式、後マルチリンク式の4輪独立タイプ。形式こそ旧型と同じだったが、ばねやダンパーの設定を見直し、各部の剛性強化を図ったスポーツチューン仕様としていた。スペックRのMT車には前輪だけでなく後輪も操舵することで、レーンチェンジやコーナリング時の車両安定性を大幅に高めた4WS=電動スーパーハイキャス機構を設定する。
ハードコーナリング時でも駆動力を確実に路面に伝えるLSDも進化した。スペックRのMT車にはレスポンス性に優れ、高い車両コントロール性に優れたヘリカルLSDを標準装備したのだ(AT車はビスカスLSD)。ボディも各部の構造を見直し、フロントクロスバーやトランクバーなどの適切な補強パーツを追加することで徹底的に強化されていた。
7代目のシルビアは速く、自在なハンドリングが楽しめる理想的なFRスポーツクーペだった。コンパクト化されたボディによりタイトなワインディングロードでも持て余すことなく、ドライビングに没頭できた。とくにターボ仕様のスペックRのパフォーマンスは群を抜いていた。
開発陣は、デビュー後もS15型系シルビアの魅力を積極的に高めていった。
1999年10月には、歴代シルビアのもうひとつの特徴である“ファッション性”を重視したグレードが設定される。“bパッケージ”と称するブルーをイメージカラーに据えた同車は、ライトブルーイッシュシルバーと呼ぶ専用外装色やブルーのスエード調クロス内装、クローム色アルミホイールなどが装備された。またこのとき、オーテックジャパンが各部をチューンアップした“オーテックバージョン”もラインアップに加わる。
オーテックバージョンのベースとなったのは自然吸気のSR20DE型エンジンを搭載するスペックS。エンジンの改良は多岐に渡り、圧縮比のアップ(10.0→11.7)やステンレス製等長エグゾーストマニホールド(藤壺技研工業と共同開発)、カムプロファイルおよびNVCSのチューニング変更、専用軽量フライホイール&クラッチシステムの導入など,まさにファインチューンと呼ぶに相応しいモデファイが実施された。パワー&トルクはベース車比35ps/2.2kgmパワフルな200ps/7200rpm、21.8kg・m/4800rpmに達した。
ミッションはスペックR用の6速MTで、トルク感応型のリアヘリカルLSDも装備される。ほかにも、専用セッティングのスポーツチューンドサスペンションや対向4ピストンブレーキ、フロントクロスバー/トランクバー/リアフロアステイ、専用シルバーメーター&チタン調フィニッシュ、パンチングスエード調トリコット地シートを採用。オーテックバーションは、ファンから大好評を博し、走り好きのあいだでマニアックな人気を獲得することとなった。
2000年5月、7代目シルビアに優雅な2+2オープン、ヴァリエッタが登場する。前年の東京モーターショーに参考出品されたモデルの市販化で、開発はオーテックジャパンと、Be-1やフィアガロの生産で知られる高田工業が担当した。
ヴァリエッタのハイライトはそのルーフ構造にあった。国産車で初めての電動メタルトップ仕様のオープン構造を採用したのだ。一般的なソフトトップ仕様と違い、クローズド時はクーペと同等の耐候性を持ち、フルオープン時の開放感は抜群。1台で2通りのボディが楽しめるマルチモデルだった。ベースモデルはスペックSで、エンジンは自然吸気仕様のSR20DE型を搭載。トランスミッションは5速マニュアルと4速ATが選べた。
実際にヴァリエッタに乗ると、足回りのゆったりとした収まり感が印象深かった。オープン走行時のAピラーやコクピット回りの剛性は十分に高く、旋回性もスムーズ。そして何より、道行く人の注目度が高かったことが思い出として残っている。
7代目シルビアは、走り好きに取って最良のクルマの1台だった。歴代シルビアの中でも運動性能は群を抜いていた。しかし販売成績は低調だった。これはクルマのせいではなかった。社会環境が変化したのだ。2000年代に入ると若者のクルマ離れが顕著になり、とくにスポーツモデルは冬の時代を迎えてしまった。7代目シルビアは、時代の波に翻弄され残念ながらラストモデルとなる。
シルビアが表舞台から消えた数年後、日産は2005年の第39回東京モーターショーに「フォーリア」を出品した。メインステージの「GT-Rプロト」が圧倒的な存在感を放ったため、やや大人しい印象を周囲に与えたが、フォーリアは大人の感性を満たすスタイリッシュなクーペとして魅力的な存在だった。いわばシルビアの復活版といえた。
フォーリアはFRレイアウトが生む素直で自在な操縦フィールを磨き上げるとともに、スタイリングを吟味。後席アクセス用エクストラドアを新設することで実用性面でも工夫を凝らしていた。
スタイリングはロングノーズ&ショートデッキのバランスのいいクーペフォルム。エッジが利いた水平基調のライン構成は、どことなく“クリスプルック”を標榜した初代シルビアを想起させた。
フォーリアはショーモデルに終わり、残念ながらシルビアの復活はならなかった。しかし歴代シルビアが提示した手頃なサイズのスペシャルティクーペという価値観は、まったく色あせていない。環境性能に優れたピュアEVあるいはプラグインハイブリッドモデルとして登場することを期待したい。たとえば、7代目のラスト・シルビアのイメージをそのままに、電動パワーユニットに変更しただけでも、十分なインパクトがあるように思うのだが……。