Z8 【1999,2000,2001,2002,2003】

ボンドカーにも起用されたBMW究極のロードスター

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ブランドの存在を主張する新型車の開発

 ワールドワイドでメーカーの再編劇が進んだ1990年代終盤から2000年代初頭にかけての自動車業界。英国のローバーグループやロールスロイスなどを傘下に収めて企業規模を拡大していたドイツ屈指の自動車メーカーであるBMWは、新たな企画を立ち上げる。BMWのプレミアムなブランドイメージを強調するフラッグシップ・オープンスポーツの開発だ。

 「究極のロードスターの創造」をテーマに据えた新プロジェクトは、速さを求めるだけの方向性は打ち出さなかった。BMWの伝説的なオープンスポーツカーである1956年デビューの名車、507を現代的な解釈で再構築し、そのうえで最先端のテクノロジーを存分に凝縮しようとしたのである。背景には、マツダがMX-5(ユーノス・ロードスター)で提案して世界中から絶賛された、見て、乗って、操って楽しいクラシカルモダンなオープンスポーツカーのアプローチ方法があった。

東京モーターショーでデザインスタディの「Z07」を披露

 BMWの新オープンスポーツカーのプロジェクトは、1997年開催の第32回東京モーターショー(TMS)で陽の目を見る。「Z07」と名乗るオープンスポーツカーのデザインスタディが雛壇に上がったのだ。

 往年の名スポーツカー、507をリスペクトしたエクステリアは、長いエンジンフードに低くフラットなウィンドスクリーン、ボリューム感たっぷりの流麗なライン、フロントフェンダー後方に配したエアアウトレット(Gill)などによってクラシカルモダンなルックスを構築。インテリアでは、古典的な要素のなかに先進性を踏まえたパーツ群を豊富に装備する。機構面については、アルミ製のスペースフレームおよびボディパネルに、7シリーズの技術をベースとしたシャシー、“シルキーエイト”エンジン、6速シーケンシャルトランスミッションなどを組み込んだとアナウンスした。

「Z8」の車名を冠して市場デビュー

 TMSの場ではZ07の量産化の有無は明言されなかったものの、その評判の高さを実感したBMWは、Z07の考え方を発展させた旗艦オープンスポーツの開発を継続する。そして、1999年開催のフランクフルト・ショーで市販モデルの「Z8」を発表した。

 コードナンバーE52のZ8は、アルミ射出成形材のフレームで骨格を形成し、オープンスペースにアルミ材のパネルを組み込む専用設計の軽量・高剛性スペースフレームを採用する。ホイールベースは2505mmに設定。懸架機構はフロントにトランスバースコントロールアームとバーチカルスラストロッドを備えるダブルジョイントスプリングストラットを、リアにインテグラルアクスルのマルチリンクをセットし、構成パーツにはアルミ材を多用した。制動機構には前Φ334mm/後Φ328mmの大径ベンチレーテッドディスクブレーキおよびABSを装備。ランフラットタイヤおよびホイールには前245/45R18+8J×18アロイ、後275/40R18+9J×18アロイの前後異形サイズを導入した。

 搭載エンジンは当時のM5(E39)に積んでいた軽合金シリンダーヘッド&ブロックのS62ユニットをベースとするダブルVANOS内蔵の4941cc・V型8気筒DOHC32Vを採用する。燃料供給装置にはデジタルモーターエレクトロニクス(DME/電子制御燃料噴射装置)を組み合わせ、圧縮比は11.0と高めに設定。最高出力は400hp/6600rpm、最大トルクは51.0kg・m/3800rpmを発生した。トランスミッションには6速MTを組み合わせ、駆動レイアウトはFRで構成。電子デバイスとして、ダイナミックスタビリティコントロール(DSC)やコーナリングブレーキコントロール(CBC)、タイヤ空気圧警告システム(RDW)などを装備した。パワートレインの配置などに工夫を凝らした結果、前後重量配分は50:50の理想的な数値を実現。性能面では最高速度が250km/h(リミッター作動)、0→100km/h加速が4.7秒と公表された。

スタイリングはクラシカルモダン。トップは電動開閉式

 車両デザインは、Z07でトライしたクラシカルモダンなスタイリングを量産モデル用に再構成。印象的なヘッドランプとキドニーグリルを配したシャープなフロントマスクにネオン管を用いた高輝度なランプ類、メッキパーツとBMWロゴマークを内蔵したサイドのエアアウトレット、逞しさが増したホイールハウジング、後方へとなだらかにスロープしていくリアセクションなどによって、“過去から未来へとつながる革新的なエクステリア”を創出した。ルーフのソフトトップは電動開閉式。室内のセンターコンソールに配置したスイッチの操作によって、約20秒での開閉を可能とする。また、リアウィンドウデフロスターを内蔵するハードトップも設定した。

 室内もZ07の発展版。往年の507を彷彿させるハイグロスペイントパネルを採用。本革巻きステアリングには細身のスポークを組み込んだ専用タイプを装着した。メーター類はセンター部にレイアウト。バケットタイプのスポーツシートの後方には、ロールオーバーバーを装備する。また、セーフティ機構として運転席&助手席SRSエアバッグやサイドエアバッグ、二重ロック機能およびクラッシュセンサー付セントラルロッキングシステム、電子式エンジン始動ロックシステムなどを採用した。

ボンドカーとしても有名な存在に−−

 Z8は自動車マーケット以外の舞台でも脚光を浴びる。それは映画、しかも多くのファンをもつ『007』のボンドカーに起用されたのだ。
 BMW車と007の関係は意外に多く、3作品にボンドカーとして出演している。1作目は1995年公開の『007 ゴールデンアイ』で、発売直前の初代Z3が登場。2作目は1997年公開の『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』で、このときは3代目7シリーズのトップモデルである750iLのほかにモーターサイクルのR1200Cが撮影に加わった。そして3作目が1999年公開の『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』で、市販前のプロトタイプバージョンのZ8が起用される。

 天才発明家のQが作ったZ8ボンドカーは、遠隔操作装置や小型ミサイル、電子システムを使用不能にするレーザービームなどを特別装備。劇中では敵のヘリコプターをミサイルで撃墜した。しかし、すぐ後にもう1機の武装ヘリコプターが現れ、吊るした大型チェーンソーによってZ8が真っ二つにされる。もちろん、このZ8は実車ではなく精巧に作った張りぼてなのだが、そのインパクトの強さから、Z8は“最も気の毒なボンドカー”として名を馳せる!?ようになった。

1代限りで車歴を終了

 ショーデビューから半年ほどが経過した2000年3月より市販に移されたZ8は、モダンとクラシックが巧みに融合した内外装デザインやオールアルミ製の先進的なシャシー&ボディ、ハイパフォーマンスな走行性能、そして高価なプライスタグ(ドイツで23万5000マルクまたは12万2700ユーロ、アメリカで12万8000ドル、同年5月発売の日本で1650万円)で、世界中のクルマ好きから大注目を集める。受注台数はアメリカ市場を中心に順調に伸びた。

 一方、BMW側としてはZ8によってブランドイメージがいっそう高まったものの、高コストのクルマ造りから利益面ではあまりメリットが生じなかった。そうこうしているうちに、合従連衡による歪みが赤字となってBMWを襲う。市場および製品に関する取り組みの方向性や技術ノウハウが大きく異なるローバー・グループとの合併はシナジー効果を得にくく、またロールス・ロイスの買収ではフォルクスワーゲン・グループとのトラブルが発生したのだ。経営回復を目的に、BMWはMINIなどの一部ブランドを残してローバー・グループを売却。同時に、採算を取りにくいモデルの販売中止を決定し、このなかにZ8を含めた。最終的にZ8は、2003年7月に累計5703台をもって生産を終了。後継車は設定されず、惜しまれながら1代限りで姿を消したのである。