NEO-X 【1989】

1990年代に向けた“知的高性能セダン”の提案

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知的高性能セダンの提案

 元号が昭和から平成に変わった1989年。日産自動車はこの年の10月に開催された第28回東京モーターショーにおいて、1990年代に向けた大型ラグジュアリーセダンのコンセプトカーを初披露する。“知的高性能セダン”と謳った「NEO-X」だ。

 NEO-Xを企画するに当たり、日産の開発陣は「日本を、とくに東京を意識した」という。当時は日本製品が“Japan as No.1”と称され、中心都市である東京も世界中から高い注目を浴びていた。その東京の文化や芸術、さらに技術をクルマに凝縮させ、世界に向けて発信するというのが、NEO-Xの骨子となったのである。具体的には、東京を強く意識したクルマ=日産が独自に考案した“走る楽しさ、豊さ”と捉え、人が生み出す生活/環境/文化などを入念に踏まえた“知的高性能セダン”の創出を目指した。

統合制御システムの採用

 知的高性能セダンの核となる技術として採用されたのは、“思いのまま”を実現するために編み出された“統合制御”システムだった。エンジン/ドライブトレーン/サスペンション/ブレーキ/ステアリングといった各機構を電子システムのネットワークによってトータルで制御し、運転のしやすさや快適性などを飛躍的に向上させたのである。

 各機構にも先進メカが積極的に採用された。エンジンは最新のVH45DE型4494cc・V8DOHC32V(280ps/40.8kg・m)で、組み合わせるミッションにはセレクトバイワイヤ式のフルレンジ電子制御5速ATを搭載。駆動システムは電子制御のトルクスプリット4WD(後輪部には電子制御LSDも装備)が組み込まれ、さらにプロペラシャフトにはFRP材が使われた。足回りは油圧アクティブサスペンション付きの4輪マルチリンク。操舵系には前後輪アクティブステアリングが装備される。また、4輪ディスクの制動機構には制動力配分制御システム付きの4チャンネル4センサー式4輪アンチスキッドブレーキを、タイヤ内部には空気圧を検知する内圧センサーを設定した。

 NEO-Xには走行中の安全対策に関する先進技術も鋭意、盛り込まれる。前方には赤外線暗視装置、ミラー部には後側方警戒レーザーレーダーをレイアウト。一定のスピード域で歩行者や障害物を検知すると、警告灯とともに室内の乗員に知らされ、同時にブレーキなどに信号が送られて制動を行う仕組みだ。さらに、ヘッドライトには配光制御システムを、フロントガラスにはホログラフィックヘッドディスプレーを装備し、夜間走行時の安全性を向上させている。

デザインは日本人の美意識を表現

 知的高性能セダンを創出するために、開発陣は内外装の演出にも工夫を凝らした。スタイリングに関しては空気抵抗係数(Cd値)0.26のエアロボディを実現した上で、日本人の美意識を踏まえた瀟洒な雰囲気の4ドアセダンデザインを構築する。ヘッドライトには前述した通り配光制御システムを内蔵。サイドミラーにはウィンカー機構も組み込まれた。ボディサイズは全長4975×全幅1865×全高1350mmで、ホイールベースは2880mm。モーターショー開催の9日前に発表されたインフィニティQ45と比べると、ややショート&ワイドで、しかもローフォルムに仕上げられていた。

 乗車定員を4名に絞り、前後と横方向の空間に余裕を持たせた室内は、“もてなす機能”と称する先進のアイデアが満載される。インパネはシンプルかつ上品なデザインで構成。メーターは遮光フィルター付きのレーザーポインター式中空メーターで、センター部には可動式のタッチスイッチ・ディスプレーも装備した。またセレクトバイワイヤ式5速ATのシフトレバーについては、ステアリング左横にコンパクトに配置する。ドライバーズシートに関しては、リクライニング/スライド/ヘッドレストにパワー機構を内蔵した上で、ステアリングのチルトおよびアクセル&ブレーキペダルのアジャスタブル機構と連動したメモリー付きオートドラポジ機構が採用された。

 1990年代向けたラグジュアリーセダンの提案形として開発されたNEO-X。そこに組み込まれた先進機構はモーターショー後も研鑽が重ねられ、後にデビューする新型モデルのシーマやフーガに完成度を高めたシステムが随時採用されていく。とくに、各メカニズムの統合制御やレーザーレーダーによる検知システムは、自動車市場に大きなインパクトを与えた。その意味で、NEO-Xはまさに“未来のクルマ”の試金石だったのである。

NEO-XはインフィニティQ45の進化型!?

 1989年10月という同時期に初披露された日産初の大型ラグジュアリーサルーンであるインフィニティQ45とコンセプトカーのNEO-X。実はこの2台、多くの点で共通項を持っていた。

 スタイリングは2モデルとも“日本人の美意識”を強調。メカニズムについても、前後マルチリンク式の油圧アクティブサスペンションに2880mmのホイールベース、VH45DE型4494cc・V8DOHC32Vエンジンと280ps/40.8kg・mのパワー&トルク値などが共通だった。一方、NEO-XはインフィニティQ45にはない装備、具体的には総合制御システムやFRP製のプロペラシャフト、セレクトバイワイヤ式の5速AT、電子制御トルクスプリット4WDといった数多くの先進機構を加えている。そのままの形で市販に移行されることはなかったが、NEO-Xはある意味、インフィニティQ45の進化型もしくは先進デバイス組込の実験型といえる1台だった。