インプレッサWRX22B-STi 【1998】
WRカーを再現したクーペボディの特別な4WDスポーツ
1997年開催の世界ラリー選手権(WRC)は、マシン規格が従来のグループAからWRカーに移行したシーズンだった。年間の総生産台数が2万5000台以上で、直接的なベースモデルが2500台以上生産されていれば、ボディのワイド化や駆動システムの4WD化、同一メーカーエンジンへの換装などの大幅な改造が許されたWRカー規定の導入は、結果的にWRC参戦メーカーの増加を促し、選手権自体の活況につながることとなった。
WRカー元年のシーズン、マニュファクチャラーズチャンピオンに輝いたのは、インプレッサWRCで参戦したスバル・ワールドラリーチームだった。WRカー規格のインプレッサが年間8勝という好成績でタイトルを獲得した。勝利の陰でスバリストたちからは、ちょっとした不満の声も聞かれた。インプレッサWRCと直結するロードバージョンがない−−。その意見は、もちろん富士重工業およびモータースポーツ専門子会社のスバルテクニカインターナショナル(STI)の耳に入っていた。最終的に富士重工業は、STI主導でインプレッサWRCのロードバージョンを開発する旨を決断。しかも、徹底して高性能化を図る方針を打ち出した。
ボディに関しては、2ドアクーペ用をベースに大型のブリスターフェンダーを装備してワイド化を図る。フェンダーの組み付けには高田工業(神奈川県横浜市)の協力を仰ぎ、同社のラインにおいて半ば手作業で溶接を行った。フェンダーの大型化に伴い、バンパーも専用にデザイン。フロント部ではグリルを一体造形とする。また、空力特性の向上を狙って角度調整タイプの大型可変リアスポイラーや大型サイドアンダースカートといったエアロパーツも導入した。ほかにも、エアダクト付アルミ製フロントフードやチタン製STiエンブレムなどの専用パーツを装着する。
ボディカラーには、インプレッサWRC専用色のソニックブルーマイカを採用。インテリアでは、シートやドアトリムはボディ色とコーディネートしたブルー系、インパネをインプレッサWRCと同イメージのマットブラックタイプでまとめる。また、前席にはバックレストにSTiロゴ刺繍を施したオリジナルバケットシートをセット。コンソールボックス前部には、専用シリアルナンバープレートを貼付した。
搭載エンジンはEJ20型系のボアを92.0→96.9mmに拡大したうえで、シリンダーブロックをクローズドデッキタイプに変更したEJ22改(2212cc水平対向4気筒DOHC16V空冷インタークーラーターボ)を採用する。内部パーツには、耐久性や信頼性の向上を狙って鍛造モリブデンコーティングピストンやメタルヘッドガスケットなどをセット。エンジン外観のワンポイントとして、インテークマニホールドとカムベルトカバーに赤チヂミ塗装を施した。組み合わせるトライブトレーンについては、WRX-STiで定評のあるドライバーズコントロールセンターデフ付クロスミッションを採用する。トルクアップに対応して、メインシャフトおよび2ndドリブンギアの材質を強化。クラッチには競技用のツインプレート・セラミックメタルクラッチを、ロードユースに適した仕様に変更して装着する。
前後ストラット式のサスペンションに関しては、専用セッティングのビルシュタイン製倒立式ダンパーとアイバッハ製コイルスプリングをセットする。シューズには235/40R17サイズのピレリP-ZEROタイヤと8.5JJ×17サイズのBBS製鍛造アルミホイール+カーボンセンターキャップを装着した。ブレーキは前後ともにベンチレーテッドディスクで、フロントには対向4ポット、リアには対向2ポットのキャリパーを採用。キャリパー自体には赤色塗装を施す。操舵機構には13:1のスーパークイックステアリングギアボックスを装備した。
緻密かつ多様な専用チューニングを施して生み出したインプレッサWRCのロードバージョンは、インプレッサ・プレミアムスポーツクーペ「22B-STi Version」のネーミングを冠して1998年3月に市場デビューを果たす。販売台数は400台限定。車両価格は500万円(東京標準価格)と高価だったが、その人気は凄まじく、わずか2日で完売したのである。
圧倒的な人気の背景にはWRCにおけるインプレッサの圧倒的な強さがあった。WRカー元年となった1997年シーズンの世界ラリー選手権(WRC)。この新舞台に555スバル・ワールドラリーチームは、新開発の「インプレッサWRC」で参戦する。戦績は見事なもので、第1戦のモンテカルロでピエロ・リアッティ選手が、第2戦のスウェディッシュでケネス・エリクソン選手が、第3戦のサファリではコリン・マクレー選手が、第6戦のツール・ド・コルスはコリン・マクレー選手が、第9戦のニュージーランドではケネス・エリクソン選手が、そして第12戦のサンレモと第13戦のオーストラリア、第14戦のRACをコリン・マクレー選手が優勝を果たし、年間8勝の好成績でスバル・ワールドラリーチームはマニュファクチャラーズチャンピオンに輝いた。ちなみに、スバルが同タイトルを獲得したのは、この年で3年連続。つまり、インプレッサはグループAカーとWRカーの両カテゴリーでチャンピオンマシンに君臨したのである。