センチュリー 【1997,1998,1999,2000,2001,2002,2003,2004,2005,2006,2007,2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014,2015,2017,2018】
最新メカで構成した威厳あふれる日本の最上級車
創業者の豊田佐吉生誕100周年を記念したネーミングを冠して、1967年9月に発表されたトヨタのそして日本のフラッグシップサルーンであるセンチュリー。日本の伝統文化を随所に感じさせる内外装の演出や信頼性の高いメカニズムなどを採用した日本特有の高級車は、実は「なかなかフルモデルチェンジしないクルマ」として業界で有名だった。対外的には「いずれは……」とか「機会があれば……」と説明していたトヨタのスタッフ。一方で開発現場では、1990年代に入ると全面改良の企画が本格的に推し進められるようになった。
なぜ、センチュリーの全面改良が決断されたのか? 背景には、日本の高級車に対する需要の変化があった。1980年代後半から本格化したハイソカー(ハイソサエティカー)の隆盛によって、高級車はユーザーにとってより身近な存在に成長する。メーカー側もこの傾向を重視し、いっそう質の高い高級車を企画していった。その代表格が、トヨタが1989年10月にリリースした「セルシオ」(UCF10型系)だ。“いつかはクラウン”の上をいく新世代高級車のセルシオは、高品質で豪華な内外装の仕立てや4L・V8エンジン(1UZ-FE型3968cc・V8DOHC)をはじめとする先進メカニズムの採用などで注目を集め、たちまち多くのバックオーダーを抱える大ヒットモデルに成長した。
市場はより豪華で高性能な高級車を求めている。フォーマルサルーンであり、ショーファードリブン(お抱え運転手が運転する)車でもあるセンチュリーも例外ではない−−そう判断したトヨタの上層部は、ついにセンチュリーのフルモデルチェンジにゴーサインを出したのである。
次世代のセンチュリーを企画するにあたり、開発陣は既存のアイデンティティである“気品”と“安心”をより進化させることを念頭に、「60年に渡って培ってきたトヨタの匠の技と先進技術を織り込んだ次世代のフラッグシップサルーン」の創出を目標に掲げる。具体的には、1)乗車する方のステイタスを象徴する外形スタイルおよび内装デザイン、2)フォーマルサルーンに求められる後席尊重のしつらい、3)“走る・曲がる・止まる”そして“守る”の飛躍的進化といった項目の実現を目指した。
外形デザインについては、美しいもののカタチとして日本人の心に深く刻み込まれる“水平対称フォルム”を基調に、気品や風格といった伝統美のいっそうの深化を図る。フロントビューは手彫り金型による鳳凰マークや精緻な格子形状のグリル、そしてフォグランプをビルトインした端正なヘッドランプなどで悠然とした佇まいを演出。また、バンパーにはクラフトマンの手作業により巧みな表面処理仕上げを施したスチール部と衝撃を吸収する樹脂部を組み合わせた新造形のハイブリッドタイプを装着した。
サイドビューは水平基調のフォルムと前後にほどよくバランスさせたキャビン部、そして伝統のアルミドアフレームなどによって格調の高いルックスを実現。リアビューは横一文字に配置したコンビネーションランプやアルミ製のセンターガーニッシュ、刷新した車名文字などで落ち着き感と気品を創出した。さらに、外板塗装面すべてに研磨を施して平滑な面を作り上げるとともに、最大7層の多層塗りを行うことで深みのある色調を具現化する。ボディ自体には、最新の衝突安全ボディのGOAを採用した。外寸は全長5270×全幅1890×全高1475mm/ホイールベース3025mm/トレッド前1575×後1575mm。従来型の最終モデル比で、150mm長く、45mm高く、ホイールベースが165mm長く、トレッドが前25/後20mm幅広いスペックとなった。
内装デザインに関しては、後席を最大限に尊重して各部をアレンジする。具体的には、高剛性のボディに多層構造からなる制振材および吸遮音材の各所への配置、外板面のフラッシュサーフェス化などによって、乗用車カテゴリーでトップの高い静粛性を実現。また、電子制御スカイフックエアサスペンションの導入により、低中速域でのソフト感と高速域でのフラット感を高次元で両立させた。一方、リアドア部は開口部とフロアの段差を極力少なくするとともに、地面からルーフサイドレールまでの高さを従来比70mm拡大することで乗降性の向上を図る。
機能装備の充実化も図り、デュアルオートエアコンやドア連動機能付シートスライド、後席シートバイブレターおよびシートヒーター、後席読書灯、後席バニティミラー&コートフックなどのアイテムを装備した。コクピット空間も刷新され、水平基調のインパネやセンターコンソールには同一素材から切り出して模様を統一させた本木目を装着。また、ステアリングには電動チルト&テレスコピック機能を、運転席シートには電動4ウェイ上下アジャストおよびランバーサポート機能を内蔵する。シート表地には標準でジャカード織ウールファブリックを、オプションで本皮革を装備した。
開発陣は動力源についても徹底してこだわる。トヨタの最先端エンジン技術を結集するとともに、高技能者による匠の技を投入した1GZ-FE型4996cc・V12DOHCユニットを新開発したのだ。1GZ-FE型は斜めスキッシュ燃焼室やイリジウム電極点火プラグ、VVT-i(連続可変バルブタイミング機構)、窒化チタンコートシムの採用などにより、滑らかでスムーズな回転特性を実現。同時に、シリンダーブロックやオイルパンなど主要部品の剛性や各運動部品の加工精度を高めることで静粛性の大幅アップを成し遂げる。また、アクセル開度に対するエンジン出力を最適制御するETCS-iも組み込んだ。
開発陣はエンジンに対する品質および信頼性の向上にも注力する。製造工程には高技能者で構成した専用ラインを設けるとともに、完成検査では熟練者による聴診器診断も敢行。また、部品単体および組立時での膨大な耐久試験と製品設計へのフィードバックも行う。加えて、左右バンク6気筒ごとに電子制御を独立させ、燃料ポンプを2個備えて切り替えて使用するなど、2重系のフェイルセーフシステムも取り入れた。
組み合わせるトランスミッションにはリニアソレノイドバルブの採用により滑らかな変速感を、“スーパーフロー”トルクコンバータの組み込みにより優れた伝達効率を確保したECT-i(電子制御式4速AT)をセットする。アップダウンの多い道で頻繁なシフトチェンジを抑える登降坂変速制御機構も内蔵した。
懸架機構に関しては、4輪ダブルウィッシュボーン式の電子制御スカイフックエアサスペンションを新規に採用する。しなやかでフラットな乗り心地を提供しつつ、路面状況や車速などに応じた減衰力の連続制御を行うことで、一段とゆとりのある操縦性と走行安定性を実現した。一方、制動機構には4輪ベンチレーテッドディスクを設定。フロントに大径ローターとアルミ製対向4ピストンキャリパーをセットするとともに、ABSやTRCといったセーフティ機構も装備する。また、タイヤ空気圧警報システムや6エアバッグ、ソフトアッパーインテリアなどの安全アイテムも積極的に取り入れた。
第2世代となるセンチュリーは、GZG50の型式を付けて1997年4月に市場デビューを果たす。グレード構成はフロアシフトとコラムシフトの2タイプで展開。また、それぞれにデュアルEMV(エレクトロマルチビジョン)パッケージ装着車を設定していた。
国産車トップの高い品質と荘重な内外装に、快適かつ滑らかな走りを演じた究極の“おもてなし”車である2代目センチュリーは、発売と同時に従来型からの買い換え需要がドッと押し寄せ、半ば手作りの生産ラインはフル稼働となる。
約30年ぶりの全面改良で市場の話題をさらった2代目センチュリー。一方で開発現場では、フォーマルサルーンとしての特性をさらに高めるための改良を鋭意企画していった。
まず2000年4月には、車両安定制御システムのVSCやクルーズコントロール、エンジンイモビライザーといった新システムを導入。2001年5月にはマイナスイオン発生器などを新規に採用する。さらに2002年7月にはウェルキャブ後席回転シート仕様を、2003年1月にはCNG(圧縮天然ガス)エンジン仕様を追加した。
2005年1月になると一部改良が実施され、トランスミッションの6 Super ECT(電子制御式6速AT)への換装やボディ構造の見直し、前後席SRSカーテンシールドエアバッグの追加設定、コンフォータブル・エアシートの採用などを行う。さらに2006年1月には、メーター内にクリアランスランプとフロントフォグランプのインジケーターを追加すると同時に、本木目+本革巻きステアリングをオプション設定。2008年1月には、ディスチャージヘッドランプ(ロービーム)を標準設定した。
2010年代に入っても、2代目センチュリーの改良は続く。2010年8月にはバックガイドモニターおよびETCを標準装備化するとともに、鳳凰エンブレムの背景色の変更(銀→黒)やリアセンターアームレストの一部本木目化、左後席フットレストの新設定などを実施。2013年5月になると、地上デジタルTVチューナーの4チューナー化やフロント&リアドアガラス(除クォーターガラス)へのスーパーUVカットガラスの採用、フェンダーミラーの鏡面曲率の変更などを行った。
トヨタのフラッグシップサルーンであると同時に、日本を代表するショーファードリブンカーでもある2代目センチュリー。その威光は、伝統の匠の技術とアップデートを続ける先進の技術、すなわち新旧2つの卓越した技術の融合によって、今もなお輝きを放っているのである。
2004年の2月から3月にかけて、皇室の御料車に関するニュースが注目を集める。宮内庁に対して、日産自動車が「ニッサン・プリンス・ロイヤル」の行事での使用中止を要請したというのだ。同車は1967年にリムジンタイプの御料車として納入されて以来、定期的に整備を受けながら昭和と平成の2世代に渡って皇室に愛用され続けてきた。しかし、さすがの同車も経年変化には勝てず、一部では補修不能な箇所も出始める。
もし、重要な行事で故障するようなことがあったら、大変な事態になる——そんな心配をした日産は、ついに同車の使用中止を申し出たのである。後継車も日産製になるはずだったが、残念ながら当時の日産には御料車に仕立てる最適のベース車両がなかった。さらにルノーと合併して経営の再建を図っていたため、御料車の新開発に当てる予算も十分にとれない。結果的に日産は、御料車の納入を辞退する。代わって手を挙げたのが、トヨタ自動車だった。
新しいリムジンタイプの御料車を企画するに当たり、開発陣はベース車として2代目センチュリーを選択する。ボディサイズは全長6155×全幅2050×全高1780mmにまで拡大。搭載エンジンは基本的に1GZ-FE型4996cc・V12DOHCを流用するが、パレードでの長時間低速走行などに備えて様々な改良を施した。居住スペースについてはフロントとリアに3名掛けのベンチシート、後ろ向きに着座する2名分の補助シートが配置される。フロア面はフラットに設定。また、乗降ステップには御影石、天井には和紙葺き、アームレストやパネルには天然木(玄圃梨など)および漆仕上げ、後席シート表地にはウールなどの素材が使われた。一方、宮内庁ではリムジンタイプの次期型御料車を購入するために、まず2005年8月に1台分の5250万円の費用を概算要求に計上する。それが認められ、翌'06年7月になってついにトヨタ産のリムジンタイプの御料車、「センチュリー・ロイヤル」が納入されたのである。