S800M 【1968,1969,1970】

安全装備が充実した初代Sシリーズ完成形

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S800Mは全20項目の安全対策を実施

 1962年秋に開催された「第9回全日本自動車ショー」にS360/S500を参考出品し、1963年よりS500を正式市販することで始まった初代ホンダSシリーズの最後期モデルが、1968年2月にデビューしたS800Mである。

 S800Mは、北米安全基準を満たす全20項目に渡る安全対策を施した“充実装備モデル”だった。事実上、従来からの輸出モデルを右ハンドルに変更し、国内仕様としたクルマで、日本国内の安全意識の高まりに対応した。S800Mの登場に伴って、ボディタイプは従来のオープンとクーペの2タイプからオープンのみに一本化が図られた。これは日本市場ではクーペのニーズがあまりなかったからだ。クーペは輸出専用モデルとなる。

トップスピード160km/h。走りは1.6Lクラスに匹敵

 S800Mのメカニズムは、それまでのS800と共通だった。エンジンは「時計のように精密」と評された791ccのオールアルミ製直列4気筒DOHC。70ps/8000rpm、6.7kg・m/6000rpmの出力/トルクを誇り、レッドゾーンは8500rpmの設定。回すほどにパワーが盛り上がる生粋のスポーツ心臓だった。791ccながらパフォーマンスは超一級。フルシンクロ機構となる4速MTを介してのトップスピードは160km/hに達し、0→400m加速は16.9秒と公表された。動力性能は1.6ℓモデルと肩を並べるレベルに達していた。

 足回りはフロントがダブルウィッシュボーン式、リアがリジッド方式。リジッド式リアサスペンションの導入は、初期型Sシリーズの特徴でもあったチェーンドライブ方式から、一般的なシャフトドライブ式への変更に伴い1966年4月から採用された機構。リジッド式リアサスペンションについては賛否両論があるが、シャフトドライブ化により騒音が大幅に下がり、機械的な信頼性が大幅に増したことは確かだった。

ディスクブレーキ&ラジアルタイヤ標準。走りは充実

 S800Mの特徴は前述のように安全装備の充実にあった。エクステリアではサイドマーカー、リフレクターが大型の独立形状となり、リアランプの意匠を一新。ドアはアクシデントなど万が一の時にも不用意に開かないようアンチバースト機構が組み込まれ、ドアロックも強化型となった。

 インパネは衝撃吸収パッドを追加。ホーンボタンやレギュレーターハンドルなどの突起物はソフトな材質になったほか、ルームミラーはインパネマウント式からウィンドーマウントに変更。サイズも大型化された。ブレーキは1系統が故障しても制動力を確保する2系統式で、油圧警告ランプが追加された。

 走りのポテンシャルを一段と引き上がる改良点もあった。ブレーキの強化とラジアルタイヤの装着だ。フロントブレーキは従来のドラム式からディスク式に変更され、タイヤは145SR13サイズのラジアルが標準装備となった。ブレーキはS800の数少ない弱点のひとつだった。優れた動力性能に対して制動能力がやや不足していると指摘されていたのだ。とくに高速走行時の連続使用でフェードしやすいのが問題だった。新しいディスクブレーキはその心配を解消。優れたグリップ力を誇り、高速走行時の安定性アップに寄与するラジアルタイヤの装着と相まってS800の走りの楽しさを際立たせた。ちなみにステアリングギアレシオは、17.1へと最適化が図られた。

快適性もリファイン。名実ともに完成型に

 快適性面の改良もS800Mの注目ポイントだった。従来は固定式だった助手席に160mmのスライド機構を追加。オートチューナー式のラジオやフロアカーペット、強化型ヒーターを標準装備していた。
 1969年4月には、日本の保安基準の変更に伴い安全装備がさらに充実。シートにヘッドレストが追加され、ハザードランプと駐車灯が追加された。

 S800Mは、初代ホンダSシリーズの最後を飾るに相応しい充実したモデルだった。小気味いいパフォーマンスと回すほどドライバーを刺激する“ホンダサウンド”が心ゆくまで楽しめ、ブレーキ性能も強力。走行安定性を含めハンドリングも高度なレベルに達していた。ホンダのスポーツイメージは、S800Mで完成の域に達した。

初代ホンダSシリーズの総生産台数は2万5853台

 最後の初代ホンダSシリーズが、埼玉県の狭山工場の生産ラインを離れたのは1970年3月のことだった。ラストモデルは国内仕様のS800M。S800の生産台数は1966年から順に2895台、4750台、3026台、583台の合計1万1406台。S500から数えてのSシリーズ総生産台数は2万5853台に達した。このうち国内市場で販売された台数は約1万2000台。過半数が海外に輸出された。

 ホンダSシリーズは、海外で評価された日本車のパイオニアだった。欧州をはじめ、アメリカでも熱狂的な支持を集め多くのファンを魅了した。ちなみにホンダSシリーズはフレーム式のボディ構造を採用しているため、レストア作業が比較的容易なことが美点。21世紀の現在でも多くのクルマが実働状態にあると言われている。