サニー1000クーペ 【1968,1969,1970】
小粋なフルファストバック・スペシャルティ
「本格派スポーティクーペ」、サニー・クーペは、1968年3月、2ドアセダン、バン、トラック、4ドアセダンに続く第5のボディタイプとして登場した。抜群にお洒落なスタイリングと、キビキビとした走行性能、そしてライバルにないユーティリティでマニアの絶賛を集めたスペシャルモデルである。
サニー・クーペの個性は、なんといってもファストバックの大胆なスタイリングにあった。ルーフからリアエンドまでシャープな直線で結んだボディラインは躍動感たっぷり。デビュー当時のカタログでは「日本で初めての魅力あふれる本格的なファストバック・ルックです。胸の高鳴るハンサムなクーペ。お乗りになったその時から、あなたの人生がドラマティックにスタートします。」と表現し、サニー・クーペが特別なクルマであることを宣言していた。確かにサニー・クーペはスピード感を感じさせた。ノーズ回りこそセダンの面影を残していたが、従来の日本車では味わえなかった小粋な印象で若者の心を鷲づかみにしたのだ。
リアエンドはもちろんだが、子細に観察するとセダン系と共通するボディパーツはほとんどなかった。Aピラーはファストバックと呼応するように一段と寝かされ、前後のバンパー位置も見直されている。フロントバンパーは装着位置が高められ、グリルのすぐ下にバンパーがくるようになった。これはノーズを低く見せるための工夫だった。ボディサイドに細いピンストライプを配したのも特徴で、砲弾型となったサイドマーカーランプと相まって、シャープな印象を訴求した。サニー・クーペは単純にルーフ形状を変更した“お手軽デザイン”ではなく、本来の個性である軽快な印象を一段と訴求する“スペシャルティデザイン”でまとめていたのだ。ドア回りのウィンドーサッシュを上品なフルメッキ仕上げとすることでクオリティ感を高めたのもユーザーにはうれしいポイントだった。
特別だったのは室内も同じである。メーターパネルはクーペ専用デザイン。セダンは一部鉄板剥きだしの合理的な仕様だったが、クーペは完全フルトリム。高級でしかもスポーティな造形でまとめていた。メーターは3連丸形形状で回転計の組み込みが可能だった。4速フロアシフトのトランスミッションと相まって、“コクピット”という表現がぴったりの走りのイメージに溢れていた。シートも特別デザイン。左右ともにフルリクライニング機能を備えたセミバケット形状で、シート生地はビニールレザーと、お洒落な千鳥格子のファブリックから選べた。
後席にもアイデアを組み込んでいる。後席シートバックに前倒し機構を組み込み、ラゲッジスペースを拡大することが可能だったのだ。サニー・クーペが登場した1968年頃は若者の遊びの領域が拡がっていた時期だった。スキューバダイビングやスキー、サーフィンなど、嵩張るアイテムを利用しての新しい遊びが注目を集めていた。サニー・クーペならそんな新しい遊びのアイテムをきれいにラゲッジルームに収めることができた。荷物の出し入れは基本的に通常のトランクリッドから行うタイプだったため、大型の荷物は積み卸しに工夫が必要だったが、スタイリッシュなクルマで、最新流行の遊びに出掛ける喜びは特別だった。サニー・クーペのユーティリティはライバルを圧倒していたのだ。
ただしカタログ面での走りのアピールはそれほどでもなかった。パワーユニットはシングルキャブ仕様のA10型・988cc。細部の見直しでセダンより4psパワフルな60ps/6000rpm、8.2kg・m/4000rpmのスペックを誇ったが、数値自体は驚くほどのレベルではない。ブレーキも前後ともドラム方式(前ツーリーディング、後リーディングトレーリング式)にとどまった。実際のサニー・クーペの走りは車重が675kgと軽く、ボディサイズも全長3770mm、全幅1445mm、全高1310mmとコンパクトだったことで、クラス水準を大幅に抜いていた。ライトウェイトスポーツという形容が相応しい小気味いい走りを披露したのだ。しかしカタログには、ライバル各車のようにツインキャブや、ディスクブレーキという文字はなかった。
サニー・クーペは、基本的にモノグレード構成。豊富なオプションによりユーザーの個性を表現するモデルだった。この手法はスペシャルティカーの先駆となったフォード・マスタングと共通である。
サニー・クーペは人気アイテムを揃えたセットオプションを数タイプ用意していた。最も人気の高かったのが「スポーティセット」。タコメーター、ナルディタイプ・ステアリング、木目シフトレバー、ヘッドレスト、2点式シートベルト、フォグランプ、マフラーカッター、イニシャル入りカーバッジの8アイテムがパッケージとなり、価格は4万6800円。他にはオートアンテナやオルゴール付き方向指示器、カレンダー付き音叉時計などを用意した「スーパーデラックスオプションセット(3万2000円)」や、2点式シートベルト、ヘッドレスト、バックブザーなどがセットとなる「セーフティオプションセット(2万300円)」などが設定されていた。