コロナHT 【1965,1966,1967,1968】
パーソナル感覚を強調したスタイリッシュモデル
“アローライン”の愛称で知られるRT40/50型系コロナは、トヨタの屋台骨をしっかりと支えた名車だ。それまで後塵を拝してきた宿敵ブルーバードとの販売競争を制し、アメリカ市場への輸出にも成功。今に至るトヨタの躍進は、RT40/50型系コロナの成功がもたらした面が大きい。
成功の要因は、高速性能を含めた走りの良さや、豪華なイメージ、販売力など、数々の要因が考えられる。中でもユーザーの支持を集めたのがスタイリングである。RT40/50型系は愛称が“アローライン”ということからも分かるように、矢のようなスピード感をイメージさせるスタイリッシュな造形でまとめられていた。しかもフロントマスクには4灯式ヘッドランプをビルトインするなど、豪華な印象も満点だった。ライバルのブルーバード(P410型)の、ピニンファリーナな手がけたスタイリングは、好き嫌いがはっきりと分かれた。しかしコロナの造形は、万人に受け入れられるものだった。
コロナのスタイリッシュなイメージは1965年7月にラインアップに加わったハードトップ(HT)によって決定的となる。HTはアメリカで一般的だった2ドアクーペモデル。もともとはオープンモデルに幌(=ソフトトップ)に換えて装着する、取り外しができる耐候性に優れた屋根(=ハードトップ)を意味していた。しかし1960年代になると“パーソナルなイメージを持った屋根付きのクーペ”を意味するようになった。コロナが設定したHTは、日本におけるアメリカンイメージHTの先駆。センターピラーを廃止したボディ構造を日本車として初めて採用していた。
コロナHTは、スポーティな雰囲気に溢れていた。引き締まったクーペフォルムは、コロナの走りのイメージを盛り上げるとともに、上質でパーソナルな印象を与えた。センターピラーが廃止されたことによって、サイドウィンドー回りはすっきりとしたイメージにまとめられていた。従来のセダンとははっきりと違う個性を発散したのだ。
ラインアップはセダンと共通の1490ccの直4OHV(70ps/11.5kg・m)を搭載した標準グレードと、1587ccのツインキャブ仕様・直4OHV(90ps/12.8kg・m)を積むSグレードの2タイプ。標準グレードのトランスミッションは、3速MTと2速ATが選べ、セレクターはコラムに配置。Sグレードはフロアシフトタイプの4速MTを組み合わせた。トップスピードは標準グレードが140km/h、Sグレードは160km/hに達した。
コロナHTの魅力は、スタイリッシュなスタイリングを引き立てるディテールの質感がしっかりと引き上げられていたことだった。フロントマスクは精悍なブラック仕様とされ、リアランプも細型形状の専用タイプを装着する。
室内ではシートが個性を放つ。前席はセダンのファブリック張りベンチ形状に換えて本革イメージのスポーティなセパレート形状を採用。当時としては珍しいリクライニング機構が標準装備だった。後席は前倒しすることが出来、倒すと荷室として使えるように工夫されていた。シートカラーはブラックと鮮烈なレッドを設定する。
Sグレードではメーターパネルが回転計を備えた4連タイプとなることもあって、さらにスポーティなイメージを発散。高級GTカーの雰囲気が漂った。
ボディカラーは全5色。プラネットシルバー、アストラルグリーン、スターダストグレー、ソーラーレッド、リリーホワイトと、コロナの車名にちなみ、“宇宙に色のテーマをとった”上品な色が揃った。
コロナHTは、従来セダンとバン、5ドアHBといったボディタイプを揃え、実用イメージが強かったコロナのラインアップに華麗な彩りを添える。1960年代、クルマは憧れの対象だった。「憧れを集めるには、周囲から羨望を集める強い個性を持たなくてはならない」、トヨタの開発陣はそう考えたのだろう。コロナHTは、見事にユーザーのハートを捉え、瞬く間に人気モデルに成長。コロナの躍進を支えた。日本が誇る名車の1台である。
トヨタは、名車「トヨタ2000GT」の弟分として「トヨタ1600GT」を1967年8月にリリースする。とはいえ1600GTは、ゼロから開発されたモデルではない。コロナHTをベースにしたスペシャルモデルだった。
1600GTのアピールポイントはエンジンにあった。HT・Sグレードの4R型をベースにヘッドをDOHC化したスポーツ心臓を搭載。最高出力はSグレード比20ps増の110psをマークした。
ラインアップは4速仕様のGT4と、5速仕様のGT5の2グレード構成で、GT5のトランスミッションは基本的に2000GT用と同一。さらにフロントシートとステアリングホイールも2000GTと共通性のあるデザインにまとめられていた。外観はフロントフェンダーサイドにエアアウトレットが入ることが特徴だった。コロナを名乗らない“1600GT”の走りは高性能。サーキットでも大活躍した。