日産セドリックvs トヨタ・クラウン 【1971,1972,1973,1974,1975】
史上唯一セドリックが勝利した熾烈なバトル
モータリゼーションが飛躍的に進展した1960年代後半の日本。その状況下で、従来のクルマの位置づけも変化し始める。それまでは法人需要やハイクラス層が大半だった“中型乗用車”に上級指向の一般ユーザーが注目するようになり、急速に販売比率を伸ばしていったのだ。
フォーマルさに比重を置いていた従来の中型乗用車の造り方では、もはや多様化したユーザーの要求性能に対応できない。もっとスポーティさや親しみやすさ、先進性などを加える必要がある。そう判断したのは、中型乗用車生産の2大メーカーである日産自動車とトヨタ自動車工業だった。結果的に日産は次期型セドリックとグロリア、トヨタは次期型クラウンの車両コンセプトを大胆に刷新し、1970年代に向けた新たな中型乗用車の開発に邁進することとなる。
最初にフルモデルチェンジしたのは、トヨタだった。1971年2月16日、4代目となるクラウンが市場に放たれる。ボディタイプは4ドアセダン/2ドアハードトップ/ワゴン&バンの3仕様を用意。搭載エンジンはM-B型(125ps)/M-D型(115ps)/M-C型(105ps)の1988cc直6OHCのほか、5R型1994cc直4OHV(98ps)などを設定する。個人ユーザーに向け、とくにハードトップのラインアップを拡充したことが車種設定の特徴となった。
4代目クラウンにおいて最も変化が大きかったのは、そのスタイリングのアプローチだった。安全性や空力特性の向上を狙って、スピンドルシェイプと呼ぶ紡錘型のフォルムが採用される。さらに、楕円形状のフロントマスクやビルトインタイプのカラードバンパーなども斬新なアレンジだった。三角窓を廃して視認性を高めた内装では、トータルでのカラーコーディネートや構成素材のクオリティアップを実施。ステレオやリアクオーターピラー・パーソナルランプの装着など、機能面での向上も図られる。また、最新のエレクトロニクス機構も積極的に採用し、EAT(電子制御式自動変速機)やESC(電子制御式スキッドコントロール装置)、オートドライブを新たに設定した。
4代目クラウンが発表された翌週の1971年2月23日、最大のライバルである日産のセドリックが、旧プリンス自動車のグロリアとボディを共用化して市場デビューを果たす。セドリックが3代目、グロリアとしては4代目となる230型系のニューモデルは、従来の4ドアセダン/ワゴンおよびバンに加えて新たに2ドアハードトップを設定し、個人ユーザーにアピールした。搭載エンジンはL20型1998cc直6OHC(130ps/125ps/115ps)をメインに、H20型1982cc直4OHV(92ps)などを用意。先代グロリアに設定された旧プリンス系のG7型エンジンは廃止となった。
スタイリングについては、ロングフードのプロポーションを生かした優雅で格調の高いフォルムを基調に、立体感のあるラジエターグリルや横長のテールランプ&フィニッシャー、ボリュームのあるリアフェンダーなどを採用して個性を主張。ハードトップでは専用デザインの角型ヘッドランプやタルボ型フェンダーミラー、リアクオーターパネル・エアダクトを装備してスポーティ感を演出した。また、セドリックとグロリアの違いを打ち出すために、プレスラインやグリルなどの意匠を差異化させる。
インテリアに関しては、全面ソフトパッドで覆ったインパネや無反射式のメーター、新デザインのシートなどを装着し、豪華さの演出とともに安全性を引き上げる。また、室内の静粛性を高めるために分割式のプロペラシャフトを採用した。
ほぼ同時期にデビューした2台の中型乗用車は、それまでの市場シェアを大きく変えた。先代では60%強の占有率を占めていたクラウンの人気が、急速に降下したのだ。主な要因は斬新なスピンドルシェイプのスタイリングと言われた。法人および保守的な個人ユーザーが拒否反応を示したのである。一方、比較的オーソドックスで親しみやすいデザインだったセドリック/グロリアは好調な販売成績を記録し続けた。
2車はデビュー後も着実な改良と車種拡大を実施する。クラウンは1971年4月に4M型2563cc直6OHCエンジン(130ps)を搭載した2600シリーズを発表。1973年2月には、外装デザインの一部変更を敢行する。1974年1月になると、EFI(電子制御式燃料噴射装置)エンジン車を新たに追加した。一方のセドリック/グロリアは、1971年10月にL26型2565cc直6OHCエンジン(140ps)を積む2600シリーズをリリース。1972年7月にはマイナーチェンジを実施し、その翌月には国産初の4ドアハードトップ車を追加設定した。
1970年代前半の中型乗用車での市場シェア争いは、最終的にセドリック/グロリアがクラウンを凌駕する結果となる。日産は待望の同カテゴリー首位。また、その後も続くライバル関係の中で、唯一230型系セドリック/グロリアがクラウンに勝利するモデルとなったのである。