インプレッサWRX 【1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998,1999,2000】
世界ラリー選手権制覇を目指したWRX第1世代
ラリーを選択した富士重工業(現SUBARU)。
独創的な技術で勝負する同社は1992年に
新しいホモロゲーションモデルを市場に放つ。
新世代モデルのインプレッサをベースとする
「WRX」グレードを発売したのだ。
出力アップを果たしたEJ20ターボエンジンに
強化した駆動システムを
採用したハイパフォーマンスモデルは、
WRCの舞台で1995~1997年にかけて3年連続で
マニュファクチャラーズタイトルを獲得した。
富士重工業(現SUBARU)は軽自動車のヴィヴィオから小型車のレガシィへのスムーズな上級移行の形成を目指し、1992年10月に新しい中間車となる「インプレッサ(IMPREZA)」発表、翌11月に発売する。シリーズ構成はサッシュレス4ドアのセダン(GC型)およびスポーツセダンのWRX(GC8型)とコンパクトなラゲッジを備えたスポーツワゴン(GF型)で構成。
エンジンは全車とも水平対向4気筒ユニットで、初代レガシィから引き継いで改良を加えたEJ20型1994cc・DOHC16Vターボを筆頭にEJ18型1820cc・OHC16V、EJ16型1597cc・OHC16V、EJ15型1493cc・OHC16Vを設定する。駆動方式に関しては、MTモデルにビスカスLSD付のセンターデフ式4WDを、ATモデルにはトルクスプリット式の4WDを組み合わせ、EJ16とEJ15エンジンにはFF仕様も用意した。
ちなみに、後に世界ラリー選手権(WRC)に参戦する高性能スポーツモデルのWRX系は、初期の段階では開発現場にその設定を伝えていなかった。当時のスタッフによると、「開発メンバーはもともと走り好きがそろっていたため、WRX系に開発のウエイトが集中してしまう可能性があった。だからベーシックモデルの完成に一定の目途が立った後、商品企画から開発部門に高性能モデルの設定を伝え、WRX系の開発を本格化させた」という。
シリーズの最強版で、かつWRCグループAのホモロゲーションモデルとなるWRXは、ロードカーバージョンのWRXとコンペティション仕様のWRXタイプRAを設定する。搭載エンジンには大容量高速型の水冷ターボチャージャーやダイレクトプッシュ式バルブ駆動、5ベアリングクランクシャフト、クローズドデッキシリンダーブロックなどを組み込んだオールアルミ合金製のEJ20型1994cc水平対向4気筒DOHC16Vインタークーラーターボを採用。パワー&トルクは240ps/31.0kg・mを発生した。
トランスミッションには、油圧レリーズ式プルタイプのクラッチを導入したうえでギア比を最適化した5速MTをセット。駆動機構にはビスカスLSD付センターデフ式フルタイム4WDを採用し、リアにもビスカスLSDを装備する。フロントをL型ロワアームのストラット、リアをデュアルリンクのストラットで構成したサスペンションはアームやブッシュ類を強化するとともに、ダンパーおよびスプリングにハードタイプを装着。ボディは曲げとねじれともに剛性を引き上げ、同時にアルミ製フロントフードを導入するなどして効果的に軽量化を図った。
また、操舵機構にはオーバーオールギアレシオを15:1とクイック化すると同時にステアリングサポートビームを組み込んだエンジン回転数感応型パワーステアリングをセット。制動機構にはフロントにローター厚24mm/制動有効半径228mmの2ポットベンチレーテッドディスクを、リアに同18mm/230mmのベンチレーテッドディスクを採用する。専用の内外装パーツとしてリアスポイラーやサイド&リアアンダースカート、大径フォグランプ、205/55R15タイヤ+6JJ×15軽量アルミホイール、ナルディ製本革巻きステアリング&シフトノブ、バケットシートなども装備した。
富士重工業が大きな期待を込めて市場に送り出したインプレッサは、好感を持ってユーザーに受け入れられる。とくに人気が高かったのがスポーツグレードのWRX系で、WRX系は走りを重視するスバリストたちに支持された。この勢いを維持しようと、開発陣は精力的にイメージの強化とラインアップの拡充を図っていく。1993年8月からはインプレッサWRXを駆ってWRCに参戦。1993年10月の一部改良(Bタイプ)ではスポーツワゴンにも高性能モデルのWRXグレードを設定し、このときターボエンジンとATが組み合わされ、駆動機構にはVTD-4WDを採用した。
WRC制覇を目指した富士重工業の開発陣、さらに同社のモータースポーツ部門であるSTI(スバルテクニカインターナショナル)は、WRXの改良を矢継ぎ早に実施していく。1994年1月には、ハイパフォーマンスモデルの「WRX-STi」がデビュー。EJ20ターボエンジンはファインチューニングが実施され、鍛造ピストンや専用ECU、軽量化したハイドロリックラッシュアジャスター、インタークーラーウォータースプレイ&専用ノズルなどを採用した。さらに排気系にはSTi/フジツボ製のΦ101.6mm大径マフラーを組み込む。得られたパワー&トルクは250ps/31.5kg・m。加速性能とアクセルレスポンスも従来ユニットを大きく凌いだ。
1994年10月になるとインプレッサのマイナーチェンジ(Cタイプ)が実施され、セダンWRX系のEJ20ターボエンジンの最高出力は260psにまで引き上がる。また翌月には、競技用ベース車のWRX-RA STiが登場。専用タイプのECUにシリンダーヘッド、ナトリウム封入排気バルブおよび中空吸気バルブ、ダクト部強化型インタークーラーなどで武装し、ターボの過給圧も高めたEJ20ターボは、275psの強力パワーを発生した。
インプレッサWRXの進化は続く。1995年8月にはWRX-STiのバージョンⅡがデビュー。1996年9月になると“全性能モデルチェンジ”と称したインプレッサのビッグマイナーチェンジ(Dタイプ)が行われ、同時にWRX-STiはバージョンIIIに発展した。
全性能モデルチェンジを遂げたWRX系には、“BOXER MASTER-4”と名づけた新しいターボ付きEJ20型エンジンが採用される。ターボチャージャーの大型化やインタークーラーのサイズアップおよびコアの水平置き化、モリブデンコーティングを施すとともにスカートサイズを短縮した新ピストンの採用、過給圧アップに対応したメタルガスケットの装着などを実施。パワー&トルクはついに280ps/33.5kg・mにまで達した。
また、WRX-STiバージョンⅢは専用大容量タービンの採用や最大過給圧の引き上げなどによって最大トルクが35.0kg・mにアップ。足回りのセッティング変更も行い、操縦安定性を向上させた。さらに1997年9月には、一部改良を実施してEタイプに移行。WRX-STiはバージョンⅣとなり、EJ20ターボエンジンの最大トルクは36.0kg・mにまで引き上がった。
WRCは1997年シーズンに従来のグループAからWRカーに移行する。このシーズン、マニュファクチャラーズチャンピオンに輝いたのは、インプレッサWRCで参戦したスバル・ワールドラリーチームだった。一方でスバリストたちからは、ちょっとした不満の声が上がった。インプレッサWRCと直結するロードバージョンがない--。その意見は、もちろん富士重工業およびSTIの耳に入っていた。最終的に富士重工業は、STI主導でインプレッサWRCのロードバージョンを開発する旨を決断。しかも、徹底して高性能化を図る方針を打ち出した。
ボディに関しては、2ドアクーペ用をベースに大型のブリスターフェンダーを装備してワイド化を図る。組み付けには高田工業の協力を仰ぎ、同社のラインにおいて半ば手作業で溶接を行った。ボディカラーには、インプレッサWRC専用色のソニックブルーマイカを採用する。
インテリアでは、シートやドアトリムをボディ色とコーディネートしたブルー系で、インパネをインプレッサWRCと同イメージのマットブラックタイプでまとめた。搭載エンジンはEJ20系のボアを92.0→96.9mmに拡大したうえで、シリンダーブロックをクローズドデッキタイプに変更したEJ22改(2212cc水平対向4気筒DOHC16Vインタークーラーターボ)を採用する。パワー&トルクは280ps/37.0kg・mを発生。サスペンションには専用セッティングのビルシュタイン製倒立式ダンパーとアイバッハ製コイルスプリングをセットした。
緻密かつ多様な専用チューニングを施して生み出したインプレッサWRCのロードバージョンは、「22B-STi Version」のネーミングを冠して1998年3月に市場デビューを果たす。販売台数は400台限定。車両価格は500万円と高価だったが、その人気は凄まじく、わずか2日で完売した。