トヨタECO2 【2001】
ミニバンや高級セダンにハイブリッドを拡大展開
地球温暖化による異常気象が世界規模で問題視され始めた1990年代。その対応策の一環としてトヨタ自動車は、内燃機関のガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドの動力源を有する「プリウス」(NHW10型)を、1997年10月に市場に送り出した。世界初の量産ハイブリッド車であるプリウスは、高膨張比サイクルの1NZ-FXE型1496cc直4DOHCエンジン(58ps/10.4kg・m)に1CM型交流同期電動機モーター(30.0kW/31.1kg・m)、そしてニッケル水素(Ni-MH)バッテリーを組み合わせた“THS”(トヨタ・ハイブリッド・システム)の動力源を備え、10・15モード走行燃費で28.0km/Lという従来の同クラスのガソリンエンジン車に比べて約2倍の燃費を実現。同時に、排出ガス中のCO、HC、NOxは規制値の約10分の1に抑え込んでいた。
小型セダンクラスでハイブリッド化を達成する一方、トヨタの開発陣は別のカテゴリー、具体的にはミニバンと高級セダンにおいてもハイブリッド車の設定を計画する。しかも、プリウスとまったく同じシステムを採用するのではなく、それぞれのキャラクターに合わせた新しいTHSを組み込むことに決定した。
2001年6月、量産ミニバンでは世界初となるハイブリッドモデルの「エスティマ・ハイブリッド」(AHR10W型)が市場デビューを果たす。動力装置に関しては、専用の高膨張比サイクル2AZ-FXE型2362cc直4DOHCエンジン(131ps/19.4kg・m)+1EM型交流同期電動機(13.0kW/11.2kg・m)+Super CVTで前輪を駆動する“THS-C”(トヨタ・ハイブリッド・システムCVT)を、さらに1FM型交流同期電動機(18.0kW/11.0kg・m)で後輪を駆動し、かつエネルギー回生も行う電気式4WDシステムのE-Fourを採用。また、動力用主電池にはニッケル水素バッテリー(個数30個/直列接続/容量6.5Ah)を搭載し、加えて操舵装置としてオイルポンプをモーターで駆動し、優れたステアリング操作性と低燃費を実現するEHPS(電動油圧パワーステアリング)を組み込んでいた。
THS-CとE-Fourを組み合わせた先進のハイブリッドシステムは、走行状況に則して最も効率の良い駆動パターンを選択する。停車中はエンジンを停止し、アクセルを踏み込むとバッテリーの電力で瞬時に前後のモーターを動かして発進。エンジン効率が低い低速走行域では、フロントモーターのみで走行する。通常走行時ではエンジン出力をSuper CVTが効率よくタイヤに伝えて低燃費走行。同時に、必要に応じてフロントモーターが発電機として働いてバッテリーへ充電する。全開走行時はエンジンに加えてフロントモーターが補助動力としてプラスし、状況に応じてリアモーターもアシスト。ブレーキを踏んだり、アクセルを緩めた際は前後2つのモーターで自動的に回生発電を行う。
雪道などで前輪のスリップを感知したときはリアモーターが駆動して4WD状態に変わり、必要に応じてバッテリーから電力を供給する仕組みだ。また、電子制御ブレーキシステムのECB(電子制御ブレーキシステム)を組み込んでEBD付きABSやVSC、TRC、ブレーキアシストを統合制御するなど、高度な車両安定性の確保も実現している。
外観上では専用デザインのフロントマスクやサイドプレスライン、内装では最大1500W・AC100V電源を備えるなど、新世代ミニバンにふさわしいエクイップメントを有したエスティマ・ハイブリッドは、10・15モード走行で18.0km/Lの低燃費を実現。さらに、平成12年基準排出ガス75%低減レベルも達成し、世界トップレベルのエコミニバンに仕上げた。
エスティマ・ハイブリッドの登場から2カ月ほどが経過した2001年8月、高級セダンのクラウン・ロイヤルサルーンにもハイブリッドモデル(YA-JKS175型)が設定される。組み込まれた新システムは、“THS-M”(トヨタ・ハイブリッド・システム・マイルド)と称するマイルドハイブリッド・システムだった。
THS-Mは筒内直接噴射(D-4)2JZ-FSE型2997cc直6DOHCエンジン(200ps/30.0kg・m)+1GM型交流同期電動機(3.0kW/5.7kg・m)+電動オイルポンプ付きスーパーインテリジェント5速ATで動力装置が構成される。モーター機能はアイドリングストップからの再発進、および走行アシストのみに限定。通常走行はエンジンをメインに使用する仕組みだ。また、減速時に発生する運動エネルギーをベルト駆動式モーター/ジェネレーター(MG)により電気エネルギーに変換してバッテリーに回収する回生ブレーキシステムやその回収に最適な新開発の36Vバッテリー(開放電圧36V/充電電圧42V)を装備。新MGと36Vバッテリーの組み合わせは、アイドリングストップからの発進とエンジン再始動のスムーズさを実現した。
機構がシンプルで、かつ低コストに抑えられるTHS-Mを採用したクラウン・ロイヤルサルーン・マイルドハイブリッドは、10・15モード走行燃費で13.0km/Lを実現する。また、平成12年基準排出ガス50%低減レベルも取得。同クラスで最高水準の高級エコセダンとなった。
THSの拡大展開で新世代環境対応車のラインアップを大幅に増やした2000年代初頭のトヨタ自動車。ハイブリッドカーの進化にこだわる同社の開発姿勢は、2000年代中盤以降になるとさらなる高次元に達することとなる。