日産デザイン14 【1994,1995,1996】
多様なアプローチで展開した1990年代中盤のRV
1990年代中盤の日本の自動車市場は、4WDステーションワゴンやSUVといったいわゆるレクリエーショナルビークル(RV)が高い人気を博していた。この状況に対して日産自動車は、新世代のRVを積極的に開発。とくに新しいデザインアプローチで企画したモデルを相次いで市場に放った。
日産の新路線のRVは、まず1993年10月開催の第30回東京モーターショーでコンパクトSUVとなって披露される。車名は「未知なる旅の水先案内役=羅針盤」に由来した“ラシーン”。当初はそのスタイリングから「また限定車のパイクカーか?」と噂されたが、周囲の予想を裏切り、翌'94年12月にカタログモデルとして発売された。
「都市生活と自然にやさしく調和する“4WDプライベートビークル”」というコンセプトを掲げたラシーンは、B14型サニー用をベースとするシャシーに、GA15DE型1497cc直列4気筒DOHCエンジンを搭載する。車両デザインに関しては、1980年代に一大ブームを巻き起こした“パイクカー”の大胆さを採用エクステリアは直線基調のボクシーフォルムを基本にレトロ調のディテールパーツを装着し、ボディ色にはナチュラルなソリッド系カラーを取り入れる。ボディ高は一般的なタワーパーキングの1550mm規制以下に収めるように配慮した。インテリアは明るいカラーリングでコーディネート。チェック柄のモケット地シートや脱着式テレビなど、ユニークな専用アイテムも装着する。また、製造については従来のパイクカーと同様に系列会社の高田工業が担当した。
1994年6月には、日産モトール・イベリカ産のテラノⅡが「ミストラル」の車名で国内販売される。テラノⅡの日本仕様化に際しては、オーバーフェンダーやサイドステップの装着、ディーゼルエンジンおよびATのセッティング変更、装備の充実化など、750あまりもの改良が施された。
ボディタイプは7名乗り3列式シート装着の4ドアロングボディ(1996年に2ドアショートを追加)で、パワートレインにはTD27B型2663cc直4OHVディーゼルターボ+電子制御式4速ATを組み合わせる。キャッチフレーズは「欧州生まれの洗練されたデザイン、欧州の合理的なパッケージング、欧州テイストの走りを実現したピュア・ヨーロピアン・オールローダー」。わずか60文字程度のコピーにヨーロッパを示す言葉が4回も出てくるのだが、実車の印象も確かに欧州を志向したことが分かる内容だった。グリルガードやオーバーフェンダーなどを除けばシンプルかつ端正な基本スタイル、実用性に重きを置いた内装デザイン、テラノと共通の懸架機構ながらリバウンド側のサスペンションストロークを大きくとった足回りのセッティングなど、随所に欧州生まれらしい特性が感じられた。
1995年9月になると、ミディアムSUVのテラノが全面改良を実施する。「走りが楽しいスポーツユーティリティ」を商品コンセプトに据えた2代目は、基本骨格に新設計のモノフレームボディを導入。モノコック構造をベースに厚板サイドフレームをビルトインした新ボディは、高剛性化と軽量化を同時に成し遂げる。また、駆動システムには前後輪へのトルク配分をコンピュータが最適制御する新開発のオールモード4×4を採用した。
エクステリアについては初代の端正なスタイルを踏襲しながら、3ナンバーボディを活かした安定感のあるフォルムやメッキパーツの効果的な配置などにより、新世代SUVにふさわしいワゴン感覚のルックスを創出する。一方でインテリアは、ラウンディッシュな造形のインパネや適度なクッション感を持つ前後シートなど、一般的な乗用車と同様のアレンジで構成していた。
1996年10月には、同社のスポーツサルーンであるスカイラインなどの上級モデルのシャシーをベースとしたワゴンモデルのステージアが発売される。開発コンセプトは“プレステージ・ツーリングワゴン”の創出。既存モデルにはない最上級のワゴンクオリティと高性能な走りを両立した、新しいツーリングワゴンの設定を意図していた。
スタイリングは、ステーションワゴンらしい伸びやかなフォルムを基調に、丸型ヘッドランプとフォグランプが生み出す個性的なフロントマスク、ロングルーフを強調したサイドビュー、スクエアで安定感のあるリアセクションなどでプレステージ性を主張する。インテリアは広いキャビンとラゲッジルームを構築したうえで、ラグジュアリーグレードには木目調タイプ、スポーティグレードにはメタリックタイプのフィニッシャーを装着した。後席は6対4分割可倒式の専用タイプで、8段階のリクライニング機構も備える。また本革シートの素材の一部には、手入れがしやすい新素材の“サプラーレ”を採用していた。